チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2008年6月6日
続ダライラマ法王TCVにて亡命チベット人学生を前に語る
左の写真は法王がTCVに入られホールに行かれるまでの車道中の一枚。
法王は車の右手に座られています。
なぜかここに日本の国旗を広げて拝む日本人風の一団がいる。
日本の国旗を広げてると言っても、彼らは今日本で流行ってる<何とか組チベット応援団>ではなく、純粋に<チベットを日本人も応援しています!>という気持ちを示すために広げただけなのです。
法王は気付かれたかな?
昨日は知らせませんでしたが、今回の講演会の会場は二手に分かれていました。メインはホールの中でチベットの学生専用です。
もう一つの会場はTCVの表グランド、そこの前面に中ぐらいのモニターテレビが据えられその前に1000人ほどの一般の聴講者が地べたに座って聞いていました。
その中には日本人グループも30名ほどいました。M女史の同時通訳が聞けてさぞかし日本人も仏教の勉強になったことでしょう。
私も今日は何だか楽しそうな外組に入りました。
さて、今日のお話の中身ですが、、、、
ほぼ終始<空>の話でした。
今回は主題を<空>とお決めになってたようです。
しかしどうもチベットの学生さんは程度が高いというか、法王はたとえばハーバードとか最近もオックスフォードで講演をなさっていますから、その乗りでやっておられるのでしょうが、さて日本の旅行者にはちょっと難解だったかも?
途中、空の見解について微妙な部分になったときには、そばに座るツェンニーダツァン(論理大学)の若手トップ教授陣に見解を尋ね、論議するなど、内容は非常に濃いものでした。
全く前にはいかなる経典もなしに行われた、この二時間の<空>にまつわるお話はためになるので、日本語でも本を出すといいでしょう。
暇ならやりたいね、、、
余りに長い話だったので、前置きばかりで内容に入りにくい様子。
かいつまんだ、短いレポートで勘弁してください。
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まずは学生達に仏教を勉強することの大事さを説いた。
「一般にチベット人には<信>はあるようだが、勉強したのちの<確信の信>を持つものは少ないようだ」と言われ、信よりもまず知ることの大事さを強調された。
「今日は<縁起>の話をしよう」
といきなりそのまま空の話に入り<縁起即空><空即縁起>の中観派の見解まで一気に解説されました。終わり!
「我々はインドで当時最高の知性を集めたナーランダ大学の教えを守り伝えているだけだ。
ナーランダ大学はイタリアのボローニャ大学の創設1000年前を凌ぎ1200年前からあった。おそらく世界で一番古い大学だ。
その大学のゲシェ(博士)であるケンチェン.シワツォ(シーンタラクシタ)がその弟子のカルマシーラと共に、高齢にもかかわらず難路を越え、チベットのサムエ僧院にお越しいただき、そのすべての教えを伝えて下さったことが、それからのチベット仏教の性格を規定するのに多くな力となったのだ」
「このとき禅定を重んじる中国禅のハシャンを排して、論理的分析を重んじるシャーンタラクシタの仏教がチベットに導入された」
「この論理的に考えることは何も仏教に限らず大事なことだ。
亡命したてのころは学校でもツェンニー(論理学)を勉強してタクツェ(立会い討論)などもやってたが、、、今も本当はやるほうがいい。
この討論で使う<キャップ:Aならば常にBという遍充関係><マキャップ:AならばBとは限らない非遍充関係><テル(タル):もしそうならこういう自己矛盾に陥ってしまうぞ、という帰謬論証語>等の言葉は外国語にはないという。
適当な訳語がないという。
チベット人はこれらの論理語?を使って常にどんな現象に対しても厳密な分析を心掛けるべきだ。
主張や決心に論理の裏打ちがあればそれはより堅固なものとなろう」
と論理的思考の大事さを説かれた。
縁起の意味を
1、他によって生起する縁起(仏教一般に通じる縁起観、空観)
2、名(のみ)によって想起する縁起(中観派独自の縁起観、空観)
に分け、
さらに、中観の見解に至るまでに、
1、因と果の空性
2、部分と全体の空性
の理解の段階を通るとして、各トピックスを詳細に説明された。
もっとも今日は<ツァム、のみ>の言葉は強調されず、中観帰謬論証派と自律論証派の違いについては飛ばされた。
次いで、四諦と12支縁起を世俗と勝義の二つのレベルで説かれた。
ナンネ(幻の現れとありのままの真実)の二態に目覚め、無明を晴らし、対象を実体として捉えず、戯論を離れ、苦しみのない、安心を得よとのことでした。
つまり全ての現象を単なる(ツァム)現象と知ることですかね?、、これ蛇足。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)