チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2008年8月3日

オリンピック原則に対する矛盾

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09641e37.jpg写真は6日目に入った死のハンスト。
デリーの暑さの中、6人の身体は死への最終段階に入った。

連帯委員会リリース 2008年8月2日
Y女史訳
http://www.stoptibetcrisis.net/pr020808.html
<オリンピック原則に対する矛盾>

オリンピックは、平和、調和、進歩といった概念の象徴である。
オリンピック憲章の第四原則では、「スポーツの実践は人間としての権利である」と述べられている。
同様に、第五原則では「人種・宗教・政治・性別その他に基づいた国家や人へのいかなる形の差別も、オリンピック運動に属するものとは相容れない」と明記されており、いかなる形式の差別にも反するというオリンピック精神を強調している。

北京オリンピック委員会副委員長であるリウ・ジンミン氏は、2001年に、「北京
にオリンピックを主催する権利を与えてくれることで、皆さんは人権の発展を促
すことになるでしょう」と語っている。これを受けて2002年4月、国際オリンピッ
ク委員会のジャック・ロジェ委員長は、「オリンピック開催は中国における人権
状況を改善するであろう」と保証している。

ダライ・ラマ法王とチベット中央行政府は当初から、中国の歴史ある文明と中国
の人々への尊敬の念から、北京オリンピックは中国にふさわしいものとして支持
してきた。しかしながら、オリンピック警備の名目の下に、中国政府はチベット
人の宗教的自由や人権を窒息させるに等しいような治安弾圧を強めてきている。

1. 現在、チベット全域およびチベット人の居住地域は重々しい軍の弾圧下にあ
り、チベット人の自由な動きはきわめて制限されている。デプン僧院を含むラサ
周辺の僧院の数々は、事実上の刑務所に変わってしまっており、僧院の内外への
動きは厳しく統制されている。

2. 北京ほか中国の各都市に住んでいるチベット人は精査され、大多数の人々が
出生地に戻るよう命じられている。同様に、チベット人が滞在していると判明し
ているホテルや宿泊施設はすべて管轄する警察が徹底的に捜査するよう命じられ
ており、チベット系宿泊者への嫌がらせが生じる事態となっている。
これは明らかに国籍や人種に基づいた差別といえる。

3. チベット全域において集中的な「愛国再教育運動」が展開されている。僧侶
や尼僧達はダライ・ラマ法王を非難するよう強制されている。さらに、18歳以下
の僧侶や尼僧は全員、所属している僧院から追放されつつある。

4. カンゼ県のいくつかの地域では、僧院を閉鎖して僧侶の居住施設を破壊する
という新しい規制が施行されつつある。この規制は最近、チベットにおける僧院
社会に強要されているもので、抗議行動に参加した僧侶や尼僧の人数の割合に基
づいて実施されている。

5. 平和的な抗議を行った者への弾圧や囚人への不公正な裁判が、未だに相次い
でいる。

6. 8月が近づくにつれて、チベット全域におけるチベット人の移動が制限されてきている。カンゼ・チベット自治区のダゴ地域などでは、明らかにチベット人
の自家用車での移動を抑制するため、当局はガソリンスタンドまで閉鎖させてい
る。

7. 通信施設に対する取締りが幅広く実施されており、特に電話やインターネッ
トの使用が規制されている。警察による取調べの一環として、チベット域内にか
かってくる通話やチベットから外にかけられている通話のすべてに対する盗聴や
監査が行われている。

8 すべてのチベット人職員や政府関係者は、8月の間、(職場を)離れることを禁じられている。警察による手入れ捜査や恣意的な逮捕・拘束が頻繁かつ不規則に
実施されている。

要約すると、現時点において、チベットではあらゆる制限がチベット人に対して
かけられており、巨大な刑務所と化している、といっても過言ではない。一方、
中国系の移民には何の審査も統制もかけられていない。人権という観点からして
、チベット全域では以前と比較していかなる重要な進歩も見られないどころか、
状況は著しく後退している。

古代ギリシャでは、オリンピックの祭典ごとに、その期間前および期間中には休
戦協定が設けられていたという。戦争は一時停止され、死刑の実行は禁じられ、
旅行者や訪問者の安全は保証されていた。近代オリンピック史上もっとも悪名高
い1936年のオリンピック期間中でさえ、ヒットラーによるユダヤ人への抑圧は、
中国が現在チベット人に対して行っている弾圧に比べれば、物の数ではなかった

中国は、その人権状況に対する国際社会からの批判をかわすために、オリンピッ
クの政治利用について不満を漏らしている。だが今回のオリンピックにおいては
当初から、中国自身が人権問題との関わりを言明しており、オリンピックを政治
利用しているのは中国そのものであるといえる。中国はいまだに、政治的な課題
を解決する道具としてオリンピックを利用している。

したがって私達は、中国政府が即刻あらゆる弾圧行動を停止してチベット人の基
本的人権や宗教的自由を尊重するよう、中国政府に対して圧力をかけることを、す
べての国々、特に世界中の人権団体に対して、要請するものである。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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