チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年5月2日
中国共産党中央宣伝部 VS 国境なき記者団
<国境なき記者団Reporters Without Borders>の先月29日付ウエブニュースによれば、
http://en.rsf.org/china-shanghai-expo-earthquake-qinghai-censorship-29-04-2010,37231.html
中国の情報局と中央宣伝(プロパガンダ)部(中宣部)は、5月1日から始まった上海万博、及び4月14日に青海省チベット人地区で発生した地震に関するメディア報道に対し、厳しいルールを課した。
4月23日、宣伝部は中国メディアに対し、万博開幕以前に目立つパビリオンに関する記事を発表しないこと、さらに各パビリオンについての解説は国営新華社通信のものを使うようにとの指示をだした。
4月25日にはさらに、「メディアは青海地震のカバーを減らし、上海万博に関する記事の数を増やすように」と宣伝部は命令した。
国境なき記者団が入手した情報によれば、宣伝部は地震の報道に関し、以下のルールを決定した:
*地震の報道には「科学的用語」を使用すること。
*地震予知局を非難しないこと。
*国営CCTV放送がキャンペーンする募金活動を中心に報道すること。
「宣伝部の態度は驚くほどパターン化し、保守的なものである」と国境なき記者団はコメントし、さらに「青海地震に関する報道監視をやめ、この地震に対するコメントを理由に逮捕された、チベット人作家を解放することを訴える」と続ける。
このような当局の報道監視と規制に抗議するため、国境なき記者団はウエブ上に上海万博・自由仮想花園the Shanghai Expo a virtual Garden of Freedomsを開いた。
当ウエブはhttp://en.rsf.org/shanghai_en.html
(中々面白いので是非こちらの万博にもお越しください。
「中国は世界で最も巨大なネットユーザーの監獄だ」とか、
チベット館には「少なくとも50人のチベット人が単に外国に人権に関する情報を伝えたとして逮捕されている」とか書かれている。)
この他、当記事は、香港の中国政府に批判的な新聞社Apple Dailyに、万博の取材許可を出さなかった事、
宣伝部がさらに、ダライラマや彼に同調する者たちの報道をしないこと、
ウイグル自治区の指導者交代についての報道を控え、地域の軋轢について報道しないこと、等の命令を出したこと、
チベット人作家タギェル(ショクジャン)の逮捕と宣伝部の報道規制発表の日付が一致していること、
Voice of Tibet放送の地震被災者慰安特別番組を妨害していること、
等の報告も行なっている。
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このように、中国国内では地震や万博の報道は言うに及ばす、常に全ての報道が政府のプロパガンダ局により統制されている。
この情報統制の対象は国内のメディアだけではない。
日本を筆頭にした外国メディアに対しても直接、間接的な規制、圧力が常に掛けられている。
例えば、今回の地震に関しては、最初から「民族同士の融和をテーマに報道すること」という達しが出ていたことが確認されている。
中国のテレビを見ていると、まさにこの線にそって、わざとらしさ丸出しのチベット族への友愛物語が延々と演じられている。
日本のメディアを含め、各国メディアは早々に(高度順応前に)現地を離れ、もうだれも現地からの報告を続ける外人記者はいない。
地震発生後、割と早めに現地に到着した、日本のメディアの人たちのレポートも一様に短めで、最初から中国政府に気兼ねした報道が目立った。
僧侶の救援活動ではなく、中国隊の手柄を中心に報道し、現地のチベット人の声を伝えるより、中国の支援ぶり、病院で命が救われる話などが好んで報道された。
もちろん、私が知らないだけで、中には頑張って公平なレポートを書かれた記者の方もおられたであろう。そんな人にはエールを送りたい。
日本メディアは最後まで、「チベットで起った地震」であることを強調することはなく、犠牲者の数も当局発表以外の情報があることを付記することはなかった。
この点、外国メディアの方が、チベット人にも気を使った記事が多かったようだ。
最初から最後まで一番頑張っていたらしいのは香港メディアだ。
外人フリージャーナリストも数人現地入りしていたようだが、日本人の誰かが入ったという情報はまだ聞かない。
こんな時こそ、我らがN2に登場してもらいたかった、、、が、何と彼は地震が起こったその日、仕事でアフリカに発ったのだった。
残念でならない。
北京に事務所を構える日本のメディアに公平な、真にジャーナリスティックな記事を期待する、と言う方が間違っているといえよう。
例えば、仮に北京に送られた、ある日本の記者が普通の記者感覚で中国やチベットを観察し、良い記事を書いたとしよう。
中には当然、中国政府批判も含まれるであろう。
まずそれを見て北京支局長は「うう、ここはまずいな。消してくれる」とあっさり言うか、「君も若いな、ま、今回はやってみるか」と東京の中国デスクに送る。
中国デスクは適当に表現を和らげて採用する、か危ないと思えば没にする。
実際には、もちろん中国に送られる記者は、色んな怖いアドバイスを先輩たちから受け、身の危険も覚悟で北京に乗り込む。
中には頑張って中国の真相を暴こうとする記者もいるであろう。(フランス人にこれは多いらしい)
支局長も報道人としてのプライドや新聞社の権威との駆け引きで、ぎりぎり頑張る人もいるであろう。
各社の北京支局長は問題記事、映像が出るたびに当局に呼び出され、キツイ警告を受けると聞いた。
元々中国好きの記者などは帰る頃にはすっかり洗脳が完成される人もいるかもしれない。(実際には元中国好きがその反対になるケースが多いそうだが)
真実ということ自体に興味を失う人もいるかもしれない。
中には中国にいる間は、大人しくし、目立たないようにして、資料だけを集め、北京を出た後、「真実の中国」と題された本を書く人もいるであろう。
しかし問題は、北京にいる間に頑張った記者が、ついに北京を追い出されたとして、本国に帰っても、誰も彼や彼女にエールを送らないということだ。もちろん、会社も彼や彼女を歓迎せず、時には左遷されることさえある。
新聞社は本当の事を書いて追い出されるよりも、窓口を開いておくことの方が大事と判断する。
例え、その窓口が当局の宣伝報道の窓口になっていようが、真実であろうが無かろうが、お構いなしにだ。(<――大げさ)
実際、新華社発表を本気で真実と思う記者など、中国人でもいないであろう。
まして、日本の記者様が信じているわけではない、しかし、日本の読者は他に比べるソースが無いので、おおむねその発表を信じる。
例えば、「今回の地震は中国西部の青海省という所で起り、死者は2000人ほどだった」と今後言い伝えられるがごときだ。
この中国の恫喝圧力に屈する、譲歩するという現象は別に報道の分野だけに限らず、国単位で主に商売のために、至る所で見られる。
こうして、今の中国共産党政権は世界中のメディアや会社や国に支えられ、維持され続けると言う訳だ。
どこかで、この流れ、態度を変えない限り、中からだけの努力に頼って、いつかは中国も変わるであろう、なんて言ってるうちに、、日本や世界は、、、、、、、気付いた時にはどうなってるのか?
中国の影響が世界に及ぶに従い、健全な法治感覚と人権感覚に狂いが生じることを、私はもっとも危惧する。
左の写真は青海テレビを撮ったもの。
病院の中には軍帽を被った看護師もいる。
追記:
ウーセルさんのツイッターによれば、中宣部はさらに、地震報道について「校舎の設計強度の問題や、防疫用消毒水消毒液問題を取り上げないこと、救援速度や効率等の敏感な問題を論じないことを要求している」そうだ。
結局、中宣部はどこに特に問題があるかをわざわざ教えてくれているようなものだ。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)