チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2011年5月7日

ウーセルさんのツイッターより「ラサの地名変更・植民地支配の象徴」

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DSC_9479ラサの地図(旅行人ノートより)

ウーセルさん(@degewa)は最近ツイッター上で、ラサの道路名等の地名を中国政府がどんどん中国風の名前に変更していることを嘆息する文を発表されている。

道路等の名前を変えることは植民地支配の象徴である。

翻訳:雲南太郎(@yuntaitai)さん

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 (ラサの)江蘇路は銃剣のように殺傷力のある名前だ。しかし、この道がいつから江蘇省と結び付けられたのかはっきり覚えていない。だいたい十数年だろう。チベット問題を知っている人なら、ラサで「援蔵」(チベットの発展支援)をしているのが江蘇省という意味だと知っているだろう。

 いわゆる「援蔵」は実質的に諸侯の割拠のようで、中国各省がケーキを切るようにチベット自治区をいくつかに分けて担当し、「西部大開発」に乗じて私腹を肥やしている。更に自らの偉大な功績を現地に永遠に残そうと、次々に広州路、上海広場、山東ビルなどと建物や道に名前をつけたり改名したりし、あっという間に自治区の地図を書き換えた。


DSC_9482 ただ、早くも文革前にはラサ市街に北京路があった。これはチベット人が言うデキ・ラムを改めたもので、元の意味は幸福の道だ。文革になると更に改名は広がり、バルコルは立新大街になり、ド・センゲ路は新華路に、ユトク路は人民路に変わった。山まで名前を変えられ、チャクポリは勝利峰になった。ノルブリンカは人民公園に変えられ、ポタラ宮は危うく東方紅宮に変えられそうになった。

 ラサが既に歴史や伝統、文化とはまったく無関係の新しい名詞の中に埋もれているのは明らかだ。よそから来た「解放者」は自分とは何のかかわりもない古城に、まるで新味がなく傍若無人な革命的地名学を打ち立てた。

 今日の改名や命名は文革時代よりはましで、チベットのランドマークに中国各地の地名をさらりと使い、イデオロギー含みの名前ではなくなっている。これは一体どんな目的や計算からなのだろう?よく知らない地名から帝国の力を感じさせ、慣れるしかないという状態で土地の記憶と伝承を失わせるためだろうか?

 それとも、故郷の地名がつくり上げる帝国版図のイメージの中で、増え続ける移民に生活してもらうためだろうか?一つ一つの中国各地の地名はチベットを完全に「中国」化し、徐々に「中国」の符号の中に消失させるためのものだ。もし世界的な観点で見るならば、これはつまり完全に植民行為だ。

 元々あった本来の自分たちの地名が変えられてしまう。これは本当に恐ろしいことで、記憶を塗りつぶす陰謀で、過去とのつながりを断ち切る刃物で、一夜のうちに変わり果ててしまう悲劇だ。漢人地域からラサに帰るたび、チベット人の土地に帰ったのではなく、漢人の通りを行きかっているように感じる。

 あれらの通りの名前はほとんど漢人地域の地名で、あれらの商店の名前も基本的に漢人地域の商店名で、正面から見ても、すれ違っても振り返って見ても、よく知るギャミ(チベット語で「漢人」)の様子だ。私はまるで漢人の土地を少しも離れておらず、どれだけ遠く長く歩いても、依然としてしっかり握られた手のひらに閉じ込められているようだ。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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