チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年3月3日
何清漣「情報貧者は放送が必要」
VOA(アメリカの声)とRFA(自由アジア放送)は言論統制の厳しい独裁国家の下にある人々へ、隠された真実を伝えるために、アメリカ政府がスポンサーする放送局である。対象は主にビルマ、ベトナム、中国(チベット、ウイグル、内モンゴル)。チベットを初め中国国内でこの放送に密かに耳傾ける人は多い。
最近アメリカ政府はこれらの放送に対する中国の抗議に屈したかのように、この内VOAを廃止する方針を明らかにした。もっとも、実際に廃止するには議会の承認が必要。まだ最終決定ではない。
この件に関連し、中国のコラムニストである何清漣女史が、最近の「中国ジャスミン革命」を引き合いに出しながら、中国の情報操作の現実とインターネット状況を分析し、この手の情報源の重要性を説いている。
以下、ツイッター上に@tkucminyaさんが翻訳掲載して下さったもの。
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何清漣@HeQinglian女史
「情報貧者は放送が必要」2月28日2011
原文:http://ow.ly/45hDm
翻訳:@tkucminyaさん
220ジャスミン革命以来、これに関係する中国ネットは攻撃を受けるなど異常現象が起き、情報ネットワークのパイプの多元化の必要性を痛感させた。
2月26日米東部時間で午前8時ごろ、ツィッターに入れなくなった。以前のようなアクセス過量に因るのでなく、サイトが全く開けなくなったのだ。10時20分に再度試すと正常になっていた。
これは孤立した現象ではない。2月27日はネット上で中国第二次ジャスミン集会が開かれると発表された日だった。中国に関係する通信機器はすべて異常をきたした。国内のメールも届かず、国内のケータイメールも一日遅れで届くありさま。
例えば、ケータイメールの文中にジャスミンとか「明日」とか「両会」などの文字があれば届かなかった。新浪ミニブログでもこの様な目にあったという情報は大変多かった。ジャスミンの情報を伝えた「博讯」(*在外中国人主催)や、やはり中共批判の盛んな阿波罗网も、この日攻撃された。国内の多くの活発なツイ友もソフトが故障した、と。11時半になってやっとyoutubeが順調に見られた、という。
これら全ては中国ネット上で何度も指摘されている意見を証明している。「VOAとBBCの中国放送は止められない。高度な技術手段による情報伝達である。しかし脆弱で、当局が強制すればたちまち麻痺する」と。中国は現在社会的反抗が頻発する時期だ。この特殊な時期に当局は新疆75事件以後、おなじみの古手口でネットを閉鎖し、ケータイを遮断し事件発生地と外部の連携を断ち、封鎖状態として事態を収拾する。新疆では09年7月5日から欲念の5月14日まで10か月もインターネットが切断され、新疆人は「情報貧困者」にさせられたのだった。
所謂「情報貧困者」は技術制限などで情報を受け取れない人のことをいう。中国がインターネットメディアに厳しい制限をしているために、自由国家の人々に比べると、少数の翻牆できる人以外は大部分が相対的貧困状態である。しかし、今言いたいのはそうではなく、インターネットを使わない人々に対して、ふだんから放送局が必要だ、ということだ。インターネットは全く新しい情報伝達時代を開いた。やってる人は所謂デジタルデバイドに思い致すことはあまりない。(ここでデジタルデバイドの説明~略~)
中国の様な情報管理が厳しい国ではまず、どこに「情報貧者」がいるかまず明確にする必要がある。これらの人にVOAの中国語放送がなぜ必要なのか?私は自分が8、9年、ゲストとして出演していた経験である程度わかる。
まず、情報伝達方法は多元化したが同時に細分化もしている。中国ではネットは決して完全に伝統的メディアに取って代わってはいない。その主な原因は広大な国土の全てをネットでカバーすることはできないからだ。ただ中国の市場は他の途上国とちょっと違う。他では細分化は年齢層の違いによる。しかし中国では主に経済条件によるのだ。一般にネットに接続できる人は一定の技術水準の他、経済力ー設備やネットの費用ーが必要だ。だから個人収入も重要な指標となる。世界銀行によれば中国のネット使用費用は平均収入の1割で、これは途上国の十倍にもなる。09年の中国人平均収入は米国人の4分の1、ネット費用は10倍なのだ。これらが原因となって現段階の中国は主に農村地区の数億人がインターネットを使う経済的力がない。中国政府以外の外部の情報を得たいと思えばVOAやBBC、自由アジア放送(RFA)の中国語放送に頼るしかないのだ。
放送の視聴者は3種ある。❶2、3線級都市の時事問題に関心のある人。経済的理由でたまにネットカフェに行く層❷60歳以上の退職者。元役人、知識人、パソコン苦手だが広い知り合い。人口の13%❸身障者(同6.34%)特に盲人。この3種の人々は経済的、技術的原因でネット時代の弱者になっている。VOAの視聴者調査は大都市集中で地方都市のこれらの人を調査対象から漏らしている恐れがある。もしVOAが放送を中止すると最大の損失を受けるのはこれらの人々なのだ。
例を挙げると、2月20日以来のジャスミン革命で2、3線級の都市住民はインターネットではなく、職場でこの事件を知ったのだった。(当日、外へ出ちゃ行けない、とか警備に出ろ、とかで)。で、何が起きたのかとVOAや自由アジア中国語放送を聞いてやっと中国でジャスミン革命が起きようとしていることを知ったのだ。彼らはスローガンに共感し、もし類似の事があったら喜んで参加したいと思っている。
中国の実状を考えると、もしVOAが停止したら、多くの中国民衆が本当にガッカリするだろう。情報を得る手段が無くなるだけでなく、中国人民が自由を獲得しようとする事への支持が無くなったと思うだろう。インターネットに過大に依拠して中国人が十分外部と交流できると思って、その限界や新疆の例を軽視したりすると、中国の国情を間違って判断しかねない。中国には明らかにデジタルデバイドが存在し、放送は止めるどころか、より強化しなければいけない。それが中国のインターネット切断状況でも唯一、情報を伝えるチャンネルなのだから。(終)
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)