チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2008年6月4日
ダライラマ法王へのインタビュー
法王へのインタビューと言ってももちろんルンタ独占とかではないのでして、
先のイギリス訪問中にFinancial Timesの独占インタビューに応じられた時の話です。
http://phayul.com/news/article.aspx?id=21454&article=Meaningful+Autonomy+for+Tibetans+is+Our+Goal%3a+His+Holiness+tells+FT
ちょっと長いので二回に分けて掲載します。
インタビューアーもこのところの懸案を網羅し、良く考えられた質問を投げかけ、突っ込みも忘れず入れています。
法王のお答も基本姿勢を崩すことなく、中国政府をけん制する発言もいれながらはっきりと今の心境を表明されています。
翻訳はいつものY女史に御頼みしました。
Meaningful Autonomy for Tibetans is Our Goal: His Holiness tells FT
<チベット人にとっての「意味ある自治」が目標: ダライ・ラマ法王、ファイナ
ンシャル・タイムズ紙に語る>
http://phayul.com/news/article.aspx?id=21454&article=Meaningful+Autonomy+for+Tibetans+is+Our+Goal%3a+His+Holiness+tells+FT
FT[Sunday, June 01, 2008 14:19]
2008年6月1日
ダライ・ラマ法王が、昨今のチベット域内における騒乱についてファイナンシャ
ル・タイムズ紙編集者(以下FT)に語った。
FT: ダライ・ラマ猊下、先の3月のチベットでの騒乱以後、中国では恐ろしい地
震があり、チベット問題をめぐる空気が変化したことを多くの人が感じ取ってい
ます。中国は「悪者」から「犠牲者」へと立場が代わり、猊下による大いなるチ
ベット自治を目指す運動に見られた熱気が、いくらか失われてしまったような雰
囲気があります。そうお感じでいらっしゃいませんか?
法王: いいえ、そうは感じていません。もちろん、人々がこの時期、地震で犠
牲になった方々に心を寄せるのは当然で、ごく自然なことです。大規模な地震―
―特に子供たち、亡くなった子供たちを思うと心が痛みます。(中国は)一子制
度ですから、亡くなった子供たちのほとんどのご両親にとって、たった一人の子
供だったわけです。もしたった一人しかいない我が子を失ってしまったら、親御
さんは当然ながら、どんなに悲しまれることでしょう。ええ、ええ、もっともで
す。私の聞くところ、チベット域内では実際に、地震の被災者の方々のために募
金活動をしている僧侶達もいるときいております。
けれども一方で、チベット問題は過去50~60年にもわたる長い間、続いてきた話
です。ですから、より複雑なのです。
FT: チベットでは今、何が起きているのでしょう? 人々はまだ逮捕されている
のですか? 強制的な「愛国再教育プログラム」が続いているのですか?
法王: はい、「再教育」はまだ続いています。それはきわめて明らかなようで
す。逮捕については、そうですね、いくつかの地域では確かに逮捕が続いている
、という証言があります。ですが、状況を知ることが、とても難しい。ですから
私はいつも国際社会に、そして中国政府にも呼びかけているのです――どうかも
っと多くの人々がチベットに入れるように、人々が現場を見て実態を調査できる
ように、と。特に中国の私達に対する非難、すべての問題は外側から始まったと
する中国の主張について、調査できるように、と。私達は誰でも、大歓迎です。
もちろん中国政府職員の方々も、いつでもダラムサラにお出でいただき、徹底的
に調べていただきたい。私達のファイルでも私の講演録でも、いかなる記録類で
も、何でもお見せします。たまに、チベット域内から脱出してくるチベット人が
います。私はいつも彼らと会って、話しています。その会話もすべて記録されて
います。すべて、調査にいらしたらお見せしますよ。(別の機会には「私のウンチやオシッコだって調べてもいい!ハハハ」とか冗談飛ばしていらっしゃいました、ルンタ)
FT: さて、猊下は6月に、亡命政府代表団と中国政府との間で新たな対話、重要
な会談を予定しておられます。次の一連の対話から、何を期待していらっしゃい
ますか?
優先度の高い事項は何でしょうか?
法王: 今回は、これまでの会談と異なり、中国政府側が会合について発表しま
した。私の推測では、これは(次のような経緯です。)
5月4日にある種の緊急会合が開かれました――私達はこれを、情報会合と呼んで
います。政府が(この打ち合わせについて)発表し、発表の前に北京の外務大臣
がいくつかの国の大使数名を呼んで、彼らに知らせたのです。そして、この点が
より重要なのですが、胡錦濤国家主席自身がこの接触について認識しており、彼
自身の真剣さを示しました。ですから、これは希望のもてる兆しです。ただ、今
はまだ早すぎます。次の第7ラウンドの会談が開かれるまでは、何ともいえません
Dalai Lama urges west to remember Tibet
<西側世界はチベットについて忘れないで欲しい>
FT: しかし、次の会談における猊下の優先事項は何でしょう?
法王: 逮捕・拘束を止めることと、(拘束されている人々を)釈放することです
。逮捕されている人々には、正常な法的措置を通じて自分の案件に対処できるよ
うな機会を与えるべきだと、私は考えています。
FT: 胡錦濤国家主席の話ですが、彼は20年以上前、チベット地域における
党指導部でした。猊下は主席に対して、個人的なメッセージはありますか?
法王: 危機的な状況が発生した直後に、私は彼に訴えました。彼に手紙を送り
ました。
FT: その手紙には何とお書きになりましたか、猊下?
法王: 主に、負傷した人々への実質的な救援を求めました。特に都市部から離
れていて、適切な医療施設もない地域にいる人々への救援を。それから、調査で
す。先に述べたように、調査を通じて(事態を明らかにするよう)要請しました
。
FT: 返事はありましたか?
法王: いいえ。
T: (主席より)下のクラスの中国政府役員からも、返事は無いのですか?
法王: おそらく、次回の会合ということになるのかもしれません。たぶん(そ
れが)なんらかの反応、ということになるのでしょう。よくわかりませんが。
FT: もし6月に会談が実現するとして、猊下の中国政府に対する要求は、収監さ
れた人々の釈放や調査、国際的な調査といった、3月の出来事への対応以上のこと
になると思いますが?
法王: 1980年代の時点で、中国政府は私のチベットへの帰還について、五つの
提案を行いました。それによると、私は1959年以前に手にしていたすべての特権
や地位や、さまざまな権力を保障する、とのことでした。そこで私は次のように
答えました。そういうことは問題ではない、肝心なのは、600万人のチベット人が
幸福であること、彼らの権利、そしてチベット文化を守ることだ、と。今や、私
達の主な目的は、自信を築くことです。チベットにおける状況について、私達は
よりよく知っています。チベットの中では、(人々には)自分が本当に何を感じ
ているかを、デモによってしか説明できる機会がありません。ですが、そうすると
弾圧されます。ですからここで、私達は彼らの代わりにスポークスマンのように
代弁しているだけです。
私達の会合は私達の未来とは、私自身の未来も含め、一切関係ありません。始ま
りの時点、1974年から、私達はダラムサラで決意していました。中国では文化大
革命が進行している最中でしたが、早かれ遅かれ、私達は中央政府と話し合いを
もつことになる。分離を求めず、独立を求めず、中国憲法の枠組みの中
で、(チベット人にとって)意味のある、現実的な自治を求めよう、と。今も、
それが私達のゴールです。私達は求め続けます。ある機会には、中国当局も私
達は分離を求めているのではないことを認めています。けれどもどういうわけか
、公では、当局はまだ私達を(独立を求めていると)非難しているのです。
(以上前半)
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)