チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2011年2月13日
ポン湖の野鳥 その3
数日前に3度目のポン湖遠征に出かけた。
遠征といっても、まっすぐ走ればダラムサラから2時間で着く近場ではある。ただ、冬にバイクで走ると思ったより寒くて、寒さと肩こりでちょっと辛かった。
(写真はクリックすると大きくなる/追記あり)
写真左:ダラムサラから下の平原に下りると、もうそこには春が来たかのように菜の花畑が広がっていた。
バックにはダウラダール山脈と呼ばれる、5千メートル弱の山々が白い屏風のように立ち上がっている。この山脈はヒマラヤ山脈の南の支線。ダラムサラのすぐ裏にあるが、平原に下りて眺めると、全く違った形に見える。
右から2番目の峰がダラムサラの裏に高く尖って見える、ムーンピーク4810m。私が山頂で寝た山。
2度行ってるはずなのに、なぜか道に迷い遠回りをしてしまった。写真左はポン湖の南東端付近で幅が狭まっているところ。
この湖は実はダムによって作られた人造湖。1975年に作られた。長さ42km,最大幅2km、面積240平方kmというかなり巨大な湖。
琵琶湖の1/3以上の大きさだ。
周りの湿地帯には400種類以上の野鳥がいると言われ、野鳥の宝庫となっている。
2度行ってるのに、どうしても湖畔にでるまでの道がなかなか見つからず、何度も行き止まりの道に迷い来んだ。
一度湖畔に出ると、そこには広々とした冬場だけの湿地帯ができている。道もない広い平原を走るのは気持ちがよいものだ。
今回は雁や鴨、鵜の大群に出会ったが、種類的には新しいやつはあまり撮れなかった。
以前2回ここに来たときの写真を見ていない人のために、以下、過去ブログを参考にお知らせする。
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51279353.html
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51432296.html
今回のポン湖遠征の目的はチベットからはるばるやって来た渡り鳥を観察、撮影することだった。
あいにく新種は多くなかった。
でも、まあ、この可愛い「バー頭雁」Barheaded Goose (Anser indicus) 75cm にまた会えたのは嬉しいことだった。
この湖にはこの雁が1万羽はいると言われている。一説には世界中のこの種の半数がここにいるという。
11月から4月までここにいて、その後はヒマラヤを越え、チベット、アムドの青海湖辺りにしばらく滞在し、その後シベリアまでも飛んでいくという。青海湖やシベリアで卵を産み、子育てするそうだ。
この鳥は世界でもっとも高所を飛ぶ鳥と言われている。ウィキペによれば10175mの上空を飛行するのが確認されたとある。
他の雁に比べ、体重比で広い翼を持つこと、血中のヘモグロビン濃度が高いことがこの高所飛行を可能にしていると。(チベット人の様)
ジェット気流に乗ることで1日で1600kmも飛ぶことができると。
そうであるならば、チベットまでほんの数日で到達することになる!
パスポートも面倒なビザも入域許可もいらない!
仲間と楽しくヒマラヤの上をひとっ飛びというわけだ。
チベット人も生まれ変わりたいという憧れの鳥?
まだいるかどうかは不明だが、日本の多摩動物園に3羽いることになっている。
Ruddy Shelduck (Tadorna ferruginea) 66cm
もう一種のチベットから飛んで来たと思われる鳥がこの雁カモ。
この鳥は仏教では聖なる鳥とされている、と同じくウィキペにある。
スラブの神話においても聖なる鳥であるそうだ。
サンスクリット語ではchakravaka (चक्रवाक, IAST: cakrav���ka) or chakra (चक्र), と呼ばれ、またकामिन्, कोक, or द्वंद्वचर/द्वंद्वचारिन् (“living in couples”).と呼ばれるとある。チャクラバカは笑える名前だが、インドの文学ではこのチャクラバカ鳥は仲の良いカップルの象徴として詩などに歌われるという。
仲の良い夫婦などを「チャクラバカ夫婦」と言うそうだ。
日本の「おしどり夫婦」のインド版と思えばいい。
この鳥は群れを作らず、大概二羽の番いで暮らしているらしい。
確かに、私の見たのも二羽一緒だった。
チャクラバカ・カップルは夜ごと対岸に離ればなれになり、相手を呼びながら、日の出を待ち焦がれる。そして昼間にまた合流するのだと。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ruddy_Shelduck
追記:渡辺一枝さんからのこの鳥に関する情報。
「日本にも冬稀に飛来し、日本名は『アカツクシガモ』。
チベット人は、この鳥は魚は食べず水草だけを食べて生きていると言います。だから『鳥のお坊さんです』などとも。でもそういう彼らも『この鳥はいつも夫婦で居ます』と言ってます。」とのこと。
鴨の群れ。色んな種類の鴨が湖の一角を黒い砂洲と見紛うほどに群がっていた。
真っ黒い鵜の群れ。
飛び立つ鴨と鵜の群れ。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)