チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2009年5月16日
チベットから「テレビ」の話二つ
最近続けてチベット内地から「テレビ」に関するニュースが入っています。
まず最初のものは中学生のデモがあったラプランあたり、甘粛省甘南の話ですが、至って解り易いものです。
<アムド、ケンロ(甘粛省甘南蔵族自治県)の当局はチベット人が外国からの情報を得るために設置しているパラボラ・アンテナの強制撤去を始めた>
5月15日付RFA:
これは県内のチベット人居住地に限られ、今月5月10日から15日間の間に自発的に撤去するようにとの命令が出された。
理由はチベット人たちがアンテナを立て、VA(アメリカの声放送)とかRFA(ラジオ自由チベット放送)とかを聞くことを阻止するためだ。
当局はその後、政府の放送をより鮮明に見ることができるようにすると言っている。
これに対し、地区のチベット人たちは抵抗の姿勢を見せていると言う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これはチベット人の生命線(法王のお言葉)を完全に切断しようと言う企みです。
次は解説なしでは誤解されるようなチベットならではの話です。
<中国は愛国教育推進のために新手を考えた>
5月15日付亡命政府リリース:
http://www.tibet.net/tb/flash/2009/May/330509.html
チベット自治区内の僧院、尼僧院の役付きの僧侶・尼僧たちはそれぞれの地区ごとに集められ、愛国教育を受けさせられているという。
その中、今回特別なことは各僧院、尼僧院は建物を修復するための経費を計上するよう求められ、各僧院に大きなテレビを二、三台ずつ、その上僧侶の部屋ごとにテレビや様々な電気器具を与えると言うのだ。
これは断ることができないという。
僧侶たちには台所用品や寝具なども与えられ、これらはすべて中国政府の施し物だと説明している。
この目的は二つ考えられる。
一つには最近は中央の主だった僧院だけでなく、地方の小さな僧院にも外人観光客が来るようになったことを踏まえ、地方でもチベットの宗教は国によって守られ、援助されているということを示すため。
二つ目は、先の愛国教育集会の様子などを含めた、政府のプロパガンダ放送を嫌でも見させるためと思われる。
僧侶たちには必要もなく、要らないと言ってるものを与え、それで政府の人気を得ようと思っているのか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これは、ちょっと変わった策ですね。
中にいるチベット人達は中国のテレビは嘘ばかりで見ていると頭が痛くなるのでテレビは(VA,RFA以外)見ないという人が多いと聞く。
以前から僧院、尼僧院には中国のキャンペーン班が回って来てスクリーンを張って全員強制的に中国のプロパガンダ映画を見せられていたという。
それにしても、僧房ごとにテレビ一台ずつですか!?
一体どんな僧院になるのでしょうね?
思うに、この不景気で軍管理下の家電工場にテレビの在庫が山積みとなり、在庫一掃処分を兼ねて一挙両得?と発想した人がいたのじゃないかな?
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)