チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年7月1日

ランタン最終回

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朝やけランタン谷七日目以降、最終回。

その日をキャンジン村最後の日と決めていた。
もう一日居れるかも知れないと、デリー行きのフライトまでの日数を計算しながら、迷いながらも珍しく早めに発つことにしたのだ。

キャンジン・リ頂上にあるタルチョとナヤカン峰読経会が始まるのは朝8時。
それまでに、朝まず、村の上に聳える岩山(キャンジン・リの手前)の頂上まで登って帰ってくる予定。そこの高さは4350mだから、500mほどほぼ直登することになる。
宿の人に「何時間かかる?」と聞くと、「一時間半」とのこと。
「昨日はランシサまで3時間と言ってたが、4時間かかった。上まではきっとお前には一時間半で、俺は2時間かかるだろう」と言った。その計算で朝4時過ぎには歩き始めた。
しかし、上までは案外近くて1時間丁度で着いてしまった。

キャンジン・リ頂上にてその間にランタンの朝焼けを堪能した。
頂上にはタルチョが沢山結び付けられていた。
ここで、私も持ってきた自分のタルチョをタルシンに結びつけ、すべての有情が様々な苦しみから救われ、様々な幸せを得ることを祈った。
次にこれもカトマンドゥで買った「チベット雪獅子国旗」を取り出し、<プ・ゲロー!>と一叫びして、ランタンをバックに一人で記念写真。

キャンジン村とナヤカン峰帰りは斜面が急なので真っ逆さまにゴンパに向かってカラスが急降下しているようでした。
20分で下りてしまいました。

朝、8時ちょっと前に急いでゴンパに入ろうとすると、前に座り込んでいたおばさん連が「朝は食ったのか?これをまず飲んで行け」と、私は遅れそうだと急いでるし、ちょっと見た目にうまそうでないので、断った。

キャンジンゴンパの前ででも、どうしても飲んで行けとしつこい、それはツァンパを緩くお湯に溶いたもののなかに何か根っこのようなものが入っていた。
不味くて、吐きそうだったが、我慢して胃の中まで流し込んだ。

読経会みんなは私を待っていたようだった。
今日最初に回ってきたお経は「二万五千偈般若」の終わりの方。
これも、とにかく私の大好きな「トンバニ(空・空性)、、、トンバニ、、あれも、これも、私の中も外も、トンバニもトンバニ、、、すべての現象は夢だ、幻だ、水月だ、マジックだ、虹だ、、」の連続なので調子よく、読みやすいのでした。

しかし、午後からは「宝積経」に移った。このお経自体、初期大乗仏教時代のお経を集成したものだから、話題は色々変わる。このお経に入ってからはぐっと読むスピードが落ちてしまった。
意味が解らないと、中々大きな声で読み上げることは難しいものだと思った。

ランタン・リルン南東陵ここで、このカンギュル読経会の会計の話を少ししよう。
この一か月以上にも及ぶ大掛かりな読経会がこの谷で行われるのはこれが初めてだという。
最初、お茶くみに回っている大施主の奥さんから「この谷初めてのこのカンギュル読経会に遠い外国から読みに来てくれたとは、本当にうれしいことだ」と、ただの冷やかしなのに、うまくおだてられたものだ。

読経会を覗きこむ子供どうして今年この会を行うことになったのかについては聞かなかったが、経済的余裕からくる新仏教復興運動の流れでしょうか。
私は自分で寄付をした後、仲間から「何でお前が寄付したんだ?あっちから貰うのが当たり前だよ」と言われた。
読み手はそれぞれ一日500ルピーの読代を貰うのだそうです。
その上、数日かけてここまできた者にはその費用も出るという。

キャンジン・ゴンパこの辺では悪くないバイトだと思いました。
その他、お茶と食費等を入れて全部で予算は日本円で150万円ぐらいかかるそうです。
このお金はランタン谷周辺の12村落が分担して拠出したそうです。

できれば3年は続けたいとの話でした。
来年もやるなら、日本から読経隊を組織して、乗り込むことを約束した。

キャンジン村の子供この辺の人たちはお金をまず子供の教育に使います。
子供は早いうちからカトマンドゥの寄宿舎付きの学校に送られます。
この学費は相当高いのです。年間5万~8万ルピーだそうです。
外人の来ない谷の人々は現金収入の機会が少なく、子供を学校に送れないものも多いそうです。例えば、シャプルベシから北のチベット国境までの村では子供は学校ではなく僧院に送られることが多いのです。一緒にお経を読んでた若者たちがその例です。

教育の次には、こうした仏教的行事に使われるようです。
私は今回少しだけこの谷の読経会に参加させてもらい、本当に楽しかった。
こんな山奥で、こんな素晴らしいことが行われているということが楽しかったのです。

イエロー・ポピーとタルシン日本の田舎で一か月かけて「大蔵経を読む」ということはあり得ないことでしょう。
日本では本当に読むと時間がかかるというので、ある宗派のある有名なお寺では、アクロバティックにお経を空中に右から左へと飛ばして、それで読んだことにするそうです。
きっと中国語が読めないのでマニコロと同じ発想で始まったのでしょうかね、、、?

その夜はバカ若者に「おい、今日は最後の夜だろう。俺は今から女の所に行く。お前もあれとどっかに消えるといい」と言われ。

かまどの前の夕食の時には女の替え歌に「昼間は~~写真ばかり~~とってる~~
夜は~~~何するの~~~」とやられ。
またみんなから笑いの種にされる。
そのうちチャンが回って来て、いよいよ盛り上がった。

次の日の朝、後ろ髪を引かれるようにしてキャンジンを後にする。
ランタン村を駆け抜け、一気にラマ・ホテルまで下った。
割りと、早く着いたので、本気なら一日でシャプルベシまで下れたのよな、、、と思った。

次の日にシャプルベシに着いて、まずは噂の温泉に行って見たが、ちょろちょろのかけ湯だけだったので、ガッカリした。

帰りのバスと同型その日にはバスがカトマンドゥから来なかった。
マオパティが交通バンを行ったとのこと。
もちろん次の朝出るバスはない。
その次の日、苦行バスの一番前の席に陣取り10時間頑張った。
とにかく下界は暑かった。

カトマンドゥへの帰り道で
空性が故に現れる、これら稀有な因果に従った幻は、だから美しい。

キムシュン峰 6745m

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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