チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年9月20日
続・チベット現代美術展
週末ブログ更新をさぼっている間にも、ウーセルさんは前回紹介したチベット現代美術展の続きをブログにアップされていた。
今回はuralungtaさまが訳して下さった各作家の略歴と共に主な作品を紹介する。
前回全文を紹介した栗憲庭氏の文章の中に解説がある作品については彼の解説も再掲した。
最初の4人はウーセルさんが土日に新しく紹介された作家ではないが、それぞれちょっとした故あって略歴と共に紹介する。
プルブ(普布:Phurbu)
1974年ラサ市メルド・グンカル(Meldro Gungkar)生まれ。
1994年ラサ市師範学校卒業、油絵は独学。
シュールレアリズムのイヴ・タンギーやマグリットを思い出させる作風。
ジャンペル(江白:Jampel)
本名はチュニ・ジャンペル(Choenyi Jampel)。
1981年ラサ市メルド・グンカル(Meldro Gungkar)生まれ。
2005年中央民族大学美術学院油絵専攻を卒業、
メトクンガ県リド(日多)中心小学校数学教師を勤める。
前回にも彼の作品は紹介した。
写真をクリックして拡大しないとよく分からないかもしれないが、風景の至る所に明らかに中国の国旗を思わせる赤い旗が立っている。
ツェリン・ニャムダ(次仁念扎:Tsering Nyandak)
1974年ラサ生まれ。
1985年から1993年までインドのTCV(チベット子供村)で育つ。
2003年「ゲンドゥン・チュンペル・アートスペース」を合同で立ち上げる。
2004年からこれまでに、アメリカ、ドイツ、イギリス、北京の合同展に参加。
2001年と2008年にドイツとイギリスで個展も開かれた.
栗憲庭氏の解説:
「文化的アイデンティティの矛盾、傷、憂いなどの心理的感覚を表現した作品も、今回の展覧会の核心部分である。
ツェリン・ナムダックの《少年》シリーズは、作者自身の不安な内心のイメージであり、全ての作品の画面には、間もなく災いが訪れるかの如き情景が描かれている。」
以下ウーセルさんが土曜日にアップされた作品。
この日は自治区以外のカム、アムド及び海外在住の作家を中心に紹介されている。
http://woeser.middle-way.net/2010/09/blog-post_18.html
ペマ・リグゼン(万瑪仁増:Pema Rigzen)
アムドの画家。
アムドのチェンツァ(青海省黄南チベット自治州尖扎)生まれ。
チベット大学芸術学院修士課程在籍。
チベット美術の技法が研究テーマ。
プルブ・ギェルポ(普華:Phurbu Gyalpo)
アムドの画家。
1984年ツォロ(青海省海南チベット自治州)生まれ。
チベット大学芸術学院修士課程在籍。
テーマはチベット宗教彫塑の歴史的研究。
栗憲庭氏の解説:
プルブ・ギェルポの《巣》は一つのオブジェからなる作品。
金網のような巣の中に新聞紙でできた卵が置かれ、本来は温かみを意味する巣は、金網という材質のために危険な状態を生じさせ、巣の中の卵は各種の情報でくるまれている。
カルマ・ドルジェツェリン(別名を吾要)(Karma Dorjie Tsering)
カムの画家。
1963年ケグド(ジェクンド、青海省玉樹チベット自治州)生まれ。
現在は北京民族出版社で働く。
中国内外の展覧会に40回近く出品経験があり。
10以上の受賞歴あり。
個人画集に「無色世界――カルマ・ドルジェ・ツェリン(別名を吾要)作品」
「无色界――カルマ・ドルジェツェリン(吾要)作品」
ゴンカル・ギャツォ(Gonkar Gyatso)
1961年ラサ生まれ。
1984年中央民族学院(現中央民族大学)美術学部中国画学科卒業。
2000年に英チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン(ロンドン芸術大学)卒業。
現在は制作と生活の場をロンドンとニューヨークに置く。
この絵の中にはユダヤ教徒と被る帽子を頭に載せたダライ・ラマ法王が描かれている(合成写真らしいが?)。
法王に対し「Keep cool! H.H」とか、
法王の言葉として「国もないのに、どうやってユダヤ人がかくも長い年月生き残ってきたのか?不思議に思う」とか、誰か(おそらく中国政府)の命令として「お前は首だ!」とかが言葉にして書かれている。
この作品には栗憲庭氏の解説あり。
「ゴンカル・ギャツォは商標やファッション画像を貼り合わせて仏の像を作り、消費文化がチベットという宗教的聖地を浸食する様を克明に表現する。」
テンジン・リグドゥ
(Tenzing Rigdol)
1999年からインドのチベットタンカ芸術学校やカトマンズの寺院などでタンカ(チベット仏画)を学ぶ。
2005年米コロラド大学で絵画と芸術史を学び、現在はニューヨーク在住。
人物のバックには一面、チベット語のお経が書かれている。
以下の2枚はこの絵の部分。
さすが、海外在住のチベット人はより大胆、というか直接的に抵抗精神を表現しているようだ。
この人の左足には「チメグティ」と呼ばれる「チベット独立の象徴」となっているミサンガが結ばれている。
このミサンガは初め1980年代後半にラサの有名な「ダプチ刑務所」に入れられた政治犯たちが刑務所内で作った。
それが、後に「チベット独立運動擁護」の象徴の一つとして世に広まったものだ。
今、私の腕にも一つ巻かれている。
手に持っているのはダライ・ラマ法王の著書「The Art of Happiness」
ケサン・ラムダク(Kesang Lamdark)
1963年インド北部ダラムサラ生まれ。
1991年から1995年まで米パーソンズ・スクール・オブ・デザイン(Parsons School of Design)のBFA(ファッションデザインコース)。
1995年から1997年までコロンビア大学に学び、芸術学修士過程(MFA:Master of Fine Arts)修了。
スイス在住。
個人サイト: http://www.lamdark.com/
ツェリン・シェルパ(Tsering Sherpa)
1968年生まれ。
1988年から1989年まで台北でコンピューターと中国語を学び、
1983年から1988年まで伝統的タンカ(チベット仏画)を学ぶ。
1991年から1996年に仏教哲学を学び、
現在は米カリフォルニア州在住。
ウーセルさんが日曜日にアップされた分も続けて紹介するつもりだったが
それは明日にまわすことにした。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)