チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2008年10月3日

法王の教え四日目

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43462451.JPG今日は法王の教え四日目。

カマラシーラの「修習次第」についてはクンチョック・シタールさん監訳の本が出ています。「ダライラマ大乗の瞑想法」春秋社です。これは嘗て同じく法王がこのテキストを使って講義された時の講義録です。
チベット仏教に興味をお持ちの方は、ぜひお読みください。

以下、今日の講義を要約してお伝えします。

ーーーー

我々は仏のことをシャカ・トゥパと呼ぶことがある。
「シャカ」とは仏の出身であるシャカ族の名だ。「トゥパ」とは、物事を成就した、という意味で、仏はすべての悪魔を下し、解放された、完全な自由を得た、粗いレベルの煩悩障と微細なレベルの所知障をすべてぬぐい去った、という意味だ。
仏教は2600年前に生まれた哲学思想だ。インドには三千年~五千年前から様々な哲学思想が存在した。

中国のタオイズムと比べてどっちが早かったかな?孔子とブッダとどちらが早いのかな?この中に学者はいないかな?
「誰かが孔子が早い」と答える。法王「そうか、、、」
(実際のところは諸説あるがブッダと孔子はほぼ同年代といえる)
それにしても世界でも一番古い思想の一つなのだ。

20世紀の後半から始まり、特にこの21世紀に入って、物質的世界は格段の進歩を見せた。機械などは日々日々改善されている。しかし、いったん心の中を覗けば、その外界の発展は貢献することもなく、ますますストレスの多い、不幸な状態にあると気付くだろう。最近になって初めて内の感情というものに新しい興味を持つ学者が増えてきている。

感情と言えば、三毒(執着心、怒り、邪見)を代表に沢山の感情について仏教ではすでに詳しく説かれている。
縁起と空を説く仏教は科学者に特別の興味を持って見られている。

仏教徒とはその行いにおいては「不害」を、見解においては「空」を立てる者たちのことだ。
他の有情を害しそうになったとき、もしも自分がその害されようとしている生き物だったら、どんなにか苦しい思いをするであろう、と相手のことを思いやる慈悲の心からその行為をやめる、これが大乗の「不害の心」だ。
また、人を害すれば、その果として自分がいつか苦を味わう、人を助けるなら、その果として自分がいつか幸せを味わう、という因果を知って、他の有情を害しないの仏教の不害だ。

一方の見解についてだが、まず理由なしに仏教を信じるのはおかしい。仏教とは何かを正しく知った後に仏教徒になるのがいい。まずは自分で「自我は有るのか?無いのか?」
「世界や命に初めは有るのか?終わりは有るのか?」とかに興味を持つべきだ。自分で問いただしてみるべきだ。
勉強が必要だ。仏教の三乗(南伝、大乗、金剛)の教え、
四つの哲学学派の見解等を学ぶことで「聞」くことからくる知恵を得、さまざまな主題を深く分析すること「思」からくる知恵を得、次に分析により到達した結論を何度も何度も繰り返し「修」することからくる知恵を得るのだ。

こうして「無明」の真の対治を得るなら、解放は見えてくるであろう。
何れにせよ、理性を基礎に仏教を知るべきだ。
まず良き動機がいる。その正しい心で正しい行いを成すならば、果としてその人に幸せが訪れる。

「止」(シーネ、禅定、サマーディー)は二つに分けて、その最中と座を立った後とある。興奮と気の緩みから自由な安定した瞑想から起きた後にもその時の感覚が残っていることが大事だ。そのことにより自然に不善を避けることになる。
まず七枝の行(供養以下の前行)を行った後、
大日如来の七要座法と言われる姿勢をとる。七つの要点とは:
1、結跏趺坐あるいは半跏趺坐に座る。
2、へそ下四指のところに右手を左手の上に置く(禅定印)。
3、目は開けず閉じずに鼻先を見る。特別の教えにおいては虚空を見つめるとか、ある特定のものを注視するということもある。
4、両肩を水平にし、背筋をまっすぐにする。顎を引く。
5、両腕は締め付けず、脇の下に風が通るように保つ。
6、口元を自然にし、舌を上歯の裏に着ける。
7、自然なリラックスした息を続ける。
である。

普通の凡人はまず「止」を完成したのちに「空」に瞑想する。優れた人は「空」をまず知って後に「止」に入る。

我々はすぐに「止」にはいることはできない。まず「出離」「菩提心」を得て入るべきだ。
集中の対象は1、見解。2、心の本質。3、仏身.4、息等が一般だ。

たとえばシャーンティデーバの「入菩提行論」とかを読みながら要所要所で深く考えたり、感じたりするのもいいだろう。

とにかく、瞑想中に何かを体験することが大事だ。体験により「ああ、これならいつか悟りに至れるかもしれない?」という思いが起こり、確信を得て、目的に対し熱意が起こるようになることだ。

真如に至ろうとするときには、まず、粗い無常から微細な無常へと観察し、「我」を考察して、それは永遠で唯一、独立した存在としては無いと理解されるレベル、次に主客不二を知るレベル、最後に心の空性を完全に知るレベルというように段階的に考察されるべきだ。
こうして「自我、わたし」と呼ばれるものは他に依ってある、名のみの存在なのだ、空っぽなのだとの確信を得、その感覚に止まれるだけ止まるのだ。
心の本質である、ただ知る、光り輝く状態に止まることをマハームドラー(大印)の行と呼ぶ。虚空に等しい空性の、心本来の姿に止まることだ。

ーー

毎回セッションの前には質問に答える時間が15分ほど取られている。午後のセッションの初めの質問の一つに「宗教と政治は対立するもののようにとらえられがちだが、お互いに利益し合う道はないのか?」というのがあった。

法王答えて「30年ほど前の話だが、インドのあるところで会議があった、同席した州知事が“私は政治家だから宗教のことは解らない”と言った。そこで私は“仏教では嘘を言わないこと、慈悲の心をもって他人を害さないことなどを説くが、これらは政治家にとっての大切なことと思う”と話した」と。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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