チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年10月6日
温家宝のお言葉/”国慶節”によせて – 最近逮捕された3人のチベット人作家たち/さらに仲間が1名
先の日曜日、中国の首相温家宝はCNNとのインタビューの中で「私を含めすべての中国人は『中国が引き続き発展し、人々の民主主義と自由への意思と必要性には逆らえなくなるであろう』ことを確信している」と述べた。
また「共産党指導者の間に政治改革を巡り対立が存在する」ことも初めて認めた。
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=28262&article=Chinese+Prime+Minister+calls+for+political+reform+in+China
さらに「私は言論の自由はすべての国において必要欠くべらかざるものであると信じる」と述べ、さらに「この流れに乗るものは生き残り、反対するものは脱落するであろう、、、私は強風や激しい雨にも関わらず脱落することはない。人生の最後の日まで屈することはないであろう」と語った。
また、自分と胡錦濤主席に代わって2012年から始まる新しい世代の指導者たちも、この「(言論の自由という)人民の意思」に逆らうものは「脱落」するであろうと警告した。
他にもいいことを沢山言ってる。
例えば、「政党は権力を握った後には権力闘争の時代とは違った形態を取るべきだと思う。もっとも大きな違いは政党も憲法と法律に従って行動すべきとだということだ」とか。
これなど、自分でちゃんと、「共産党は法律に従っておりません」と宣言してるようなもの。
で、このような恩さんの発言に対して、@furumai_yoshiko女史の紹介する、中国のツイッターなどでは、
たとえば、
「温家宝首相が言う『政治改革』って、遊びなれた男が言う『愛してるよ』とおんなじで、簡単に口から飛び出るし、相変わらず天真爛漫な少女たちを陶酔させる魅力を持っているんだな」by @mozhixu
とか、
「30年が過ぎた。(外地の)一時居住権、(土地の)レンタル権、そして(企業の)所有権ができた。これが人権成績表のメインだろ? すごいよな。後何があったっけか、誰か補充してくれ」by @mozhixu // 温家宝首相の人権進歩のスピーチに不満続出中。
とか、
「民間が新聞や雑誌を起こせるか? ニュース出版が明法化されたかい? 言論による罪がなくなったかい? もし、ここ30年来に言論の自由が本当に進歩したというんなら、ぜひ教えてくれ。俺の目には全然見えねぇよ」by @mozhixu
とか、
「改革開放30年余り、当局の最大の功績は、人民の手足を縛っていた縄を緩めて、自分で土地を耕したり、商売をしたり、外に出かけて働けるようにした。確かに、それはそれなりに進歩だ。だが、どこの国が自分の国の人間の手足を縛り続けておくべきだと考えるだろうか?」
とか
「話をする人が多くなったり、思い切った話をする人が増えると、言論空間が広がったというイリュージョンをもたらす。でも、もしかしたら、本当に広がったのは監獄の空間だったりして」
というのがあると、uralungtaさんが教えてくれた。
以下の記事をアップするための前座に始めた恩さんのインタビューが思わず長くなってしまった。
今日の本題はーー温さんのお話は癖になった俳優さんの演技なのかーー今もチベットでは厳しい言論弾圧が続いており、次々に作家などが逮捕されている、という事実をお知らせすることなのだ。
以下、ウーセルさんの10月1日付けブログと、昨日入ったもう1人のチベット人作家の逮捕について報告する。
http://woeser.middle-way.net/2010/10/blog-post.html
(写真はすべてウーセルさんのブログより)
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“国慶節”によせて – 最近逮捕された3人のチベット人作家たち
(U女史訳)
西北民族大学のチベット人学生が主宰する民間雑誌《シャル・ドゥン・リ(ཤར་དུང་རི་)》は、チベット知識人の勇敢且つ真実な思想表現の集合体であり、”真理の探求、平等で自由な真理の探求。勇気の探求、批判し探索する勇気の探求。”を宗旨としている。
2008年に出版された第21期号は、2008年3月以来の、チベット全土に及んだ抗議事件に対する記録と思索である。
“シャル・ドゥン・リ”とは、東方のホラガイのような雪山のこと。ホラガイは召喚や啓蒙を意味する。
< “国慶節”によせて – 最近逮捕された3人のチベット人作家たち >
1)東科(ドンカル又はドンケ)、身分証用の名前は容科(ロンカル)、ペンネームは寧或念):
1978年アムド(四川省ンガバརྔ་པ་州紅原県)生まれ。紅原県県誌発行所に勤務。非常に著名なチベット語作家であり、四川省作家協会会員。《復活》、《技法》等の詩集を出版し、第2回カンサル・チベット文学賞、第1回カンサル・メト文学賞、及び第3回四川少数民族文学創作優秀作品賞を受賞している。友人と共に地元でチベット語幼稚園を経営、多数のチベット人が子供をこの幼稚園に通わせチベット語を学ばせていた。
2010年6月21日午前9時頃、”国家分裂煽動罪の嫌疑”を理由として、ンガバ州公安局により自宅から連れ去られる。2010年7月26日、ンガバ州人民検察院がンガバ州公安局による逮捕執行を批准し、マルカム県にあるンガバ州看守所に拘禁された。以来今に至るまで、親族は彼と面会できておらず、具体的な状況は不詳である。
逮捕の原因は、彼が2008年のチベット語月刊誌《シャル・ドゥン・リ》に発表した文章《我々にどれほどの人権があるか》に関わるという。
2)布旦(ブティン)、ペンネーム:布達(ブダལྦུ་རྡ་):
