チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年10月13日

ナムツォ湖畔で考古学的新発見

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ナムツォ前回に続き古い話です。
<ナムツェ湖畔で王朝時代の洞窟線刻画発見>
10月12日付けRFA(ラジオ・フリー・アジア)によれば
http://www.rfa.org/tibetan/sargyur/tubo-rock-painting-discovered-in-damxung-tibet-10122009224543.html

(以下要約)
国家文物管理局(或いは考古学局)は最近9月中に考古学的調査を行った。
この新発見はこの調査の手柄として発表されたものだ。
場所はナム(ツォ)湖畔にあるタシド。
報告に「以前発見されていた洞窟壁画の近くで王朝時代の20あまりの線刻画が新しく発見された。線刻画は馬、ヤー、ヒツジをはじめ馬に跨る人、兵士、占い師(シャーマン?)、
草木、太陽、タルチョ、矢、(逆さ)卍を含み、さらに狩猟の様、家畜を飼育する様、戦争の様などが描かれている。以前発見されていたものは文字の存在しない昔のものであったが、この新しく発見された素晴らしい壁画により時代の空白が埋められた」とある。

ーーーーーーー

ラサの北にあるナムツォにはラサから日帰りもできるというので、今では観光客もどっと押し掛けていることでしょう。
南北に走るネンチェンタンラ峰(7162m)の西、標高4718m天空の湖と呼ぶにふさわしい誠に美しい大きな湖です。
もっともここで1959年、中国軍による凄惨なチベット人大量殺りくが行われました。

10年以上前、私もそこを訪れたことがあります。

それで、私も洞窟の岩の上に描かれている、アルカイックな雰囲気のベンガラ色の線画をタシドの近くに発見しました。
というか話に聞いていたので探したのです。
その辺には真偽はともかくかなりの場所に壁画あるいは刻画が残されているようです。

新発見?されたものは「王朝時代」のものというと、「ヤルルン王朝」のことでしょう。
中国の言う「吐蕃」。
この王朝はチベットの歴史によれば7世紀のソンツェンガンポが約30代目ということになっている。そこで、もし一代を25年と計算すると、この王朝が始まったのは紀元前にまで遡ることになる!
もっとも実際はこの半分の15代ほどであった、と世界的な学者さんたちは考えているらしい。
するとはじまりはAD300年ころになる。
その少し前ごろにカイラス山付近の西チベットにいたこの一族がそのころ東遷し、現在のヤルルン渓谷を中心に勢力を序々に拡大して、ついに大王ソンツェンガンポに至ったというわけだ。
すると、この発見された線刻画はAD300~AD600あたりのものということになる。

とにかく、年代考証については「王朝時代」と書かれているだけで、何も触れられていないのでそれが知りたいのです。
でも、問題がたくさんある。
「以前発見されていたものは文字の存在しない昔のものであったが、この新しく発見された素晴らしい壁画により時代の空白が埋められた」とある。
一応ソンツェンガンポの時代になって初めて文字が仏典翻訳のために創作されたということになっている。
しかし、はたして本当にそれ以前にチベットには全く文字がなかったのか?
ある学者は例のシャンシュン王国にシャンシュン文字というものがあったと主張しているときく。
このソンツェンガンポ以前に文字があったかなかったかで、上記の「以前発見された」ものも「新しい発見」も年代は相当変わってくる。
いずれにせよ、文章からいくと新しく発見されたものは文字がすでに存在したころの話となって、AD600以降ということになる?
よくわからない。

とにかく「逆卍」があるということはポン教徒が描いた絵でしょう。
「占い師(モパ)」は普通「シャーマン(ラペケン)」とは異なりますが、ポン教時代は近い存在と思われます。(何をもって占い師と決めたのか?姿が見たい)
その他、太陽、木はポン教徒の崇めるものです。
面白いのは「タルチョ」が描かれていたことでしょう。
「タルチョ」が仏教以前からあったことの証拠になるかもです。

今回ははっきりしない話ばかりで恐縮です。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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