チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年6月28日

ランタン・トレッキング四日目

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朝焼けのランタン・リルン朝五時前に目が覚めたのでそのまま外に出た。
雲が無い。そのまま、カメラを持って薄暗い山道を氷河の奥の方に向かった。
やがて、ランタン・リルン峰上が朝焼けに照り映えた。
しばらく朝焼けが続いた後、本当の朝日が頂上から下に向けて降りてきた。

このランタン・リルン峰(7245m又は7225m)に1978年世界初登頂したのは、実は日本の大阪市立大学ヒマラヤ遠征隊だそうです。

しかし、この山は土地の人々によっては侵すべきでない聖山ゲニェン・レールです。

再び風本に「ゲニェン・レールへの帰順の意思表示は、不浄な行為を浄化するほかに、この村の日常生活の一切に及んでいる。四季折々の祭事はもちろんのこと、生業である農牧畜への豊穣祈願、人の生から死にいたるまで、ゲニェン・レールへの感謝と慰撫、請願祈願と限りない。ヒマラヤの小さな谷に住む人々は、自然に対峙して生きている。自然との共存なしには生存そのものが成り立たない。それゆえに自然の災害を忌避するために細心の注意を払ってきたのだ」という。

ランタン・リルン(ゲネン・レール)峰7245m南西面このとき、貞兼さんの質問に答え、この後も出てくる司祭(シャーマン)のニマ・ゴンポ氏は「わしがゲニェン・レールにお願いしてやった。ジャパニーがやってきて、祈願してくれというからな。無事、何事も起こらなかった。ゲニェン・レールはわしの声を聞き分けるんじゃよ」と言ったそうです。

ランタン・リルン南東稜朝日を見た後、一旦宿に帰り朝食を取って、すぐにまたド・サンと共に氷河の方に歩き始めた。
その日は午前中、タルナの洞窟まで行き。
午後は読経会に参加する予定だった。

タルナ2タルナの洞窟までは2時間の予定。その日はド・サンに「一人で行くから一緒に来なくていい」と言ったのですが、彼はタルナがグル・リンポチェに祝福された特別の聖地と聞いて、自分も一緒に行きたいと言い出したのです。

撫でてもらおうと寄ってくるヤギたちタルナの岩屋はシャーマン達のゲニェン・レールとの交信の場所なのです。
タルナか、後に出るサンシサで交互に毎年7月の満月頃に神降ろしが行われるそうです。

その様子は風本に詳しく書かれています。

タルナ3風本より
「その夜のタルナの岩屋は異常な熱気が充満していた。タルナはゲニェン・レールの氷河右岸にひっそりと開けた夏の牧草地だ。五色旗を連想させる地名に違わず、瑞々しい緑一色に染まったなだらかな起伏をなす草地には、サクラソウ、イエロー・ポピー、シオガマ、アズマギク、ウスユキソウなどの草花が咲き競い、さながら天上の楽土を思わせる。

ヤナギ科の灌木の根元にはイグチやマッシュルームなどの茸も生え揃い、氷河の移動で堆積した土手には薬草や香辛料にもなる植物が群生し、一跨ぎほどの小川は深い底を透かせて蛇行しながら音もなく流れる。岩屋はこの短い夏の楽園を見下ろす丘に黒い巨大な牡牛のように横たわっていた」

Primula .......サクラソウの一種花道を辿ってタルナに行ってみると、まさに風本の通りの楽園でした。

ここではまだ少し時期が早いのか、イエロー・ポピーの株はそこかしこにあったが、まだ花は固い蕾の状態だった。

タルナ4さらに風本より
「十日目の上弦の月がタルナの夜の中空に移動し、シャーマンを迎えた岩屋は深夜にいたって最高潮に達していた。時間の経過とともにシャーマンのうち鳴らす太鼓は小刻みに激しさを増し、それに鼓舞されるように身体が左右、上下に揺れ、やがて太鼓が止む。一瞬の静寂を合図に洞内の聴衆は身体を耳にして、シャーマンの口から繰り出される言葉を聞き取ろうと静まりかえる。

タルナアー ハー
われ 人界に下り
ゲニェン・レール(峰)に降りて在り
われ 下界へ降りてきたり
われは メメ・ペンギャップ なり

(中略)

タルナ5胡坐をかいた身体が宙に浮いたかと錯覚するほどの激しいシャーマンの動き、静寂のうちにくぐもった声で伝えられる言葉、うち鳴らされる太鼓の規則正しいリズムと人々の熱狂。この一連のプロセスが幾度か繰り返され、途切れ途切れにメッセージが伝えられる。一つ一つのセンテンスをつなぎ合わせると、ようやく言葉が一つの意味をもたらす。

タルナからの帰り道,氷河舌端の氷河湖聖地巡りて ランタンの谷に入りぬ
雪山の麓 岩窟を住まいとして行を修む
三年三月と三日

岩窟のめぐりに ヤナギとスギ
右に 岩の精霊の住まう宮殿
左に 木の精霊の住まう宮殿

生きとし生けるものへの 祈りを行とし
もろもろの精霊 共に在りて嬉し
われは メメ・ペンギャップ なり

初め 天の御柱空を駆け 道を示して言う
隠れボンポ在りて 汚濁と混沌の闇に迷い 迫害に苦しむ
諸々の精霊と生きとし生きるもの そこに集いてあり

われ 生国の地霊 守護神 仏法の教えを去り
ヤク牛を伴いて出ず
彼の地 大地の生業なきを 想いしがゆえなり

その谷 よくヤク牛を育て 殖やせり
人界の牛飼人を招き 住めり
隠れボンポにまみえ その教えを知る

われ 仏の教えを去り ボンポに従う
われは ボンポになりぬ
われは メメ・ペンギャップなり

一本だけ見かけた白いアヤメ言葉はシャーマンの身体を拠り所にして遠い過去から伝えられたと思われた。異次元をつなぐ装置としての身体、送りだされるメッセージ、それを人々は熱狂のうちに受信する。この夜の岩屋は、さながら宇宙から飛来した物体とかしていた。」

タルナは本当に心地よさそうな場所でした。
水もあるし、ここに住んでもいいと思ったぐらいです。

カンギュル読経会午後は読経会に参加しました。

キャンジン村の子供

タルナへの道

ナキウサギ

名称不明

ヤマバト

Myricaria rosea

Astragalus candelleanus

キャンジンゴンパの夕の集い

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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