チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年12月6日
亡命チベット社会の人口統計
先週、亡命政府の計画委員会(The Planning Commission)が亡命チベット社会の人口統計を発表した。
実際には人口だけでなく、その他の細かいデータが調査されていて、「国勢調査」と呼べる立派なものなのだが、悲しいかな今、国はないので「人口統計」と呼ぶしかないのだ。
調査は初め、前調査から10年経った2008年に行われる予定だったが、この年チベット本土で一連の蜂起が起き、政府も亡命社会も落ち着かなかったということで、結局その翌年2009年4月12日に実施された。
今日、計画委員会に行って、この報告書を手に入れてきたので、その中からいくつかの数字を拾いながら紹介する。
まず、この調査によれば、チベット本土以外に住むチベット人の総数は127,935人で、1998年前回調査の111,020に比べ16,915人増えたという。
内訳はインドに94,203人、ネパールに13,514人、ブータンに1,298人、その他に18,920人となっている。
このその他の内訳を見るとヨーロッパに5,633人、アジア・オーストラリアに1,120人、北米に11,112人、アフリカに9人、その他に1,046人となっている。
ヨーロッパでチベット人の多い国をいくつか挙げると、スイスに2,830人、ベルギーに863人、イギリスに501人、フランスに486人、ドイツに299人。
アジア・オーストラリア地区ではオーストラリアに509人、台湾に376人、日本には176人いることになってる。
北米ではアメリカに9,135人、カナダに1,977人。
インドの中で一番多いのはダラムサラで13,701人。10年前には8,111人だったから増加率は相当だ。
その他南インドのセトルメント、Doegulingに9,847人、Lugsamに9,229人いる。その他の南インドのセトルメントを合わせると約3万人が南インドにいることになる。
もっとも、国籍を持っていないとか、今申請中だとかいうことで意図的にこの調査に漏れている人と、実際に拾いきれなかった人を合わせると、概算見積もりで約15万人のチベット人が本土以外に住んでいるであろうと、報告書は述べている。
出生率は1987~89年にかけて4.9だったものが、1998年には1.22に急降下。
2009年にはたったの1.18になったと。
これは日本の1.3よりも低い率だ。
女性の教育レベルが上がったためとか言ってるが、これはちょっと異常に低いと言えよう。
幼児死亡率は1998年より60%改善され15.44/1000になったが、平均余命は今回の調査では67.45年であり、これは前回より5.05年も縮まったという。
子供も生まれず、老人も増えずでなぜ人口が全体で増えてるのかというと、もちろん、この間どんどん新しく本土から亡命してくる人がいたということなのだ。
平均余命が縮まっている現象に対する説明の一つとして、「TB(結核)やマラリアで死亡する人は減っているものの、HIV/AIDSや事故、自殺が増えている」と書かれているが、ちょっと説明になってないような気がする。
チベット医学も良いが、余命率を上げてこそ医療、ここはもっと根本的改革をして頑張ってほしい。
もちろん、インドの医療システムにも問題があるのだが、、、
チベット人、栄養学的知識が乏し過ぎるのもあるよな~、コルラ以外の運動もしないし、、なんて思ったりする。
もっともインドの平均余命は2008年に63.7歳というから、それよりはマシと思えないこともない。
男女比を見ると798/1000で断然男性が多い。
一つにはまだまだ男の子を望む社会風潮があることと、もう一つは亡命してくる男性のほうが女性より多いということが理由であろうと書かれている。
識字率は98年の69.3%から09年には79.4%になり、この間約10%アップされたという。
農業就労人口は22.5%から8.1%にダウン。
西欧諸国への移民については、1998年から2009年の間に9,309人が移民したとし、大人の中で現在西欧に移民したいと望んでいる人の割合は68%に上るそうだ。
本土から逃げ出したい人は大勢いるであろうが、国境警備も厳しさを増し、これからも、ネパールを越えて亡命してくる人の数は減り続ける事だろう。
一方インドやネパールを捨てて西欧に移民する人の数は増えるばかり。
出生率の低下もあって、これからチベット亡命社会は減少期に入るのではなかろうか?
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)