チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2009年2月21日

第5日目 ルナックーー>カンチュン

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第5日目、ルナック・ダラムサラ5090mーーーー>カンチュン5200m

今日は高度差こそ大したことないが、そのほとんどが氷河上の道なので、相当きついと覚悟して歩き始めた。
アン・サンポのヤク追い
しかし、すぐに登りで息が切れる。
大体いつもペースが少し早すぎる。まずヤクのペースが速い。
本当はそんなに早くないが人が先へ、先へとせき立てる。
このときの掛声が面白い。まるでヤク語を話して(怒鳴って)いるようだ。

例えば「ドーオー!ウリ!」は「行け坊主ヤー」。「シューウー」は「止まれ」。「ショー!」は「こっちへ来い」。これらはチベット語そのものだ。
しかしその他「ソヤ!」「オリャー!」「オ、ロロロロロロ」「オ,ツォツォツォツォツォ」「オ、ホホホホホホ」とかいろいろ話すが意味を聞いても訳せないとか言ってる。
ガワンは「アン・サンポはニョンパ(気違い)だからヤクとの話に意味なんかないのさ」とコメント。

アン・サンポは口笛と掛声と石投げでいつも先頭切ってヤクを追いたてて坂を駆け上がる。
ガワンは大体お経を口ぐさみながら進む。ケルサンは近道を探りながら先に進む。
我々はついていくのがやっとだ。特に登りになるとぐっと遅れる。肺と心臓がオーバーヒート状態となる。
ガワンが子供の死体を見つけた場所を示す
少し行ったところで、ガワンが先の大きな岩を指して、「あの岩のうしろあたりで女の子が死んでたよ」と突然言う。
詳しく聞くと「そうだな、ディンリからの帰り道、7,8年前だったと思うが、、、秋だったが、その時には雪が沢山積もってた。道の先に雪に半分埋もれた、人のような塊を見つけた。近づくと確かに死んだ人だった。
7,8歳の子供のようだった。男の子か女の子かわからない。ニンジェ(可哀そうに)、仲間と一緒に氷河に埋葬したよ。雪で仲間とはぐれて行き倒れたのだろう。
うつ伏せに倒れて死んでたよ。ニンジェ」と話した。
オーマニペメフーン。
途中のラプツェにタルチョを結びつけるガワンたち
氷河の真ん中の小高い丘にラプツェがあった。ここでもガワン達は持ってきた新しいタルチョを結んで長いお経を上げていた。
自分たちもナムチェでタルチョを買ってきてたが、一張りづつしかなく、ナンパ・ラ用に取っておくしかなかった。

疲れ気味のN2
左の写真に小さく写っているのはN2だが、今日は彼ははじめから遅れ気味。きついきついと言っている。だいたい撮影機材を身につけ過ぎているから、重いに違いないのだ。
今日は予定ではザザンパと呼ばれる峠の前のキャンプ地までのはずだったが、N2の調子もよくないので手前のカンチュンに泊まることにした。
しかしその分、明日の峠までの行き帰りは相当長くなるはずだった。
テントの外に集められたヤクフン
着くと陽のあるうちにヤクフン集め、水くみ(氷世界で水はほんとに限られたところにしかない。冬も水があるところがキャンプ地となる)、ヤクの餌作りと忙しい。

ケルサンが集めたチベットの藁
ケルサンが藁を集めていた。これらの藁はみなチベットからきたヤク隊と一緒に、ヤクの餌としてここまで運ばれ、散らばったものだという。ケルサンはそれを一本一本集めてヤクにやっていた。

ガワンはいつものようにダン茶(中国の成都あたりからここまで運ばれてきた・カム茶)を湯でほぐし、多量のツェンパ(自分でディンリから運んできたチベット産)と混ぜて、最後に日本の大きめの△おにぎりそっくりの形にして並べている。
ヤクの口に一口ずつ手で与えるのだ。
いつも家族同然に大事に扱っている。
はっきり言ってヤクの方が食費が高くつく!
自分たちのたべるのもツァンパばかりだ。
カンチュンのテント場、小さいのか私のテント
今日は、私は自分一人のテントを張ることにした。
ナムチェでテントを二張りネドゥン氏から借りたが、小さい方のテントは前のルナックで張ってみて、あまりにひどいので使えないということになっていた。
何しろそのテントはどう見ても夏のビーチ用と思える代物で、いたるところがネットになっていて風通し抜群の夏仕様だった。
それでも、私は今日は一人で静かに寝たいと思ったのだ。

ナンパラ方面
テントを張り、目立つネットの上にテーピングを施した。
陽が山肌に隠れると、外はー20度を切った。

ガワンの持ってきたヤクのしゃれこうべ2
ガワンはどこからかヤクの頭の骨を持って来て岩の上に置く。
「どうしてそんなものを持って来たのか?」とN2。
「この辺で野たれ死んだヤクだ。ニンジェと思って持って来たのさ、、、」との応え。

ジョオ・ラプサンの山影に消える西日

ジョオ・ラプサンとビーナス 今日は満月。チベットでは今日が一年で一番寒い日と言うことになっているそうだ。

満月
その夜は一睡もできなかった。
ナンパ・ラ下ろしの強い北風が朝までテントを揺らし続けた。
飛ばされるのではないかと何度も思った。テープはすぐにはぎとれ、テントは外と変わらなかった。その上テントの表面が凍り、それが雪のように顔に降りかかる。

夜中何度も外に出て満月に輝くナンパ・ラ氷河を見た。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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