1979年アムド(四川省ンガバ州ンガバ県)生まれ。重慶医科大学を卒業し、ンガバ県哇爾瑪(Wa’erma)郷衛生院に勤務、《崗堅梅朶(カンサル・メト)》などの刊行物に詩や雑文を発表。チベット語月刊誌《時代的我(デンラップ・キ・ンガདེང་རབས་ཀྱི་ང་)》編集。
2010年6月21日午後1時頃、”国家分裂煽動罪の嫌疑”を理由として、ンガバ州公安局によりンガバ県哇爾瑪郷の衛生院から連れ去られ、個人的な文章や書籍なども没収された。最初、州府マルカムのンガバ州看守所に拘禁されていたが、現在はンガバ州金川県の看守所に拘禁されている。親族は彼と面会できておらず、具体的な状況は不詳。
逮捕の原因は2008年のチベット語月刊誌《シャル・ドゥン・リ》で発表した《回顧と思索》に関わるという。
3)朶譲雲巴(ガラン・ユンバ/ケルサン・ジンパསྐལ་བཟང་སྦྱིན་པ་)、ペンネーム:_米(ンガミ、匠の意):
1977年甘粛省甘南州夏河県ラプラン生まれ。インド、ダラムサラのキルティ・ゴンパで仏教を学んだ後、チベット本土に戻りンガバ県城関鎮に居を定め、《崗堅梅朶》などの刊行物に詩や雑文を発表。チベット語月刊誌《時代的我(デンラップ・キ・ンガ)》編集も務める。
2010年7月19日午前9時頃、”国家分裂煽動罪の嫌疑”を理由として、ンガバ州公安局により自宅から連れ去られる。現在はンガバ州金川県看守所に拘禁され、親族は彼と面会できておらず、具体的な状況は不詳。
逮捕の原因は、2008年のチベット語月刊誌《シャル・ドゥン・リ》に発表した文章《鮮血と生命の告発》に関わるという。
他にもいる。
これより前に、西北民族大学のチベット人大学生でやはり雑誌《シャル・ドゥン・リ》の編集者であった扎西熱丹(タシ・レティン)ペンネーム:鉄譲(テウラン・写真左)
及び周洛 (ジョウロ)、ペンネーム:雪合江
の2名が、今年4月に学校から連れ去られた。テウランがどこに拘禁されているかは不詳で、成都とも蘭州とも言われているが、いずれにせよ現在も釈放されていない。聞くところによれば彼の実家には老母と妹がおり、甘南州マチュ県の牧畜区域に住んでいるが、牧人の身で生活は困難を極めているという。雪合江は保証人を立て審問待ちの名目で5月に釈放されたが、拘禁されていた1ヶ月の間睡眠を許されなかった為、体を壊し、記憶力にも問題が生じている。
国際的な関心を集めている囚われの著名チベット人作家タギャ(ペンネーム: ショクドゥン)は、《翻天覆地》を著述した為に、今年4月23日西寧にて拘禁され今に至る。以来家族は一度も本人との面会を許されていない。タギャの実家のある村の年配者多数が西寧看守所のタギャのところへツァンパを送ったが、 やはり面会は許されなかった。家族が彼の為に弁護を頼んだ北京の人権派弁護 士は既に委託を受け入れ西寧を訪れたが、本人との面会はやはり許されなかっ た。現在の状況は不詳。
逮捕されたチベット人作家たちは全員、言論によって罪を問われている。全員 が2008年、チベット暦土鼠年の抗議騒乱を記録し、評論し、反省したが為に罪 を問われたのだ。チベット人は談論する。チベットでは、学があり、敢えて真実を語るチベット人は全て連れ去られる。2008年以降、敢えて不満の声を発し たチベット人は全て、おもむろに粛清されてゆくのだと。
ここに各界の関心と声援を求める。
こちらも閲読されたし: 2008年チベットの第2の戦場 – チベット語雑誌《シャル・ドゥン・リ》の紹介(文/桑 傑嘉)
http://woeser.middle-way.net/2009/08/2008.html
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参考:過去ブログ
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51500387.html
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51258282.html
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/51252956.html
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上記の仲間1人も逮捕された
10月5日付けphayul及びRFA(チベット語放送)によれば、
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=28257&article=Tibetan+man+from+Ngaba+arrested+in+Chengdu
アムド、ンガバのタカツァン村出身のジョレップ・ダワཇོ་ལེབ་ཟླ་བ་(38)が10月1日、成都で逮捕された。
彼はンガバのチベット学校の教師であり、またチベット語月刊誌《時代的我(デンラップ・キ・ンガདེང་རབས་ཀྱི་ང་)》の編集者でもあった。
逮捕容疑は判明していないが、この情報を提供したダラムサラのキルティ僧院のツェリンは「先に、同じ雑誌の編集者であった2人(上記:ブダとケルサン・ジンパ)も逮捕されているので、この雑誌に関る逮捕だと思われる」
とコメントしている。
ダワはかつて、ダライ・ラマ法王の発した「動物の皮や毛皮製品を使用しないように」とのアピールに照応して、ンガバ地方でチベット人たちが競って動物の皮や毛皮を焼却したとき、その先導者となったとして一ヶ月間拘留されたことがある。
2人の子の父親であるダワは2008年3月16日にも数ヶ月拘留されたことがある。
この時には妻が営む小さな書店に警官が踏み込み、書籍や所持品を持ち去られたという。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)