チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年8月11日

ドゥクチェ(舟曲)の昔話

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ドゥクチュドゥクチェ(舟曲)の土砂災害の犠牲者の数は残念ながら増すばかりだ。
(後記:インド時間11日20時10分現在、死者1117人、行方不明627人 これからの3日間被災地に豪雨注意報がでた)

現地の住民の中には「政府発表はおかしい。少な過ぎる。死者は4000人以上になるだろう」と話す人も、「いや7000人だ」という人もいるようだ。
http://bit.ly/anIddU(現地写真)
現地では国内メディアに対する人数規制のようなものはあるものの、外国メディアの自由な取材はむしろ歓迎されているという。

しかし、例えば東京新聞に
http://bit.ly/dqUNZ8

「一方で特殊警察部隊なども治安対策として派遣され、ビデオやカメラを所持する隊員が多くみられた。このためか記者が質問をしても、多くのチベット族住民が返答をせず、口ごもった」と、載っていたり、

産経には
http://sankei.jp.msn.com/world/china/100811/chn1008111245002-n1.htm
「しかし、被災現場では警察が外国人記者に目を光らせ監視している。救助現場や政府関係への取材を干渉しないが、チベット仏教の僧侶に話を聞くとすぐに横から割ってはいるなど取材を妨害する場面もあった」という報告が載っている。

チベットの中、チベット人の心の中には見えない高い牢獄の壁が立ちはだかっているということだ。

一方、国内外から「(土石流災害は)天災ではなく、半世紀にわたって続いた山間の乱開発による人災である」という政府見解に対峙する意見も多く出ている。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0811&f=national_0811_050.shtml

このことに関し、興味深い報告を目にした。

——————————————–

英語版のチベット旅行ガイドブックとしてベストと言われるGyurme Dorje’s (Scotsman Tibetologist) ‘Tibet Handbook’1999
http://www.amazon.com/Footprint-Tibet-Handbook-Travel-Guide/dp/1900949334#_
の中にドゥクチュ(舟曲)についての説明がかなり詳しく書かれている(P647)そうだ。

私の手元にこの本があると言うのではなく、ITSN経由のメールの中にこの本の部分が紹介されていたのを目にしたのだ。

ドゥクチュの住民はかつて、そのほとんどがチベット人だったという。
以下、このガイドブックより:

「ドゥクチュの住民―――以前この地区住民は1.56憶立方メートルの木材を保有する、地域でももっとも富んだ人々であった。人々は何代にもわたり材木を切り出すことで生計を立てて来た。しかし、一方で自分たちを支える森の面倒をよく見ていた。
だから、森の力は一度も弱ることなく、パンダがじゃれ合い、清らかな水の流れる、美しい緑の環境が維持され続けていた。

かつては、森にすむ人たちは農民や遊牧民より豊かであった。
しかし劇的変化が起こったのは、1966年、この地に白竜森林管理事務所が開設され、同時にそのほとんどが(かつての)満州と四川省出身者である1~2万人の移民労働者とその家族が、この町に住みついた時からだった。

裸にされたドゥクチュ川沿いの山このエイリアンたちはこの地域の深い森に何の愛着も示さなかった。
彼らはせっせと木を切りだしたが、その後植林することなどまるで考えもしなかった。
この結果、ドゥクチュ川の両岸の丘はすっかり裸にされ、エコシステムは破壊された。

先住のチベット人たちは次第に隅に追いやられ、貧しくなっていった。
彼らに残された唯一の生計の道は大麦栽培だけとなった。
1950年以降の過剰伐採により森林面積の30%が失われ、材木量は25%減少した。
河床の土石量は60%増え、水量は8%減少した。この結果、洪水と干ばつが増えている」

—————————————————————————

政府側は今回の巨大土石流の原因の一つに「四川大地震により地盤が緩んでいたこと」というのを上げている。

素人が下手なことを言うべきではないかもしれないが、素人が考えて見てもこの話には納得することができない。
ヒマラヤ山脈とその南と北

ヒマラヤ等のチベット周辺部はヒマラヤ造山活動が始まった約6000万年前から大地震続きで揺らされ続けているはず。
どこも元々ひび割れだらけだ。

特にその表層部は寒暖の差や雨水の浸食でボロボロ状態。
傾斜度と雨量に従い限界を越えれば流れ落されてあたりまえだ。
でも、この限界を決める要素にはもう一つ「地表が森林や草原に覆われているかどうか」が明らかに含まれるのだ。

ダラムサラの我が家は5000mの裏山の麓に形成された険しい崖に囲まれた谷に面して立っている。ここも絶壁の上だ。
谷の反対側には木がほとんどない。薪と化したのだ。
対象的に法王もいらっしゃる谷のこちら側は森に囲まれている。

谷の反対側では雨季などにしょっちゅう土砂崩れが起こる。
そのたびに谷には大きな地響きが轟渡り、ぞ~~~なのだ。
それに比べ谷のこちら側では(今のところ、この四半世紀間に)大きな土砂崩れは一度も起こっていない。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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