チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年6月24日

カルマ・サンドゥップ氏の法廷陳述/拷問による自白強要

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42fe075b.jpg昨日URLのみ紹介したカルマ・サンドゥップさんの公判に関するウーセルさんのレポートをさっそく、U女史が翻訳して下さった。

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<昨日(6月22日)の法廷で、カルマ・サンドゥプは拷問による自白強要について陳述した>

http://woeser.middle-way.net/2010/06/blog-post_6719.html

昨日の開廷に当たり、法廷に現れたカルマ氏を見た時、夫人の驚きは極度に達した。「もし彼の声を聞かなければ、私はまったく、彼が我が夫だと気付かなかったでしょう」夫人は悲憤を込めてそう語った。

カルマ氏が陳述した、拷問による自白強要の事実は、実に凄惨なものであった。ここ半年程の間、彼は新疆のバインゴリン・モンゴル自治州で拘束されており、チャルクリク、コルラを経て、現在は同自治州内の焉耆回族自治県内に収監されている。尋問は毎日十数時間、90回以上に及び、うち3回だけ腰掛けに座ることを許可された他は全て、吊されたり、身体を反らせたままにさせられるなど、警察によって、曰く言い難い様々な不自然な姿勢の強要による虐待を受け、毎回気を失うまで殴り続けられた。甚だしきに至っては、鼻孔に無理矢理、ある薬物を詰め込まれた。薬物は大脳を刺激し、(頭の中で)大音響が炸裂、目や耳から出血した。警察はそれでも「これは公安部によって使用を批准された合法な薬物だ。こんなもので死ぬことは無いよ」とうそぶいた。

カルマ氏は尋問の後、牢に戻ってからも、休むことはできなかった。関連部門から派遣された所謂”犯罪者”にあの手この手で苦しめられるのである。彼は数分ごとに殴られ、一晩中一睡もできない。これらの”犯罪者”は自称”マフィア”。獄中でカルマ氏を殴るのみならず、彼の行動全て、トイレに行くのにさえ借用証書を書かせる。借金の額面の累計は既に66万元に達した。支払わなければ家と妻子を捜し出し取り立てに行くと脅す。カルマ氏の食べる物をごみのように扱い、蒸パンを床に転がして踏みつけ、汚くなった蒸パンを彼の口に押し込む。硫酸で(溶かして)完全に消してやる、と脅す。

カルマ氏は、「このような残虐な体刑と苦難に精も根も尽き果て、生きる希望すら失わされた」と話した。世界が斯くも残酷で、人心が斯くも悪辣であることを身に沁みて思い知らされ、今が歴史の最も暗黒な時代に退行したのだと感じた彼は、死を覚悟して遺言状を書き、身内に渡して後のことを託そうとした。彼は絶望のあまり確かに遺言状を書いたのだが、警察は未だ、彼の遺言状を身内に渡してはいない。

カルマ氏が、自らの受けたこれらの非人道的な待遇について陳述する様子は極めて平静で、自身の体験を話しているのかどうかすら見極めがたく、まるで遠い過去に起こった恐ろしい出来事について話しているかのようであった。生死はもう彼にとってどうでも良いことのようにも見えた。しかし、陳述を聴いていた彼の親友によれば、これは地獄の如き苦難であった。(法廷にいた)たくましいカムの男達は雨の如く涙を流していた。まして夫人は – 彼女はこの半年余りの間に5回、遠い新疆に通い、心身共に疲れ果てつつも、幼い二人の娘には無理に笑顔を見せていたが、実際のところ最近彼女は衰弱により何度も倒れている – 胸も張り裂け、涙の海に沈まんばかり。2名の通訳も陳述を聴くに忍びず涙にくれ、浦志強、李会清両名の弁護士も涙を禁じ得なかった。

中国の法律、否、世界中のあらゆる国家の法律においては、拷問による自白強要を禁じる明確な規定がある筈だが、実際はどうなのだろうか。

2010年1月3日に逮捕されたカルマ・サンドゥプ氏の裁判は、6月1日に開廷予定であったものが遅延し、同22日に正式に開廷、6月23日現在も審理は続いているが状況は不明。従い、詳細を尽くすことは不可能ながら、昨日の法廷でのカルマ氏本人の陳述について得られた断片的な記録を世に広めるべく、ここに記す。

2010年6月23日 15:40

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尋問の間、拷問が行なわれることは、広く知られているが、このように、法廷で証言されることも、それが法廷から外の世界に直接伝えられることも非常に稀だ。

最近逮捕された知識人たちはもちろんのこと、逮捕された後に程度の差こそあれ拷問を受けないチベット人、特に政治犯はまずいないと思われる。

公安が、外部の拷問専門家(請負人)を雇っているという話は、私も初めて聞いた。
同じマフィア同士、金のために連帯するのは当り前ということだろう。

追記:
カルマの弁護士、浦(Hu)志強氏はtwitter上で逐次裁判の様子を報告されている。
http://twitter.com/puzhiqiang

New York Timesの記事:
http://phayul.com/news/article.aspx?id=27583&article=Tibetans+Fear+a+Broader+Crackdown

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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