チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2010年4月15日
ジェクンド大地震二日目
ジェクンド(キグド)大地震のニュースは世界中飛びまわっているが、その元は今のところほぼ中国ソースに限られているようだ。
今回も当局は外国メディアが現地に近づくことを嫌がっている。
何を隠すことがあるのだろう。
(CNNとアルジャジーラは今日現地入りしている)
日本政府はじめ各国が有難くも緊急救助隊を派遣したいと申し入れたにも拘わらず、中国政府は、今回一切外国の援助を断ると言ってきた。
ダラムサラでは中国のテレビもいくつか見ることができるので昨日から中国のテレビも見ていた。
昨日は短いニュースがときどき伝えられるだけで、驚くほど無視されていた。
現地との連絡が取れなかったせいもあろうが、報道の仕方を決める会議に時間がかかったとも考えられる。
今日は、青海総合放送を中心にかなりの時間をかけて地震関係の番組は組まれていた。
しかし、そのほとんどは副首相の回良玉が被災地を視察して激励して回るというシーンがその大半。
その他は救援隊がいかに活躍しているか、、、というより今から出かける救援隊の勇ましい姿が映し出される。
その後、やっと現場の廃墟と化した光景やら道端で布団にくるまり寝ているチベット人、頭から血を流しながら医師の診断を待つ女の子などが映される。
でもこれはすぐに終わり、また延々と地震に関する会議や座談会の様子を流す。
全く災害は政府の活動を宣伝する機会でしかないように感じられる。
現場のリアリティーは全く欠けている。
今も大勢の生き埋めになっている人が呻いているであろう、瓦礫をバックに映し出しながら、ただの悲しそうな歌を流している。
過去の悲しい物語を再現しているような冷たい客観性を感じた。
チベット人のブログやメールには傷つき助ける者もなく放置されている様子を伝える写真などが沢山で出てるという。
外国の救助隊を断り武装警官隊ばかり投入しているのは、チベット人が救助の遅れに怒り始めたときの準備なのか?
テレビの中で思わず笑ってしまった一場面があった。
副首相がある医療テントの中で4,5人の医師を前に演説している。
そのすぐ前には手術台のようなベッドに裸で横たわった患者らしき身体がある。
医者は長い演説を聞きながらも患者の身体を指で時々つついている。
実に長い間、副首相のお話は続いていた。
まさか、本物の緊急患者を前に医者を直立させたまま長ったらしい演説をぶったとは思えないので、これはヤラセだったと思うことにした。
周辺のチベット人たちは僧院を中心に、同胞を助けようと私設救援隊を組織して送り出したところも多いと聞く。
死者は今のところ617人というのが中国側の発表だか、中国の犠牲者数は少なめで全く当てにならないことは世界中が知っている。
この数はジェクンド市内だけの話である可能性は高い。
今は冬虫夏草の採集時期なので多くのチベット人が田舎に散っているという。
街から離れた山間部の民家も全壊したとおもわれる。
遠い村の重傷者は死を待つしかないかもしれない。
死者の出なかった家族はないと言われている。
地震が多い地域として有名なのにチベット人の家やゴンパはほとんどが日干しレンガで作られていた。
犠牲者の数は最終的には現地の人々が伝える3000人に上ると思われる。
余震を含め正確な震源地を以下のURLで見ることができる。
地震は広い地域で起っていることがわかる。
http://www.tibet.org/earthquake/
ダラムサラでは昨日も今日も今回の地震の被害者に対するモンラム法要が行われた。
昨日のモンラムの様子とダライ・ラマ法王のお話がyoutubeにアップされた。
http://www.youtube.com/watch?v=a6pB2BtlAsc
直接dalailama.comにアクセスしても見れる。
http://dalailama.com/webcasts/post/101-his-holiness-offers-his-condolences-to-the-victims-of-the-earthquake-in-kyigudo
法王のお話を以下に訳す。
自分で現地に駆け付け、直接苦しむ人々を助けることができないという、悲哀を感じてしまう。
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「今日の朝ニュースによれば、キグドで大きな地震があったという。
朝のニュースでは62人が亡くなったという。
数百人と言う人もいる。
中には2,3千人死んだと言うものもいる。
詳しくは判らない。
酷い地震があった。
大きな地震があった。
何もすることができない、、、モンラム(祈祷)するしかないだろう。
チベットの中で起ったことだ。
宗教・文化省に言って、ツクラカンでモンラムの法要を行なうといいだろう。
ニンジェ(可哀そうに)、、、
我々は仏教徒だ。
幸・不幸、何が起ころうと、主に、それは自らなした過去の業の果なのだ。
地震で命を失ったり、骨折などのけがをしたのは、前世からの業の果が熟し現れたからだ。
だから、これまでに犯した他の有情を害した等の悪業の果から(自分を含めみんな)これで自由になりますようにと祈念するがよかろう。
そうすれば利があるだろう。
自分の心の苦しみを少し減じることができるし、苦しみを逆に徳を積む機会にすることもできる。利がある。
もしも、みんなも災難に遭った人たちと連絡をとる機会があったなら伝えるといい。
不幸な災難はもう起こってしまった。
悲しんでばかりいなで、この時にできるだけ善を積もうと思うべきだ。
マントラ(真言)を唱えたり、ロジョン(苦しみを受け入れる行を中心とする教え)を行じ、他の有情の苦しみを引き受けることができるなら、困難を菩提への道に変えることができる。
それはよいことであろう。
そうじゃないか?
これだけだ。」
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追記
これを書いてる間にも新しいニュースが入ってきます。
朝日とか日本のメディアも現地に到着したそうです。
以下に生々しい写真がたくさん載せられています。
http://blog.163.com/qhhlzx_007/blog/static/443803201031513017215/
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)