チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年12月19日
WikiLeaks:2008年、ダライ・ラマはアメリカに対し必死の嘆願を行った。
WikiLeaksは様々な国に様々な波紋を投げかけている。
チベットに関わる米外交文書のリークによりこの狭いチベット亡命社会にも様々な反響が出はじめている。
今までに発表された、直接チベットに関わるリークをイギリスのguardian紙がまとめ、12月16日ネットに発表した。
それは以下の5件。
1、US embassy cables: Dalai Lama made desperate plea to US for help during 2008 unrest
2008年の騒動の際、ダライ・ラマはアメリカに対し必死の嘆願を行った。
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/149327?intcmp=239
2、US embassy cables: Dalai Lama says prioritise climate change over politics in Tibet
ダライ・ラマはチベットの政治問題より環境問題が優先されると語った。
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/220120?intcmp=239
3、US embassy cables: ‘Widening generational divide’ between Tibet’s leaders and youth
チベットの指導者たちと若者たちの間の「世代間分裂」が広がる。
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/160094?intcmp=239
4、US embassy cables: Tibetan frustration with the ‘Middle Way’
「中道路線」に対するチベット人のフラストレーション。
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/248429?intcmp=239
5、US embassy cables: Tibet protests put India in awkward spot
チベット人の抗議活動によりインドは難しい立場に追いやられる。
http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/147313?intcmp=239
おおかたの情報は既知のものが多いが、中にはもちろん全くこれまでに公にされていない情報もあり、我々にはやはり興味深い。
2番目のリークなどに対しては、この狭いチベット亡命社会においてすでに少なからぬ反響を巻き起こしている。
TYC(チベット青年会議)を中心に「こんな発言をするとは!」と反発も出ている。
これは「法王の直接の発言ではなく、米外交官のコメントに過ぎない」となだめにかかる者もいる。
出口の見えない中国との話し合いと、アメリカが中国に対し効果的な圧力をかけられないと見限った法王が、新しい切り口を「環境」に見いだそうとしたとも読める。
ま、これなどは法王自身がその内解説されるような気もするので、それを待つのが懸命と思われる。
今日は1番目の「2008年の騒動の折ダライ・ラマはアメリカに対し必死の嘆願を行った。」の中から幾つかの節を紹介する。
2008年の3月、ラサから始まったチベット全土の一斉蜂起に対し、如何に法王が心痛め、何とかしたいとの必死の思いを起こされたかが伝わってくる。
それと同時にその法王の痛ましい親心を利用しようとする、中国の汚い手口もここに明らかにされている。
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2008年4月10日 ニューデリー
Thursday, 10 April 2008, 11:51
C O N F I D E N T I A L SECTION 01 OF 02 NEW DELHI 001035
STATE FOR TIBET COORDINATOR DOBRIANSKY
SUBJECT: DALAI LAMA PLEADS FOR U.S. TO PERSUADE CHINESE
<ダライ・ラマはアメリカに対し中国を説得してほしいと懇願する>
1.アクション要請は第7節
2.(C/REL UK, CANADA, AUSTRALIA)
摘要:ダライ・ラマは4月9日、アメリカに発つ数時間前PolCounsを呼び出しメッセージを伝えた:
すべての効果的方法を使って中国政府が彼(DL)との対話に臨む事を促してほしいと。
彼は、最近の出来事によりチベット人の将来についての憂慮が募って来たという。
この際、彼は自身の「中道路線」への誓約を再確認した。
――「中道路線」とは中国政府がチベット人固有の性格を尊重し、彼らの真の地方自治を許す限り独立を求めないというもの。――
ダライ・ラマは北京との行き詰まり打破を求めた。
ダライ・ラマはMulford大使との会話を思い出しーーー中国は力のみを敬う。だからアメリカは北京に対し「インパクトのある」行動を取る事を要請するーーーと語った。
30分間の会談の末に、ダライ・ラマはPolCounsを抱きしめながら、最後の嘆願を口にした。
「チベットは死に絶えようとしている。我々にはアメリカの助けが必要だ」と。
4.PolCounsと会う直前、ダライ・ラマはXXXXに会った。
ダライ・ラマはXXXXは中国の仲介者と連絡があり、以下の取引が可能であると彼に伝えたと語った。
もしも、ダライ・ラマがオリンピック・トーチの平和的チベット内通過を支持するならば、中国政府は3月10日以降に逮捕されたチベット人たちをいっせいに開放するであろうと。
7.行動要請:ダライ・ラマからジョージ・ブッシュ大統領、ライス国務長官、ナンシー・ペロジ下院議長、ハリー・レイド議員へ宛てたイーメイルと書簡には、
アメリカ政府が中国政府に対し、現在行われているチベット人への弾圧を直ちに終わらせるよう、捕らえられたすべてのチベット人を開放し、彼らが適切な治療を受けられるよう要請してほしいと書かれている。
また国際的オブザーバーとメディアグループが、チベット自治区の影響を被った地域に赴き調査することに中国が協力するような助力をお願いする、と書かれている。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)