チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2009年8月17日
ラダック野良犬診療所
今月、ラダックには法王がいらっしゃる。
法王のティーチングや潅頂やらを受けるため、商売のためと、おそらく一万人を越えるチベット人(主にラダック、ザンスカール、スピティ、ラホール、ダ・ハヌーの谷の人たち)、と外人が集まっている。
これに関連し、
今日は自分の誕生日なのですが、生まれたことにも意味が少しはあった、という自己満足のために末娘の話をします。
娘のニマは21才、このダラムサラで生まれ、TCVに高校終わりまで通った後、今イギリスのエジンバラ大学で獣医学の勉強をしている。
兄弟の中でも一番チベット化された子供と思う。
とにかく動物愛護で、普通のチベット人のように、蚊はもちろん殺さないし、道に迷い出たミミズも助ける。
ダラムサラにいる時はベジタリアンを通していた。
しかし、まじめな風はまるでなく、とびきり明るく、いつも兄のマネをしてダラムサラ一の悪がきファッション振りを楽しんでいた。
家には昔から犬、猫、ウサギ、鶏、とペットが多かった。
それでも、犬は何匹もユキヒョウに食われる、猫は犬に、犬は猿を、ウサギの足を犬が食うという風に事件も多かった。
そのせいなのかどうか良く分からないが、人より動物の方が可哀そうと思うらしく、獣医になりたいと思い始めた。
夏休みはいつも研修の単位を取るためにどこかの牧場や病院に行く。
今年の夏はラダックに行っていた。
獣医の世界にも<Vets beyond borders 国境なき獣医団>というものがあるのだ。
この団体の活動の一環として、この夏<ラダック野良犬去勢プロジェクト>というものが行われた。
世界中とインドから11人の獣医とボランティアが集まって、朝から晩まで、去勢手術と狂犬病の予防接種を行った。
その数何と695匹。
何で、こんなに世界の果てに野良犬が多いのか?だが、まずは軍人が持ち込むのとチベット人難民キャンプの人が犬好きで、沢山犬を飼うがその分、野良犬も発生するということらしい。
ニマはチベット語とヒンディー語が話せるので、みんなに通訳としても重宝がられたとか。
もちろん、同時に犬の健康診断を行い治療の必要な犬には手術や薬を与える。
娘の話だと、特に目立つのが、交通事故による、手足の損傷だという。
何匹もの犬の手足を切断手術したという。
「でも犬は何の文句も言わず、三日もすると三本の足で、元気に走って寄ってくるようになるよ」と嬉しそうに話す。
「野良犬、たくさん助けられて良かったね、本望だね、、、」
と言うわけで、今回ラダックに集まる、法王始め全員、狂犬病を怖がること無く、野良くんとじゃれ合うことができるということです。
幼い時に別れた娘だけに、こんなことでも、親は生まれた甲斐があったと思ったりするものなのです。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)