チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年9月30日

続「殺劫」/チベット人の顔は隠すべきか?

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真実を暴く昨日紹介したウーセル女史の「殺劫(シャーチェ)」の話の続きです。
発音の話ばかりで恐縮ですが、<シャーチェ>について少し調べてみました。
作者の意図は嘗てこのブログで紹介したこともある福島さんのブログの表題にもなっている如く<シャーチェ>は中国語とチベット語の発音が偶然一致した?中国語の<殺劫>とチベット語の<革命>の掛け言葉のようです。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/090327/chn0903270023001-n1.htm

<殺劫とはチベット語で文化大革命の意> 福島香織 (1/5ページ)

以下その一部
「■「殺劫」とは、そのまま訳せば殺し奪うこと。古典・封神演義では仙人に定期的に現れる「殺人衝動」という意味で使われている。しかし、「人類殺劫(レンレイシャージェ)」という中国語をチベット語の発音にあてはめると「文化(レンレイ)・革命(シャージェ)」となる。これは単なる偶然なのか。「四十年的記憶禁区、鏡頭下的西蔵文革、第一次公開(40年の記憶のタブー、ファインダーの中のチベット文革、初の公開)」と副題のついた同書は、チベットにおける300枚におよぶ文革写真に写っているチベット族を探しだし証言をあつめた渾身のノンフィクションだ。そして、解放軍幹部の娘であったオーセルさんの人生を大きく変えた運命の書でもある。」
2009.3.23 17:56

けち付けるわけじゃないが、これには少し無理があるように私には思える。北京方言では<殺劫>は<シャー・ジィエ>と発音され、チベット語の<革命>はラサ方言では<サルジェ>と発音されます(あくまで近似的にですが)。
ひょっとして、カム方言かもと思い、カム人に尋ねると<サルジェ>は<サルジ>となるそうです。ちなみに<ウーセル>は<ゲセル>と読むとか。
結局、この掛け言葉は私には無理があるように思えます。
大したことじゃないけど、みんながこれから<ウーセルさん>を<オーセルさん>と表記し、この掛け言葉の話もまことしやかに語られることでしょう。
一度ウーセルさんに直接きいてみたいですがね。
北京までいってインタビューするしかないですね。電話はかかるのかな?
何れ枝葉の話ではありますが。

ところで、チベット語に<革命>という単語が中国が来る前にあったとは思えません。
チベット語の<サル>の意味は<新しい>で<ジェ>は<変える>です。
文化大革命は<リクネ=文化>を<新しく変える>という意味です。つまり、チベットの文化を中国の文化に変えるという同化政策。これを急速に強制的にやるから<革命>と中国はよぶのでしょう。
もっともこの<革命>という中国語の単語も日本人が嘗てロシア語か英語からの訳語として作った言葉かもしれません。

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真実を暴くより話は変わって、26日のエントリーでチベットより新しく持ち出された証言ビデオ「真実を暴く(仮題)」を紹介しましたが、これに対し以下のコメントが入っていました。

「貴重な映像だと思います。しかし同時に、世界に配信された後の証言者のことが心配でなりません。彼らの身の安全と人権はどのように守られるのでしょうか?ダラムサーラはその責任を負えるのでしょうか?」

というものです。
実はこのビデオ発表の記者会見の席上においても、一人のチベット人が次のような質問をしました。
「このビデオには沢山のチベット人がはっきり顔を見せて語っているが、これを発表することでこの人たちは危険にさらされよう。これに対してどう思うのか?」
作者のリンチェン・サンポ氏はこれに対し「ここに顔を隠さずに話しをしている人たちはみんな、顔をだすことに同意した者たちだ。みんな<死んでもいいから外国に自分たちの言葉を伝えてくれ>とはっきり言った者たちだ。顔を出したくないという人はそのようにして撮った。この人たちは犠牲を覚悟しているのだ」と答えた。

ちなみに、(なぜかその場で)横にいた休暇中の日本の新聞記者さんは「そうは言っても、この人たちに危害は及ぶわけでしょうしね、、、」と不安そうな顔をした。

で、私の考えですが、まず、「日本語版」を作ることに対しては、先に「英語版」が出ていて、「日本語版」はほんのおまけなのでこの件を心配する意味は少ない。
先に同様な「ジクデル」が発表され、作者は逮捕されたが、今までのところ、インタビューに顔を出して応じたチベット人たちが逮捕されたというニュースは伝わっていない(この点は間違ってたら教えてください)。もちろん、逮捕されてなくても、相応の嫌がらせや、尋問中の暴力等は受けた可能性は高い。しかし、これらはインタビューに応じたチベット人なら覚悟の上だ。

私はこれらの映像が世界中に広まれば広まるほどに、その人たちの安全に役立つと思うのだ。もしも、その中の誰かを逮捕したことが分かれば、世界中が黙ってはいない、と中国に解らせることが彼らを守るために我々にできる大事な仕事だと思う。
例えば、ウーセルさん自身も「実際、有名になることが我々反体制作家たちにとっては自分を守ることに繋がるのだ」とおっしゃっていましたが、中国政府が少しでもまだ外の目を気にしているよ、というポーズを続ける限りは、これを利用させてもらうまでです。

もちろん、当事者たちの安全を気遣うということは、大事なことで、やさしさの表れだ。
ただ、一般的に心配性な現代日本人の気質が時に中国の誤解の種になることもあると思う。

かく言うわたくしも去年「ジクデル」が最初に同じようにこのダラムサラで発表された時、「これって、危ないよな、、、様子をみようか?」と思ったものです。
発表の結果は御存じのように今、現れつつあります。

もちろん、厳戒、極秘、緊張効果を狙うために、(故意に)顔をかくしたり、ぼかしを入れたりすることもありでしょう。
しかし、今回の場合は余命幾許もない法王を信じ、覚悟を決めた老人ばかりが映っているように感じました。
本気でチベットのために死んでもよい、と思っているのでしょう。

本土チベットではチベット人は中国人と今も戦っているのだ。
何らかの犠牲無くして、何かの自由が得られるとは決して思っていない。
デモを先導する者たちはみんなその前に死を覚悟して出かけるのだ。
僧侶たちが集団でデモに行く前に死の儀式をした、と言う話を私はたくさん聞いた。
覚悟しないで、どうして残忍この上ない、銃を構える、大勢の中国の武装警官隊の前で声を張り上げることができようか。
声を上げるだけで、その場で袋叩きに合い、その後の長い拷問に耐えなければならない。
ある意味、これを覚悟することは死を覚悟するより勇気がいることだ。
そんな捨て身の訴えがどれだけ行われてきたか。一人だけで、声を上げたものも多いのだ。
法王を思い、同胞を思う、チベット人の勇気には我々には想像もできない特別純粋で揺るぎないものがあるのだ。
だから、チベット人の正しい勇気を讃えるためにも、みんなしてできるだけ「真実のビデオ」を広報すべきだと私は思う。

ーーー

明日はいよいよ、世界史上稀に見るうそつき、残忍パーティー、中国共産党発生の日です。名前からして嘘ですし。

戦争被害調査機関ウォーレン・コミティの発表によれば、文革が終わるまでに毛沢東の政策の犠牲になった者の数は3500万人~5500万人。
何を祝うつもりなのでしょうか?

ダラムサラの人々は、明日の朝9時よりツクラカン前に黒い服を着て集まり、この日を喪に服す日として表現する。

法王のバンクーバー・パーティー左の写真は法王の若者を集めてのバンクーバー・パーティー

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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