チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年11月14日

ジャミヤン少年の昔話

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ジャミヤンの描いたシガツェ刑務所ジャミヤン少年のことを覚えている方は少ないだろうが、かつて去年の6月に彼の話をこのブログで何度か紹介したことがある。
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/2008-06.html?p=2#20080616
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/2008-06.html?p=2#20080618

写真の絵は彼が自分の監獄体験を描いたものだが、この絵は去年「チベットを知る夏」でも紹介した。
かつてNHKさんにインタビュー撮ってもらったこともあるが、それは没になった。

2006年10月、17歳の時、彼はナンパラ峠経由でヒマラヤ越えを試みた。
彼が加わったグループはあの有名なナンパラ銃撃事件に巻き込まれた。
彼は銃殺された尼僧の死体確認を最初にやらされたりもしている。
峠を前に中国兵に捕まり、シガツェ刑務所に二ヶ月間拘留され、しっかり拷問も受けている。詳しくは上記エントリーへ。

ジャミヤン・サムテンとツェリンノルブその彼に久しぶり、というか数カ月ぶりに会った。
岩佐監督の新作のヒーロー役少年捜しの一環としてスジャ・スクールを訪問したのでついでに、会って少し話を聞いたのだ。
もっとも、スジャで監督に合わせた、ツェリン・ノルブもこのジャミヤンも年取りすぎてる!ということで今回はヒーローにはなれそうにありませんが。

カンパ、ジャミヤン・サムテンに子供のころの話を聞きました。
以下、彼が9歳の時のエピソードです。

彼は6歳の時から9歳まで3年間地元の小学校に通っていました。
学校では中国政府がいかに素晴らしいか、チベットがかつていかに貧しかったかということばかり教えられたとか。
とくにいやだったのは、子供同士で喧嘩になったりすると、必ずそれに加わったチベット人の子供はひどく殴られ、中国人は殴られないことだったという。
この事情は他の多くの亡命してきた男の子たちからも聞いている。
3年生の時、彼にとっては大きな、ある事件があった。

以下、彼の話:

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

チョントラ、ゾンサル・ゴンパの壁画、白ターラ菩薩近くの僧院で大きな法要があった。
自分は父に連れられてそこに行った。
法要の最中に一人の尼僧がダライラマ法王のバッジやペンダントを配り始めた。
代わりにお金を渡す人もいた。
父がバッチを一つくれたので、胸に付けた。
ダライラマとはチベット人みんなが一番尊敬するツァワェー・ラマ(根本のラマ)であることは知っていた。

次の日、学校にそのバッジを胸に付けたままいった。
朝教室で担任の先生がそれを見つけ、みんなの前で自分を立たせ、「後で職員室に来い」と言われた。
職員室に行くと校長室に連れて行かれた。
校長はいきなり胸から法王のバッジをはぎ取り、床に投げ、バッジを靴で踏みつけ、自分を殴った。
自分は腹が立って校長に殴りかかったが二人の大人にぼこぼこにされて床に倒れた。
「二度とこんなものを付けて学校に来るな!今度やったらすぐに退学だぞ!」といわれた。
自分は何だか訳が解らなかった。
ただ悔しくて、悲しくて泣いた。

もちろんそれまでに父などから昔チベットは独立した国だったが中国にとられたということは聞いて知っていた。
でも、チベット人と中国人が今も敵同士だとは思っていなかった。
ダライラマが中国にとってどういう存在なのか、ということも知らなかった。

母は中国の役所に勤めており中国のことを特に悪く言うことはなかった。
一方父は決まった仕事に就かず家にいることが多かったが、チベット愛国主義者だった。
父は短気だった。
二人はよくそのことで喧嘩していた。

その日、家に帰ると父しかいなかった。
顔に殴られた後があったので、どうしたのかと聞かれた。
「校長にダライラマのバッジを取られ、殴られた」というと、「そうか、そうか、、それでその校長の名前は?」と聞いた。
父は名前を聞いて、しばらく黙っていたが、そのうち外に出かけた。

夕方、母が蒼ざめた顔をして家に走って帰ってきた。
父が警察に捕まったという。
父はあれから学校の校長のところに行き、喧嘩になり、警察が呼ばれて、連れて行かれたのだった。
母はそれから何日も父を釈放してもらうために奔走した。
父はしばらくして釈放された。

自分は次の日にも学校に行ったが、自分が自分でないようで何もできなくなっていた。
それからしばらくして学校には行かなくなった。

それからは学校にも行かずぶらぶらしていた。
母は自分をまた学校にやりたがったが、父は中国の学校になんかもう行かなくていいといって聞かず、二人はそのことでも喧嘩していた。
そのうち自分はどうしてもインドに行って勉強がしたいと思うようになった。
一度目に失敗して痛めつけられたが、一旦インドに行くと言って村を出たのでもうどうしても行かないと恥ずかしくて村に帰れないと思いもう一度トライしたのだ。

以上

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

彼は今、学校でシンガーとしてデビューし、ちょっとしたスジャ・スクールのヒーローだ。

スジャからの帰り道ダラムサラへの帰り道

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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