チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2008年6月5日
ダライラマ法王TCVにて亡命チベット人学生を前に語る
朝8時半ダライラマ法王はTCV(チベット子供村・小、中、高一貫の難民学校)ホールにお越しになり、約1500人のチベット人学生を前に仏教中心の講話をされた。
学生とは高校2年生以上で大学生が中心だった。今はインドの各大学も休みの所が多いので、デリーや南インドから大勢の学生が集まった。
まず「文殊菩薩賛嘆」のお経を全員で唱えた。
法王は初めに、
「この中でアメリカから来た子はいるか?手を上げて、、、ふ、う、ん、数人か。カナダからは、、、これも数人、、オーストリアからは、、、一人だけ、ネパールからは、、、数人、
チベットから来てインドにおるものは、、、ほとんどか」
と参加者を確認され、話に入られた。
「人や文化の特質は自然環境や歴史による」と言われ、チベットの隔離された高地という自然環境の話、シャンシュン時代をも解説しながら仏教伝播を中心にチベットの歴史の話をまずされた。
その長きにわたって育まれた、チベット人の善き心の特質「他の有情への愛、慈悲。嘘を言わない正直さ。足るを知って満足して明るく暮らすこと」等を持ち続け伝え続けることの大事さを説かれた。
これらがある限りチベット文化が世界に貢献できるとも言われた。
次に、心を広く持つためには、の話から<空>の話に移られた。
<私(我)>を分析的に求める方法を説かれ、結論的に<無我>に至る証明方法とその量(判断基準)の話をされた。
ついでに世界の宗教と哲学体系の<実体>に対する見解を中心に解説され、仏教と他の宗教の違いを明確にされた。
「(実体的)魂、Soul、アートマンを認めないのが仏教だ。創造神も認めない。縁起のみを認め、全ての現象は<名のみ(ミンツァム)>状態にあると知る、見るのが本当の仏教徒だ」という結論でした。
その後「ではこの5蘊に依って仮設設定される<私>には始まりは有るのか?終わりは有るのか?と言えば、」
から始まり詳しく長く仏教的無始無窮の<識>の証明をされました。
最後に質問の時間がありました。
終わったのは11時。
明日もう一日続きの講義があります。
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さて少しチベットの学生には難しかったかも知れないけど、順を追って法王にしてはやさしく、笑わせるお話もたくさん交へ、非常にリラックスされた様子で話されていました。
また私事だけど、このホール設計して後、法王がここではじめてチベットの学生たちに講演されるのを見たことは、私には特別の感慨ある経験でした。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)