チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年10月25日

10月21日、22日の法王ティーチング

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21.10.09 ツクラカンでのティーチング写真は「苦しい時の三つの対処法」について指を使って説かれる法王。

先の10月21日と22日に行われた法王のティーチングの続きについて報告しようと思いつつ今日まで機会を逃していました。

簡単な報告とともに、法王のあるお話を紹介します。

21日の午前中は質疑応答でした。

最初の質問は「チベットには主な四つの宗派があるが、どれか一つを選ぶべきか?」

法王は様々な体験を話され、「私は前半生ゲルク派一辺倒であったが、後半生には様々な他の派から教えを得た。どっちがいいと思うか?と言われ、最後に「すべてを学ぶにこしたことはない。すべて役立つ。無宗派が一番と思う」と答えられた。

次に「法話を聞く間に眠くなった時はどうすればよいか?」

法王「Enjoy yourself!(気持ちよく眠ってください)、、、でもいびきはかかないように、、ヒヒヒ、、、」

次「苦しい時にはどうしたらよいか?」

法王はもちろんここで様々な方法を説かれましたが、

要点は3つのレベルで考えよと:

1、問題の原因は自分の過去のカルマによるものと知って、他人を決して非難しないこと。

2、サンサーラの不完全さについて考えよ。生まれて死ぬまで、常に何らかの問題は起こるもので当たり前と知れ。 根本の原因が完全に取り除かれるまでは苦を味わいつづける。

3.自分の問題、苦しみを例に世界中の60億の人々の苦しみを思え。
自分が苦しむことによりすべての有情の苦しみが少しでも軽減されますようにと考えよ。(トン・レンの行)

と説かれた後、以下の話をされました。

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昨年2008年3月10日の午後。
この日は我々チベット人のある記念日だった。
昼食を終えた頃、ラサからの情報が入った。
ラサのある地区で人々がデモのために動き始めたと。
それを聞いて、すぐに私の心は不安に襲われた。
それは1959年の同じ日に味わった不安、無力感、絶望と全く同じものだった。

私は意図して瞑想に入った。
分析的瞑想だ。先に説明したように、一方に侵略者、一方にその犠牲者を観想し
意図的にこの問題を作り出したものたちに対し慈悲を喚起した。
そして、トン・レン(送り出し・引き受ける)の行だ。
まず彼らの恐怖心、怒り、無明を自分に引き受ける。
そして、自分の慈悲の心、寛容の心を彼らに送り与える。

もちろんこれはただの観想だ、実際には何の助けにもならない。
しかし、感情レベルでは大いに助けとなる。
心の平安を保つために。

だから、困難、苦しみに出会ったときには
自分のカルマとサンサーラ(輪廻)一般について考えよ。
また同じような苦しみの中にある人のことを考え、その人たちの苦しみが自分の苦しみによって軽くなるようにと願うことだ。

でもここで、知らなければならないことは、寛容や慈悲を敵に適用するということは、彼らの不正な行為に目をつむるということではない。
ここで、区別しないといけないのは行為と行為者だ。
行為者については慈悲の対象になるに十分な理由がある。
行為については、不正な行為があればこれに反対すべきだ。
この不正な行為に反対することは実際彼らを助けていることになるのだ。
クリアー。

もしも、その不正な行為をほっておくならば、その悪事を続けることで彼らは必ずその悪い結果を味わうことになる。
だから、もしも止めさせることができるなら止めさせなければならない。
仏陀の前世譚の中にも例がある。
だから、ある人は慈悲の行とは従属することだというが、前にも言ったように、慈悲の行者は必ずしも「YES MINISTER(イエス・マン)」ではないのだ。
ヒヒヒ、、、前にも言ったろう、、、

これは大事なことだ。
日常生活の中で、あなたの慈悲深さを利用する、ずるい人がいないとも限らない。
そのようなときには、状況を分析せよ。
それが実際に不正な行為なら必要な対策をとるべきだ。
その行為者に対する憎しみの心無しにだ。
行為を憎んで、行為者を憎まずだ。
これが大事な要点だ。

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その他「ラマは一人に決めるのがいいのか?」

法王「資格のある立派なラマなら1000人いたっていい。でも資格のないラマならいない方がいい」

最後の質問「世界平和に仏教はいかに貢献できるか?」

これに対してはもちろん法王は長~~い答えをされました。
いつかにします。

午後は「ロジョン」のテキストに入られました。
この「ロジョン」についてはポタラカレッジのゲシェ・ソナム先生が詳しく解説された本が日本語で出版されています。

法王はここで主に大小乗に共通の行である「37菩提行」について解説されました。

次の日22日最終日は午前中だけ。
初めに「文殊菩薩の潅頂」をみんなに授けられ、その後大急ぎで「ロジョン」を終えられた時点で11時を過ぎていた。
最後に残ったジェ・リンポチェの「ラムツォ=〔菩提への〕道の三種の根本要因」をスピードに乗って30分で講義されました。

この「ラムツォ」は10月31日に法王が東京でも講義される予定のテキストです。
「以下にアクセスして福田先生の訳を前もってよく読んで予習しておくように」と石濱先生もおっしゃっています。
http://www006.upp.so-net.ne.jp/yfukuda/Tibet/lam_gtso_rnam_gsum.html

道の三要素とは「出離、菩提心、空性の正しい理解」。

その内、

「また〔すべての存在が単なる〕現れ〔にすぎないと理解する〕ことによって、唯物論的固執を斥け、
〔すべての存在が〕空である〔と理解する〕ことによって、虚無論的固執を斥け、空性が
原因と結果(=縁起するもの)として現れる様子を知るならば、
一方的に固執する哲学的見解によって捕らわれることはなくなるであろう。」

が理解の要点です。
ここで法王は中観帰謬論証派独自の空性理解について説かれるはずです。
「現れ(にすぎない)ナンワ・ツァム」がキー・ワードです。

もっとも、今回のティーチングではこの部分を読まれた後、「すべてバイバイ!バイバイ!ってことだ。ハハハ、、、」と一言で終られました。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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