チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年4月1日
アムドのある高校生に双語教育についてインタビュー
昨年の秋アムドでは、当局の漢語強要に反対する中学生、高校生による抗議デモが多くの町で行われた。当局はこれを無視、学校でのチベット語のクラスを除く教育メディアが全て漢語となり、多くのチベット人教師が解雇された。当局はこれを「双語教育」と呼ぶが、実際には漢語優位教育であることは明白だ。
この一連のデモが起こる前、アムドの高校生にインタビューしたという記事が、あるブログに掲載されていた。ブログはケサルという北京在住のチベット人のもの。彼は2010年の5月にツォエ(合作)で1人の高校生に双語教育に関する話を聞いたという。
3月12日付け、原文:http://p.tl/eOKp
翻訳:雲南太郎(@yuntaitai)さん。
ツォエではこの後デモが起きているが、はたしてこの高校生はデモに参加したのだろうか?
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◎双語教育インタビュー:チベット人高校生の視点
タシ(高校2年、主にチベット語を使う)
―将来の夢は?
力の限り祖国と民族に貢献したい、これが最大の夢です。家はそれほど裕福ではないので、僕を学校に通わせるために両親はとても苦労しています。ここでしっかり勉強し、先生の指導や両親の言いつけをしっかり守りたいです!将来は故郷建設に励もうと思っています!
―クラスには何人いる?
69人。
―君の成績はどう?
1年生の時は前から5番目だったけど、今は14番目に落ちた。
―えっ、ずいぶん落ちたね!
アハハ。うん、そうなんだ。
―君の家はどこ?
サンチュ(夏河)の勒秀郷(ツェエの南30キロ、チベット名不明)。
―授業は何科目?
10科目。
―どの科目が一番好き?
個人的にはチベット語が一番好き。まずチベット語は母語だし、小さいころから話していて、勉強してみれば当然簡単だし、授業以外の本を読むのも好き。漢語はちょっと難しいと思うし、特に文語文はもっと難しいよ。でも漢語の使い道は幅広いから頑張って勉強してるし、自信はあります。もししっかり勉強しなかったら、貴重な道具が一つ減るようなものでしょ。だからチベット語と漢語は同じように頑張って勉強しないといけない。
―ほかの教科はどう?文系と理系のどっちが好き?
文系が好き。班の69人のうち理系を選んでるのは十数人しかいない。
―へえ、どうしてそんなに少ないの?
うん、自分の進路と関係があると思う。たとえば中央民族大学には理科類の募集がなくて、文系の募集だけがある。クラスメートはみんないい大学を受けたがっているので、自然と文系が多くなる。
―今の教材の内容には満足してる?
理系の内容についてはよく知らないので、文系について言うと、チベット語の内容は簡単すぎて、知識は少ないし、範囲もとても狭い。中高生の僕らにすれば、内容をもっと豊富に、もっと深くしてほしい。教科書もあんなに小さいし。
漢語について言えば、今の教材の難易度は大多数の生徒にすればちょっと難しい。
(チベット人の多い中国の)5省区共通の教材を使ってるんだけど。元々、基礎があまり良くないし、難易度がいったん上がると勉強するのは少し難しくなる。
―漢語の先生の授業はどう?
うん、答えられない問題がとても多いから、授業は活気がない感じ。
―漢語の先生はチベット語を話せる?
話せない。一言も話せない。
―ふうん。漢語の授業にチベット語での補助は必要かな?
やっぱりたまには必要。分からない部分はチベット語で少し説明すれば理解できるし、覚えられる。でも漢語の授業はやっぱり訛りのない標準語で話すのがいいとされてるでしょ。今の漢語の先生が話しているのも標準語じゃない。
―うん、英語の授業もあるけど、補助は漢語?それともチベット語?
漢語の補助があって、文法の説明はよく分からないことが多いよ。チベット語の補助がほしい。チベット語ならずっといい。元々、英語の基礎もひどいし。
―英語を学ぶ必要はあると思う?
間違いなく必要だよ。英語は世界語だし、全世界の科学知識が英語にまとめられているし、絶対に勉強しないとね。
―漢語の会話能力を高めるのにいい方法はあった?
うん、ああ、クラスと宿舎で漢語の標準語を1日話して、別の日にはチベット語の標準語を話すという風にやってみたことがあるけど、続かなかった(笑)。
―今のチベット語と漢語、英語の教育について意見はある?
まず、三つの言葉の勉強は必要だと思う。ちゃんと勉強する自信はある。次に、いい先生(専門の先生)に担当してもらいたい。一番いいのはチベット語と漢語の両方ができる先生。漢語の先生は標準語を話してほしい。
―最後の質問。(少数民族中心の)民族学校のレベルは普通高校より低いけど、どう思う?
これはですね、普通高校は歴史が長くて経験も豊富で、効果の上がるやり方を見つけてるからでしょう。僕らは発展してきた期間がすごく短いから、今はもちろん普通高校より遅れてる。アメリカは200年以上発展してきて、僕らの国は開放、発展の歴史が30年ちょっとになったばかりで、アメリカより当然遅れてる、というのと同じこと。僕らの国はすごい勢いで発展しているし、近い将来にはアメリカに追いつくと信じてる。僕らの民族高校の状況は国の状況と少し似て
るんだ。近い将来、僕らも普通高校に追いつけます。
2010年5月 ツォェ(合作)にて
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)