チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2009年8月16日
続ロタン峠の花々
14日、ブンタールという温泉の谷を降りたところで建設中の寺の現場に行った。一年前とほとんど変わらず、全くのんびりの現場だ、10年関わって、まだ完成しないとはね、、、
ぐずぐずしてるうちに近くにもっと大きな僧院ができちゃったが、まあ僧院の大きさは教育の質とは関係ないが。
昼間の暑さを避けるつもりで夜ダラムサラに向け走り出したが、中々ロタン峠に負けず劣らずチャレンジングでワイルドなドライブとなりました。
まずは大雨、ワイパーはまるで頼りなくゆっくりと上がっては下がる。雨の強さに前がほとんど見えない。なのに夜中のトラックやタクシーが無理な追い越しを繰り返す。突然目の前に大きな石が現れ急ハンドルで避けること数回。
真っ暗なカーブの多い崖道には大雨のせいで落石が至る所にある。それもかなり大きな石ばかり。
次には霧、濃い霧に時に視界が10m以下になる。
それでなくとも、真っ暗なカーブばかりの道で道が一体どっちに向かっているのか、本当に解りにくい。
真夜中となり対向車もこない、霧の中を走り続けているうちに、ここはどこかしら?黄泉の国?、、、と眠くなる。
と、突然大きな土砂崩れで道がふさがれているところに出くわした。
車は数台しかいない。
真っ暗でまるで様子が解らない。
諦めて、車の中で寝ているドライバーもいる。
それでも何人かが道を作っているようだったが、、、彼らも突然散った。
土砂崩れは止まっていないようで、まだ落石があるらしい。
もう今夜はここで終わりかな?
私も寝るかね、、、?
と思いながら2時間ばかり、そこにバスが来た。
乗客が総出で道を作り始めた。
しばらくして、バスが全速力で突っ込む。大きく揺れながら向こう側まで行った。
大きな歓声が上がったものだ。
続いてトラックとランクルが突っ切った。
しかし、私は同じタイプの車が通るまで様子を見ることにした。
案の定、同じタイプのマルチ・スズキは誰も行かなかった。
そのまま、また一時間ほどたった。
向こうからバスが来た。
続いて小さな車も来た。
私も行く決心をした。
とに角、途中で止まらないことだ。
落石に遭わないようにと祈りながら。
突っ込んだが、大きな石と泥の連続、最後の方で避けられぬ大きな石をまたいで底が大きな音をたてたが、そのまま突っ切った。
随分とまた可愛い借り物の愛車を痛い目に会わせてしまった。
結局ダラムサラには朝の6時に到着した。
まずブルー・ポピーだが、これには20種類ぐらいあることは以前にも書いた。
今回ロタンで見かけたのはすべてMeconopsis aculeataという種ばかりだった。
ちなみに小川先生が薬草として揚げておられるツェルゴンもウーペルもMeconopsis horridulaのようだが、どちらも効能はいっしょなのかな?
以下チベットの薬草として小川先生のブログに紹介してある植物についてはそのURLを示しますので、詳しく知りたい方はクリックしてください。
http://www.kaze-travel.co.jp/tibet/tibet_ogawa047_1.htmlには
「ウッペル・ロ・チン・ツェパ・マルー・セル
ウッペルは肺と肝臓の熱を残らず取り去ってくれる。(四部医典論説部第20章)」
とあります。
それにしてもこの花は生息場所も崖であることが多く、なぜか禁断の風情で人を誘う花ではあります。
種を採取したので、来年は家で育てられるかも?
これはあの有名な暗殺薬<トリカブト>と思われる。
歴代ダライラマの中にもこの毒草の犠牲になられた方がおられるとか。
これにも何種類かあって、中には強壮薬とか胃薬にもなるものもあるようだ。
Aconitum feroxと学名で呼ばれる種類の根茎部分に強い毒があるという。
チベット薬草学ではポンガ・ナクポと呼ばれ、
http://www.kaze-travel.co.jp/tibet/tibet_ogawa007_1.html
「強心、鎮痛、興奮を目的に用います。身近なところでは下半身の病気に用いる漢方の八味地黄丸に配合されている他、狂言でも「附子(ぶす)」の題目で演じられています。」ということです。
今回この一草のみ、見かけました。
http://www.kaze-travel.co.jp/tibet/tibet_ogawa038_1.html
「法が乱れる濁世の五百年、魔鬼がさまざまな急性の病気を引き起こす。鬼女が伝染病をまき散らす。外教徒の作る新たな物質が毒となる。その時、自分と他人を守る術をここに教える
『四部医典』最終章第156章より」
「ルクル・ムクポ・ドゥクドゥ・シャドゥク・セル
ルクル・ムクポは毒を集積し肉の毒を消し去る
四部医典論説部20章」
http://www.kaze-travel.co.jp/tibet/tibet_ogawa011_1.html
3200mぐらいに下がったあたりで道のそばの崖にブルー・ポピーを見つけ、車を降り崖を登る。崖の上は一面花畑だった。
このキノコは何でもないが、実は最初にロタンの野原に降りたとき、目の前の馬糞の上に三本の立派な「ワライダケ」またの名を「マジック・マッシュ」が生えているのが目に入った。
何でこんな高地に?
と思う間もなく、写真を撮ることも忘れ、それを採取しておりました。
なので、貴重な4000mの高地馬糞の上に生える「ワライダケ」の写真は無いのです。これはその変わりです!?
「ロタン」とはチベット語で「ロ」=「死体」、「タン」=「原」という意味なのでここは「死体の原」と呼ばれているわけだ。過去にここで激しい戦闘が行われたとも言われる。
そんな話を交えれば、彼岸に霧の中に咲くヒマラヤのプルーポピーは亡き人の姿にも思えてくる。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)