チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年4月2日
チベット人僧侶が制作したジェクンド地震ドキュメンタリーフィルム没収
日本では今回のような大災害がおこれば(中には非難専門の人もいるが)一般に助け合いを称賛、奨励するのは当たり前。だが、チベットでは災害の時でもチベット人同士が団結を訴えることは禁止されているのだ。
去年4月14日のジェクンド(ケグド、ユシュ、玉樹)地震からすでに一年が経とうとしている。現地では今もテント生活を強いられている人が大勢いるという。そんなジェクンドでの話。
1人の僧侶がジェクンド地震後のチベット人の助け合い、団結を称賛するドキュメンタリーフィルムを制作した。タイトルは「災難中の希望(ཉམ་ཉེས་གི་རེ་བ་ 灾难中的希望 Hope in a Disaster)」。このフィルムは地元のチベット人の間で人気となった。しかし、当局はこのDVDを発禁とし、ジェクンドの3つの店と隣の町ナンチェンの2つの店からこのコピー数百枚を押収した。このフィルムを上映した町のレストランは罰金を課せられ、DVDプレーヤーとプロジェクターを取り上げられた。
さらに、当局は制作者である僧侶の自宅から3000枚のDVDコピー、パソコン、タンカその他3万元相当の物品を押収した。当局は彼が「関係当局」からの許可なしにフィルムを配布したからだと言ってるそうだ。
しかし、町の人々は本当の理由は「フィルムが地震後のチベット人の団結を称賛しているからだ」と思っている。このフィルムの中に使われている「団結の歌(「一つになろう」シェルテンの歌と思われる。歌と歌詞日本語訳http://p.tl/GsV6)では「雪の国のチベット人は一つになろう!」とカム、アムド、ウツァン3地区のチベット人が一団となり助け合うことが説かれている。
チベット人はカム、アムドは同じチベット人の一地方と思っているが、中国はそこはチベットでなく昔から四川省、青海省の一部と認識させたいと思ってい
る。
制作者である僧侶が逮捕されそうだという噂を聞き、ナンチェンのチベット人4~500人が連署で当局に彼を逮捕しないようにと請願書を提出した。ジェクンドとナンチェンのチベット人リーダーたちも、「社会の安定を阻害する危険性があるのでこの問題を慎重に扱うよう」当局に要請したという。
現地の人々の話によれば、地震後何本かのフィルムが出回った。その多くは政府のプロパガンダ用であり、中国の軍隊が如何に被災者を救ったかが描かれているという。
「自分たちは仲間内でこっそりこのフィルムを回して見ている」
「政府は自分たちが真実を知る事を恐れているのだ」と話す。
参照:3月31日付けRFA英語版http://p.tl/JmUE
ジェクンド地震追悼曲集:http://p.tl/uT-Q
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)