チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年6月20日
チベット天珠の王、逮捕
以下、まず6月11日付phayulに掲載された、ガーディアン紙の記事の訳。
http://phayul.com/news/article.aspx?id=27478&article=Chinese+government+urged+to+release+Tibetan+environmental+activists&t=1&c=1
<中国政府、著名チベット人環境活動家の解放を迫られる>
人権ウォッチ(Human Rights Watch)はカルマ・サンドゥップ、リンチェン・サンドゥップ、及びジグメ・ナムギャルの解放を要求した。
http://www.hrw.org/en/news/2010/06/10/china-drop-charges-against-tibetan-environmental-philanthropist
人権ウォッチは、中国政府に対し、世界の屋根の脆弱な環境システムを保護するために中心的役割を果たしてきた、三人のチベット人環境活動家の解放を要求した。
最近逮捕されたカルマ・サンドゥップは裕福なチベット人美術品収集家であり、黄河、揚子江、メコン河源流地域の環境保護を推進する「三河源生態保護協会」の創始者でもある。
彼のグループはその環境保護貢献により、幾つかの賞を受賞している。
フォード自動車が「ホンコン・地球の友」と共に主宰する環境賞も受賞している。
今年初め、彼は12年前の、一旦は無罪とされた、文化財盗掘の嫌疑により逮捕された。
6月1日に行なわれる予定であった彼の公判は延期された。
彼が逮捕されたほんとうの理由は、彼が先に逮捕された2人の弟の解放を執拗に要求したからだと言われている。
彼の2人の弟である、リンチェン・サンドゥップとジグメ・ナムギャルは去年8月逮捕されている。
2人は、彼らの主宰する、カムのボランタリー環境保護団体「アンチュン・センゲナムゾン」が、「地域の政府の役人たちが、隠れて絶滅危機種に指定されている野生動物を狩猟していること」を公表しようとしていた時、拘束された。
ジグメ・ナムギャルは21カ月間の労働再教育を言い渡され、現在労働キャンプで働かされている。
彼の罪状は「危害国家安全罪」とされ、当局は彼が環境、資源、宗教に関する情報を不法に入手し、陳情を組織し、ダライ・ラマ支持者にプロパガンダ情報を渡したとした。
リンチェン・サンドゥップは未だ裁判も行なわれないまま拘束されている。
「今回の一件は中国政府を試す、テストケースだ」と語る、人権ウォッチのアジア担当官であるソフィー・リチャードソン氏は
「彼らは中国政府が求める、現代チベット人の有るべき姿を体現していた人々だ。経済的に成功し、政府に認められた文化、環境面の活動しか行わず、非政治的だ。それなのに彼らまで非合法とされたのだ」とコメントした。
中国の環境保護活動家が危険に晒されるということは、公害キャンペーン活動により賞を与えられた、ウー・リーホンへの当局の対応を見ても分かる。
最近3年の刑期を終えたばかりの彼は、刑務所で暴力を受けたことを証言している。
「Xie Lixinという政府の保安役人は私を柳の枝で鞭打ち、タバコの火を押し付けた。Wang Kewei という男が私の頭を壁に打ち付けた。Shenというもう一人の男がうその自白を引き出すために殴りかかった」と。
ウーは江蘇省のタイ湖の汚染を取り除くために貢献したとして、2005年人民議会において「環境戦士」として讃えられた。しかし、彼はその後、恐喝罪に問われた。
中国の市民社会は厳格に統制されている。中央政府は環境関係のNGOに地方政府や工場が環境規制を守らない時には、それを告発することを奨励していた。
しかし、中央政府の権限も限定的で、NGOは地方の公安の役人から社会の安定を乱すと訴えられやすい。
中国政府の環境保護副大臣であるZhang Lijunに対し、ガーディアン紙が、この問題を問い正した。しかし、彼は個別のケースについてコメントすることを拒否した。
「中国政府はNGOが環境保護の活動を行なうことを奨励し、支援している。
法律に従う限り、彼らが環境保護に努力することを政府は支援する」と彼は話した。
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カルマ・サンドゥップの個人弁護士であるPu Zhiqiangは、5月31日、彼との二度目の、ほんの短い面会を許された。
Puは「その仏教的信念により、彼は10年でも監獄で耐え続けることができよう。しかし、20キロもやせていた」と語ったという。
面会はほんの数分で、監視カメラがすぐそばにあったという。
彼はチベット人から「シィー(天珠)の王」と呼ばれていた。
彼は、日本でもチベットのお守りとして少しは有名にもなった、この目玉石のマーケットをコントロールする男だった。
「世界的にも、個人として彼ほどチベットの美術品を収集、所蔵している者はいないであろう」とウーセルさんも言っているほどだ。
彼は実際、「チベット文化博物館」を個人で建てようとしていた。
中国政府からも賞をもらい、チベットのセレブとして北京にもよく招待されていた。
そんな彼が逮捕され、すでに半年近く、拘束されたまま、家族との面会も許されていない。
2008年以降、当局の弾圧の対象は当初、僧侶、尼僧、路上での抗議者だった。
それから学生、農民、遊牧民をターゲットにした。
最近では作家などの知識人がターゲットとされている。
すでに30人のチベットの知識人が逮捕された。
これは文革以来かつてなかった規模の知識人弾圧だ。
そして、今や、この政治的弾圧は彼のような「潜在的対抗勢力」、「隠れ抗議者」に対しても行われるようになったと言えそうだ。
このケースについてはウーセルさんが詳細なレポートを何度も出されている。
http://woeser.middle-way.net/2010/06/blog-post_18.html
http://woeser.middle-way.net/search?updated-max=2010-06-08T12%3A01%3A00%2B08%3A00&max-results=30
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/asia/article7141677.ece
http://www.phayul.com/news/article.aspx?id=27422&article=Old+charge+resurfaces+against+prominent+Tibetan
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)