チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年8月28日

透視・あるチベット人青年作家の“失踪”

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タシ失踪した若きチベット人作家タシの話は先のブログでもお知らせしましたが、
http://blog.livedoor.jp/rftibet/archives/2009-08.html#20090818

彼に関し、再びウーセルさんの8月25日付ブログに吉姆措さんと言われる方の記事が掲載されていました。

以下、その記事を細野様が翻訳して下さいました。

透視・あるチベット人青年作家の“失踪”
http://woeser.middle-way.net/2009/08/blog-post_25.html

文/吉姆措2009/08/08

先日チベット内で、チベット語のブログ上に「アムド出身の大学生作家が“失踪”した」との情報があった。続々と書かれる記事を読んでいて冷静ではいられなくなった。チベットの若い知識人の間で彼を知らない人はいないだろう。しかし彼は母語を用いて同胞に対しチベットの苦境を訴え続けてきたため、外界ではあまり知られていなかったかもしれない。彼の度胸や知識・思想・チベットへの見解はチベット内の各大学、寺院や若い知識人の間で人気を博していた。
私自身、彼とは面識はないが、もうずっと前から彼を知っているような気持ちになる。なぜなら私は彼のブログの熱心な読者であり、いつもパソコンをつけるとまず彼のブログを見ていたからだ。彼の書く詩・エッセイはチベットの状況をまるで鏡に映したかのようだった。たしか2006年から私はほぼ毎日彼のブログを見るようになった。そして彼が最後に書いた文章を読んだ時には、その憂鬱な文字が“失踪”がそう遠くないことを語っているように感じた・・・。

タシ彼の名はTashi Rabten(以後タシと記述) 25歳前後。
ペンネームはTe’urang(テウラン)
写真を見ると洒落た青年といった感じだが、彼の文章はそれ以上に魅力的で人を引き付けるものがあった。タシは四川省アバ州ゾルゲ県の出身で、甘粛省蘭州市の西北民族大学のチベット言語文学部の3年生であり、また当大学の有名な民間チベット語雑誌【夏東日-シャルトゥンリ―】の編集者の一人でもある。そんな来年には卒業という人間が忽然と“失踪”した。ここまで母一人、苦労を重ねながら彼を大学まで養ってきた。それは簡単なことではなかっただろう。私はこのことがおおくの注目を浴びるよう切に願っている。

一部情報によれば、
今年7月17日西北民族大学が夏休みに入った後、タシは久しぶりに帰省し、7月26日   ゾルゲで突然“失踪”している。彼の友人はタシが公安当局によって連れて行かれたものとみている。
友人は次のように語る。「タシは今年【血書(Written in Blood)】という本を自費出版していた。この本の中で彼は2008年のチベット騒乱の記録と中国による鎮圧の真相に触れており、ラサ在住のスイス人が語った<中国軍がチベット人になりすまし、刀をもってでっち上げの現象を作っていた>などの内容も暴露しており、敏感な問題にも多々触れていた。この本をチベットの各大学・寺院に500冊あまりを配ったが、残る半分は警察によって没収されてしまった。それからは目をつけられ、何度も尋問を受けていた。」
タシの親戚は次のように語る。「先週タシは家族へ一度電話をかけてきている。母親に対して今自分の状況に不安を抱いているとだけ語り、連絡をとるのは難しくなるだろうと言い残し電話を切った。匿われていたのかもしれないが、それからは現在に至るまで何の連絡もない。」

タシは独立思想を持った若者であり、彼の本【血書(Written in Blood)】のまえがきにはこのような記述がる。
「若さと薄っぺらな財力でこの本を作りました。もしかしたらまだ早すぎたかもしれません。しかし常に思想さえもコントロールされるような時代であり、特にあの悲しい事件の後であり、これらを語らずにはいられませんでした。口を閉ざすより真実を語るべきだと感じたのです。この本を2008年―2009年の痕跡としてみなさんへ捧げます。」

以下の2つの詩は彼の書いたものを訳したものです。

血に染まる人

――自由のために命を捧げた者たちへ贈る――

心は朝露のように澄みきっているが
言葉や両手は枷鎖の中で沈黙している
至る所で穴の開いた自由を嘆いている
地面に倒れた一つ一つの死体は燃え盛る炎のようである
顔を真っ赤にしながら瞳は自由の光を探し求め
わずかに動くそののどがやはり宣言している
血に染まった手はまるで美しい花の刀を握り締めているかのように

2009/07/08

チベットの花の季節暗黒の内外

――崗尼(アムドの村の名)と崗尼のひとたちへ贈る――

花の季節が訪れる
しかしここは依然として冬の山を越えられずにいる
人々はまるで古ぼけたテントの中で
寒冷の歳月に耳を傾けているかのようだ
外を吹いているのはなにも砂埃だけではない
妻に対しての少しの私語でさえ盗聴を恐れ憂慮する
そう、周囲には暗黒と恐怖が渦巻いている
そして小心翼翼と自分の気持ちを閉じ込める
鋭い目がのぞき見ている
思惟と勇気で命の光を磨こう
友よ、暗黒の内外だ、絶えず自分の片腕にまで注意せよ

2009/03/25

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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