チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年6月10日
岩佐監督「チベットの少年」撮影隊の動向
写真中央虹色の傘の下でチベット人にじゃれついているのが岩佐監督。
今回は2週間ほど前から撮影のためダラムサラまで来られている岩佐隊・同行写真を掲載する。
目的は監督の新作への期待を高めて頂くためだ。
まず今回のスタッフを紹介する。
左より、カメラマンの津村さん。通訳・コーディネーターのツェワン(彼はカナダ在住。東京のチベット・デモではいつも最高のコール先導役を務めるドルマさんのお兄さん)。
岩佐監督が寄りかかっている男は実はデブン僧院僧侶、名前はトゥプテン、最近内の家に居候している。機材運びの手伝いに連れて来た。
その右はルンタのアヤちゃん。この日アヤちゃんの部屋の屋上で撮影が行われたので、アヤちゃんが最近飼ってるウサギのベービー「うさ子」を連れて来たところ。
その右がうさ子に夢中の、今回の映画の主人公、オロくん。
右端にちょっと写ってるのは、内によく来るツェリン・ノルブ。今回の映画にもちょっとばかり出演してもらうことになった。
オロとノルブとうさ子
岩佐寿弥監督は今年75歳になられる。
法王と同い年だ。
今までにチベット物を二作品制作されている。
ダライ・ラマ法王へのインタビューを含む「チベット2002~ダラムサラより~」
とネパールはポカラのチベット難民キャンプに住む一人のお婆さんを主人公にした「モモチェンガ」。
今回はチベット物、第三作目となる。
監督は本当に長年映像制作に関わってこられたので、チベットもの以外の作品は数え切れないほどあるであろう。
映画作りのコツをよく心得ておられるので、撮影は毎日スムーズに無駄なく行われている。
カメラマンの津村さんもまた、膨大な経験を積まれてきた方なので、効率よくいいシーンがどんどん記録されている。
二人の息がぴったりなので、周りは安心して、何も言うことがない。
そうではあるが、撮影というものは大変な仕事と思う。一日ぐらい休めばよ、と思ったりもするが、二人の日本人は毎日朝から晩まで働き続ける。
坂道ばかりのダラムサラでなんども息切らす監督だが、それでもいつもにこにこして楽しそうだ。
新作の仮題は「チベットの少年」。
幼くしてヒマラヤを越えチベットから亡命した来た、一人の少年オロの物語。
詳しくはまだ秘密。
撮影は学校が休みの時にしかできない。
昨日までTCVは10日間の夏休みだった。
撮影は先の冬休みにも行われた。今回で二回目。さらに次の冬休みに必要ならば三回目の撮影を行い、作品は来年の夏には封切られる予定だ。
主人公のオロ(ニックネーム)はお調子者もので元気いっぱいの男の子。
でもまだ、子供なので時々ラーケギメ(コントロール不可能)になることもある。
映画の中には良心の囚人ドゥンドゥップ・ワンチェン氏の妻ラモ・ツォをはじめ彼がインドに残した家族全員が登場する。
この日は水不足で家では洗濯できないというラモツォ・ファミリーの河原洗濯に付き合った。
ダラムサラの奥にはバグスナートと呼ばれるヒンドゥー教シバ派の古い寺のある観光地がある。
上流にちょっとした滝がある綺麗な谷と河原が広がる。
河原には大小様々な水たまりがあって、そこは子供たちの夏のプールとなる。
夏休みのこの辺の子供たちの楽しみの第一はここで泳ぐことなのだ。
私も子供が小さかったころよくここに来て子供を泳がせていたが、自分はその水の冷たさに耐え切れず、いつもすぐに上がっていた。
チベットの僧侶もよくここにきて泳いでいる。
チベット人が寒さに強いことはここでも証明されている。
ドゥンドゥップ・ワンチェン氏の家族。
いつもはムスリというダラムサラから12時間ほど離れた学校にいて会えない長男も加わり、珍しく夫以外の家族全員が揃い、楽しそうなラモツォの家族。
ダドゥンがまだ幼い。
ラモ・ツォへのインタビューで最後に夫ドゥンドゥップ・ワンチェンの思い出など聞いてしまい、結局泣かせてしまった。
カメラの前に出ることを頑なに拒否していた、ドゥンドゥップ・ワンチェン氏の両親にも話を聞くことができた。
息子が逮捕されたと聞いたお母さんは間もなく心臓を患い倒れ、手術をした。
お父さんは不眠症が続いているという。
二人に囚われの息子さんのことを聞くのは本当につらいことだった。
お母さんは終始涙ぐんでいた。
ラモ・ツォは二日前、インドの学生たちを前に話をした。
これはダラムサラのSFTが企画したものだ。
話の前にドゥンドゥップ・ワンチェンが撮影した「ジクデル/恐怖を乗り越えて」が上映された。
集まった学生はデリーの大学生ばかり。少人数ではあるが、熱心にノートを取りながら話を聞き、沢山質問もしていた。質問の内容を聞いても、かれらがチベット問題に相当詳しいことが分かった。
この日も最後にラモ・ツォは泣いてしまった。
二女のラモ・ドルマはインド人の学生たちと一緒にお母さんの話を聞いていた。
お母さんが大粒の涙を浮かべながら話し続けるのを見て、ラモ・ドルマも顔を隠しながら泣いていた。
昨日は子供たちの夏休み最後の日ということで、少し遠出のピクニックを行った。
ノルブリンカの上の方にある泳げる河原を前にした松林に陣取った。
子供たちはすぐに水に入って大はしゃぎ。
姪のワンモは可愛い顔しているがビールの蓋を歯で開けることができる。
ワンモの友人である歌自慢のアムドの若い男女5,6人が参加した。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)