チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年12月4日

チベット高原の花が遅く咲き始めた

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メキシコのリゾート地カンクンでは、先月29日から、世界の環境問題を話し合うCOP16/CMP6会議が開かれている。

もっとも、今回も2大環境汚染国である中国とアメリカがCO2排出規制を拒否する可能性が高く、全体の法的規制も議決されないという効果の薄い会議になりそうだ。

今日は、まず、世界の第3極と呼ばれるチベットの環境問題を訴えるビデオを2つ紹介する。
1、カナダ・チベット委員会(CTC)制作の「チベット高原/第3極」
ダライ・ラマ法王自ら解説を行われている。
http://www.youtube.com/watch?v=i2BMvL8gJxI

2、ヒマラヤの氷河/アジアのウォータータワー「溶解」
http://sites.asiasociety.org/chinagreen/feature-the-melt/

次に、Phayulに掲載されていた、地球温暖化がチベット高原の植物に与える影響についての記事を紹介する。

チベットの草原の花々の開花期が遅れ、牧草が減少するという話。

写真:TAO Images Limited / Alamy

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チベット草原の花々<チベット高原の開花期が遅れる>
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=28646&article=Plants+flowering+later+on+the+Tibetan+Plateau

Nature News[Tuesday, November 30, 2010 18:11]
By Hannah Hoag
「世界の屋根」の暖かい冬が植物の生育期間を縮める

多くの地域では温暖化の影響により、春の開花期が早まったり、落葉期が早まったりしている。
しかし、チベット高原の草原や湿地帯では逆の現象が起こっている。
植物の開花期が遅れ生育期間が短くなっているのだ。
この変化は草原で放牧することにより生計を立てる、多くの遊牧民の生活を脅かす可能性がある。

「私は25年に渡り、チベット高原地帯を歩き続けて来た」と昆明の世界農林センターに所属する民族経済学者(ethnoecologist)のJianchu Xu(许建初)氏は語る。
彼はまた中国科学院の昆明植物学院の教授でもある。
今週かれは国家科学院に以下の論文を提出した。
http://www.pnas.org/content/early/2010/11/18/1012490107
彼はチベット高原の開花期も他の地域のパターンに従い、その開花期が早まるものと予測していた。
例えば、ヨーロッパでは1971年に比べ2000年度の春の開花期は平均8日早まった。
そして秋の紅葉は3日早まったという報告がある。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2486.2006.01193.x/abstract;jsessionid=F42758CF3D8FE116123682ED3D9D0606.d03t01

「しかし、私の博士課程の生徒であるHaiying Yuは最近のデータを基に(チベット高原において)反対の現象を発見した。温暖化ラインと植物生育期の連動ラインに矛盾ラインを発見したのだ」とXu氏は語る。

研究班はサテライトデータを使って、1982年から2006年までのチベット高原における高原地帯と低地湿地帯の植物生育期の始まりと生育期間、その終わりについて、温暖化と関連付けながら精査した。
この期間を通じ高原地帯における気温上昇は平均1.4度C、より低地の湿地帯においては1.25度Cであった。

生物季節学(phenology)的調査により、高原地帯、湿地帯ともに最初の15年間は生育期が早まるという現象が起こっていることが判明した。
しかし、2000年から2006年までは、この現象が逆行していたのだ。
全体にみれば、この期間高原地帯では1ヶ月、湿地帯では3週間の生育期間短縮が観察された。

寒冷地域の植物は冬期の凍結を避けるため、冬には休眠期に入るように進化してきた。
しかし、高原の温暖な冬期は春の生育開始を遅れさせる。
これは植物の冬眠に必要な寒冷条件が十分ではないからだ。
植物には春、目覚める前に一定期間の冬眠期間が必要であるからだ、と教授は語る。

これに対し、トロント大学の生物進化学者であるArthur Weis氏は「この考え方は存在していたが、温暖化に対する植物の反応がこれほど早く現れると予測した人は少なかったと思う」と述べている。

モントリオール、マックギル(McGill)大学の植物エコロジストMartin Lechowicz氏はこの調査結果に驚かなかった。
Lechowicz氏とその仲間たちは21世紀になってからの北米大陸の22種類の樹木の発芽時期に関する調査を行って来た。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2486.2008.01735.x/abstract
その結果、ほとんどの種類の発芽時期は早まる傾向が認められたが、数種類の樹木については冬期の寒気が十分でなかったことが原因で、数年間異常な発芽時期をとるものがあったという。
「植物が四季の気候変動に対応するための内的気候制御システムは、様々な気候変動モデルが植物の生育期に与える影響に対応しきれていないようだ」とLechowicz氏は語る。

チベット高原の草原は、地元の人々によりヤクや羊の放牧地として利用されている。
「この植物生育期の変化は牧草地のバイオマス(植物量)の減少を意味している」とXu氏は言い、「遊牧民たちは家畜への十分な飼料を確保するために何らかの新しい方策を考えだす必要に迫られるであろう」と続ける。

「驚くことではないが、非常に興味深い」とLechowicz氏。
さらに「しかし、もっと詳細なデータがほしいところだ。現場に人を送り種類ごとの調査が行われることが望ましい。そうする事で、植物コミュニティーの中で本当には何が起こっているのかを知る事ができよう」と語った。

Xu氏は、生物季節学(phenology)の見地から、変化を厳密に理解するために、冬期温暖化に対する植物の反応を種類ごとに調査する計画があるという。
「これにより、おそらく高原で牧畜する者たちへ、牧草地減少に対応するための何らかの方策を提案できるかもしれない」と話す。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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