チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2009年11月18日
続・クンチョック・ツェペル氏に15年の刑
昨日少しだけ報告した15年の刑期を受けたクンチョック・ツェペル氏に関するICTのレポートの全文をロンドンの若松さんが翻訳してくださいました。
(以下一部固有名詞を私が勝手に訂正した箇所もあります)
<チベット文化を紹介するウェブサイトの創始者が表現の自由を行使したことによって、秘密裁判で15年の判決を受ける>
ICTレポート,2009年11月16日
中国政府環境省の役人であり、「チュメ=灯明(www.tibetcm.com)と名付けられたチベット人に影響力のあるチベット語サイトの創始者でもあるクンチョック・ツェペル氏は国家機密漏洩の名目で15年の刑を言い渡されたとの情報がチベット本土から亡命チベット人に伝えられました。
罪状の幾つかはチベット文化保存を意図するウェブサイトの内容に関わるものであり、また去年の抗議デモに関する情報を流布させたことも問われたと思われています。
39歳になるクンチョック・ツェペル氏は今年2月26日早朝自宅で逮捕され、その際家は荒らされ、彼のパソコン、カメラ、携帯電話が押収。家族はその後、先週まで全く彼の居所を知ることができず、11月12日に家族に呼び出しがあり甘粛省、
甘南チベット族自治州 甘南中級人民法院で行われた秘密裁判の判決として、15年の禁固刑判決を言い渡されたことを通知されました。
このニュースは、米オバマ大統領、訪中時の演説で、「情報の自由と検閲のないインターネットの開示の重要性」を訴えた時と同じくして届きました。一週間の予定でアジアを訪問中のオバマ大統領は上海で学生を前にしたスピーチでこう語りました。
「情報がより自由になることで、社会はより強くなる。なぜなら、それによって世界中の国々の市民が自国の政府に責任を問うことが出来るからです」
クンチョック・ツェペル氏はアムドのマチュで1970年に遊牧民の子として生れ、チベット語、英語と中国語を流暢に話す。1997~1999年、Beijing Nationality Universityで中国語と英語を学び、引き続き蘭州の北西民族学院で英語を学んだのち、2004年マチュにあるチベット民族中学校でチベット語と英語の教職に就きました。
2005年にチベットの芸術と文学を紹介するウェブサイトを若きチベット人詩人であるキャプチェン・ドゥドルとともに立ち上げました。過去数年の間に何度も(検閲のため)閉鎖されたこのウェブサイトはチベットの芸術や文学の紹介を目的として自己負担で立ち上げられました。
クンチョック・ツェペル氏の友人の証言によると拘束中の9ヶ月の間の尋問などで彼の健康は損なわれており、状態が心配されています。拘束されるまでは、主に彼の収入で家族を養っており、彼の妻も、国家公務員でしたが、今は病気の娘の介護をし
ています。クンチョック・ツェペル氏は1995年にも政治的活動の疑いをかけられ拘束されており、その際、拷問を使った尋問を経験するが、無実を主張した結果2ヶ月後に釈放されました。
現在亡命中のクンチョック・ツェペル氏の親しい友人は「2月にクンチョックが行方不明になってから彼の家族はすでに9ヶ月もの間,帰りを待つ苦悶の日日を過ごしてきたのに、今度はこのような重刑で更に苦しむとこになった。国家機密に関係した罪ということだけで、クンチョックがなぜ15年もの判決を受けたのかも,知らされておらず、彼は弁護士との接見も禁じられている」と話す。
中国政府は“国家機密”の 起訴内容を明らかにする必要がなく,“国家機密”に関する法律や規則は、共産党の管理する政府機関と公安が一緒になって施行し、“国家機密”を漏洩または入手したとして、犯罪として立証する不透明なシステムを作り上
げています。
中国の 人権を監視する団体 Human Rights in Chinaの発表では、政府の癒着から来る秘密管理と、公的な国家機密管理とで、中国共産党指導者らにとって都合の良い情報が国家機密と見なされ、必要に応じて、すでに公開されている情報でも、流布を止めることができます。国家機密法と規則は、その内容により一般に開示されておらず
犯罪に問われた場合、その個人が違反した内容を知ることは非常に難しく、中国首脳陣の呼ぶ所の“協調性のある社会”とは、批判の声を発する者は厳重に取り締まられるという管理社会を指す。
以下のリンクはHuman Rights in Chinaの2007年6月12日の報告書; ‘国家機密:,’中国の法的迷路
http://hrichina.org/public/contents/press?revision%5fid=41505&item%5fid=41500)
2008年3月以降チベットで起きた抗議行動に付いて声を挙げる者を黙らせるため中国政府は取り締まりを強化しており、取締りの際に起きている拷問、蒸発、殺害などの隠蔽行為を強化させています。
チベット文化や宗教に対する取締りは,新たに強化させており、現在ではチベット人のアイデンティティーに関する表現はほぼ「反動主義者」や 「分裂主義者」のレッテルを貼られ長期にわたる懲役または,それ以上の刑に問われます。チベット人文化人、作家やブロガーで、現状に対して自己の意見を表現する者は以前より高い危険を伴い、“蒸発“したり長期に渡る禁固刑を言い渡されているとの報告が寄せられています。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)