チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2010年3月1日

アンナプルナ内院トレッキング・第一日目

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カトマンドゥのホーリーご無沙汰です。
昨日カトマンドゥに帰って来た。
昨日はちょうどホーリー祭の日。ホーリーはヒンドゥーの祭りだが、この日には悪ガキどもが道に繰り出し、通りかかるもの達を囲み色水をかけ、派手な顔料などを顔にぬるのだ。だから外出しないに越したことはない。
ポカラからカトマンドゥまでバスに乗ったが、この走るバス目がけて水フーセンが左右から飛んでくる。
バシッとおおきな音がする。そんなことが続いたが、カトマンドゥに近づいたころ突然ガシャッ!というおおきな音が後ろのほうでした。窓ガラスが派手に割れたのだ。辺りにはガラスが飛び散った。
インドのホーリーは大体午前中に終わるもんだが、ネパールのは夕方まで続いていた。水風船にして投げ合うというのだ流行っているようで、夕方には濡れたカトマンドゥの街角には小さなビニールがこれでもかというほど散らかっていた。

ポカラから見たマチャプチャレ写真はポカラから見た、朝日に染まるマチャプチャレ6993m。
トレッキングはこの山の裏側まで歩くというものだった。
トレッキングは予定より早く8日間で終わっていたのだが、ポカラで三日間ぼお~としていた。
ポカラにはペワ湖というヒマラヤを映す美しい湖があるが、小さなボートを漕ぎだして湖畔の野鳥を撮ったりしていた。

モモチェンガと少年Xポカラまでは撮影分隊といっしょだったとお知らせした。
左の写真を見て、写ってるおばあさんに見覚えがある方もおられるだろう。
岩佐監督の「モモチェンガ/チベットの満月ばあさん」の主人公、モモチェンガばあさんだ。
ばあさまは今も元気にポカラのチベットキャンプ、タシ・ペルケルに暮らしている。
この日はロサの祝いで赤いテントの下に大勢が集い飲み食い、歌など歌っていた。
ところで、その横にいる少年Xが岩佐監督の新作「チベットの少年(仮題)」の主人公なのだ。
普段はダラムサラのTCVにいるのだが、この時は冬休みでネパールにきていたのだ。
さて、どんな作品に仕上がるのでしょうか?
期待して待っててください。

タシ・ペルケル・キャンプの人々タシ・パルケルのキャンプから私一人、街に行く用があったのでカトマンドゥから乗って来たバンに乗った。
すると後ろの席には15人ほどの便乗組がすでに乗っていた。私は一瞬車を間違えたかと思った。
詰めれば小さなバンも沢山の人を運ぶことができるものだ。
真ん中で一番チベット人らしい顔をして笑っているのはチメ・リクジン。今回私の山行きの仲間となった男だ。

アンナプルナ・トレッキング・マップ地図の上の方に「Annapurna Sanctuary」と書かれているそのすぐ下に「Annapurna Base Camp」がある。
今回のトレッキングの最終地点だ。
日本語では「アンナプルナ内院」と呼ばれることが多い。「Sanctuaryは「聖域」と訳した方が解りやすい。
なぜそこが「聖域」なのか?
地図を見れば、これにはこの地の地勢が関わっているとすぐ理解される。
ここは直線で東西20キロ、南北10キロの巨大な楕円形のすり鉢状地形になっている。
周りをぐるりと囲う稜線には7000m以上の峰が15座、8000mを超えるピークが2つあるのだ。
これほど壮大な聖域は他にない。
そこからは険しい渓谷をなしてモディ・コーラという呼ばれる一筋の川が流れ出ている。
トレッキングはほぼこの川をアンナプルナ氷河まで遡るのだ。
この地を聖域と認めるのはヒンズー教徒であり、デビィ女神の住処とされているそうだ。

もっともヒンズー教徒がここに巡礼に来ることは少なく、ほとんどは外国の異教徒たちが景色を愛でに訪れている。聖域と言うからには何か、心を洗われたり、忘れたいことを忘れたりするために行くにはいいところのはずだ。

オーストリア・キャンプから見たアンナプルナ連峰写真は歩き始めて最初の尾根「オーストリア・キャンプ」と呼ばれる場所からの眺め。
このコースのルートは色々ある。
ガイドブックには9~10日間のトレッキングということになっているが、強健なら最短で5日で往復することも可能だ。実際最後にやっと出会った唯一の日本人のサラリーマンは10日の休暇を得て、ここにきてコースを6日で往復すると言っていた。
私は行きに長いコースをたどり、最後の方でゆっくりしたので8日かかった。
天気は朝方快晴、午後曇りということが多かった。

ところでこのアンナプルナ連山はよく晴れた日には仏陀の生誕地ルンビニからも見ることができるのだ。
かつてルンビニ近くにある仏陀が出家する以前に王子として過ごしていたカピラバットゥ城の遺跡から以外に大きくこの山塊が望めたことを思い出す。
シャカムニ仏陀も眺めていた山なのだ。

アンナプルナ28000mに少しだけ足りないアンナプルナ2、7937m。
この南面には雪が付くことがない。黒々とした頂きは飛行機から見るときの目印となる。

赤ん坊を背負い直すのを助けるチメシャクナゲに囲まれた気持ちのよい森のなかの道を歩いていると、追い越そうとした赤ん坊を背負った女性が声を掛けて来た。
「一人では寂しく危ないので一緒に歩いてもいいか?」というのだ。
この辺では確かに道中、人に会うことは少なく女性は危ないと感じるのだなと気付いた。
チメはこれは良い道連れを得たとばかりに盛んに世話を焼こうとする。
写真は赤ちゃんを背負い直すのを手伝っているチメだ。

ここで、チメのこれまでの人生に付いて、彼から聞いたところを紹介しよう。
彼は15歳までチベット本土のドォという地方にいた。
母親は彼が5歳のころ他界した。
それからは父と兄とともに畑仕事や放牧を手伝っていた。
15歳の時三人は近くの国境を越えネパールのドルボ地方に入った。
ドルボにしばらく居たのちポカラに降りて来た。
そこで、亡命チベット人たちはインドやネパールのキャンプに分けて送られた。
彼の家族はポカラのタシ・ペルケル・キャンプに落ち着いた。
それから始めて学校というものに行ってみたが、二年でやめ、その後食堂やカーペット工場で働いた。
二十歳過ぎてから、今度はタシ・ペルケル・キャンプにあるニンマ派の僧院い入った。そこで4年間ガァクパの修行をしたという。
もっとも大体は僧院の厨房で働いていたそうだ。
その後、結婚して今は16歳の息子が一人いる。
法要などがあるときには今でも白いニンマのガァクパの衣装をまとうそうだ。
今はキャンプの民生委員のようなことをしているそうだ。
とに角、明るく冗談ばかり言ってる、典型的チベット人だ。彼と二人で今回も道中は問題なく楽しく歩けた。

手動式回転ブランコこの辺の村でよく見かける、手動式回転ブランコ

孫を学校に送っていくおじいさん孫を学校に送っていくおじいさん。
可愛い孫が自分は行けなかった学校に今通えるようになって、さぞおじいさんも嬉しいことであろう。

 

Scarlet Minivet (Male) 20cmScarlet Minivet (Male) 20cm
ダラムサラでも見かける鳥が多かった。
このミニベットはオスだが黄色いメスと一緒に遊んでいた。

カトマンドゥは相変わらず電気事情がひどくて、中々アップできない、、、

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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