チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2008年6月1日

続ディンリ・シェカル僧院

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7f976cfc.jpg昨日ディンリの僧院からも逮捕者が出たことは短くお伝えしました。
31日付の以下の記事に詳しい状況が載っていましたので、Y女史に翻訳して頂きました。

http://www.tchrd.org/press/2008/pr20080531.html
TCHRD 2008年5月31日リリース

ディンリ・シェルカ・チゥデ僧院の僧侶12名、「愛国再教育」運動に反対し
逮捕される

TCHRDに寄せられた信頼できる情報筋によると、2008年5月19日の夜、中国治安部
隊はディンリ・シェルカ・チゥデ寺院の12名の僧侶を逮捕した。容疑は「愛
国再教育」運動への反抗、である。

中国当局はチベット自治区ほかチベット各地域において、二ヶ月間、「愛国再教
育」運動をさらに厳しく推進している。その対象は、僧院組織、政党、治安舞台
、政府の役人、農夫、実業家、教育機関、一般人と、社会のあらゆる層にわたっ
ている。目的は、ダライ・ラマ法王と「分離主義者」を糾弾することだ

2008年4月1日以来、再開されているこうした運動の一環として、中国の「作業チ
ーム」は2008年5月19日、チベット自治区シガツェ県ディンリ郡のシェルカ・チ
ゥデ寺院に入り、「愛国再教育」運動を実施しようとしたが、結局、僧侶達と
中国「作業チーム」の間で激しく苦々しい議論が展開されることとなった。

情報筋によると、当局による運動の最中に、シェルカ・チゥデ僧院の民主運営
委員会(DMC)の一員であるケンラブ・ターチン僧侶が立ち上がり、はっきりと「
愛国再教育」に対して異を唱え、「作業チーム」に向かって「自分はダライ・ラ
マ法王を非難することはできない」と告げた

他の11名の僧侶もケンラブ・タルチン僧を支持して立ち上がり、この運動に対し
て一致団結して断固、反対した
。この事件の後、僧院の門戸は閉ざされ、信者達
は中に入れなくなってしまった。僧侶達は寺院を立ち去るように命じられ、この
件について外の世界に情報が漏れないよう、携帯電話も没収された。もし外界へ
の情報漏洩が発覚したら恐ろしい結末を招くだろう、と脅迫されたと言う。

その日の夜、衆目の視線を恐れた中国人民警察と治安部隊の職員らが、闇に紛れ
て寺院を急襲し
、12名の僧侶をどこかへと強制的に連行していった。逮捕された
僧侶達の所在と状況について、情報は不明である。連行された僧侶の名前は以下
の通り。

Ven. Khenrab Tharchin, 32 years old, Drushe Village, Shelkar Township,
ケンラブ・タルチン僧 (32歳、ディンリ郡シェルカ街区ドゥシェ村出身)
Ven. Tsewang Tenzin, Phelbar Village, Shelkar Township, Dingri County
ツェワン・テンジン僧 (ディンリ郡シェルカ街区ペルバ村出身)
Ven Tenzin Gayphel, Lingshar Village, Gaymar Townsip, Dingri County
テンジン・ゲペル僧 (ディンリ郡ゲマ街区リンシャー村出身)
Ven, Khenrab Tashi, Mashak Village, Shelkar Township, Dingri County
ケンラブ・タシ僧 (ディンリ郡シェルカ街区マシャク村出身)
Ven. Topgyal, Drushe Village, Shelkar Township, Dingri County
トプゲ僧 (ディンリ郡シェルカ街区ドゥシェ村出身)
Ven. Tenzin Tsering, Bichu Village, Gyatso Township, Dingri County
テンジン・ツェリン僧 (ディンリ郡ギャツォ街区ビチュ村出身)
Ven. Lobsang Jigme, Norgay nomadic area, Shelkar Township, Dingri County
ロプサン・ジグメ僧 (ディンリ郡シェルカ街区ノルゲ遊牧地域出身)
Ven. Khenrab Nyima, Shelkar Township, Dingri County
ケンラブ・ニマ僧 (ディンリ郡シェルカ街区出身)
Ven. Dhondup, Che Village, Tsakhor Township, Dingri County
ドゥンドゥップ僧 (ディンリ郡ツァコル街区チェ村出身)
Ven. Tenpa, Lolo Langga, Shelkar Township, Dingri County
テンパ僧 (ディンリ郡シェルカ街区ロロ・ランガ出身)
Ven. Samten, Shollingshar, Shelkar Township, Dingri County
サムテン僧 (ディンリ郡シェルカ街区ショリンシャー出身)
Ven. Choedhen, Shollingshar, Shelkar Township, Dingri County
チゥドゥン僧 (ディンリ郡シェルカ街区ショリンシャー出身

情報筋によると、逮捕された僧侶達の家族が2,3日後に地元治安警察に赴き、
僧侶達の居所についての情報と面会を求めたところ、当局は彼らに厳しい警告を
発し、僧侶の拘束についての情報をどこから入手したのか問いただした、という

3月10日以降のチベット高原全域における空前の抗議活動の拡がりに続いて、4月
初旬に二ヶ月間の「愛国再教育」運動が開始され、それは前述のようにあらゆる
人々に強制されている。この運動の原則は「『ダライ一派』の熱烈な否定」であ
り、「『ダライ一派』と『3月14日の暴動』の本性を露にする」ことだ。共和党指
導部の監視の下に新たな委員会が組織され、この運動を推進している。それに引
き続く形で、運動に反対したり従わなかったチベット人達の逮捕・拘束が多くの
場所で、特に僧院組織を中心に、ひっきりなしに行われている。

1982年12月4日に採択された中国憲法では、特に「二章:基本的人権と国民の義務
」とし、第36条で次のように謳っている。「中国国民は宗教の自由を有す。いか
なる国家組織、公的組織および個人が、国民に対していかなる宗教を信仰する・
または信仰しないよう強制することはない。また、特定の宗教への信仰・不信仰
を理由に差別することもない。国家は通常の宗教活動を保護する。何人たりとも
、公の秩序を撹乱するしたり、国民の健康を損ねたり、国家の教育制度に干渉す
るために、宗教を利用してはならない。宗教組織と宗教事項は、外国の支配の影
響を受けない」

しかしながら、今年年初よりチベットで展開している事象を振り返るにつけ、中
国国家による壮大な宗教的信条の自由の保障は、チベットの人々の基本的人権や
宗教の自由に対して、きわめてお粗末なものしか与えていない。これは、昨2007
年1月1日に施行された「チベット自治区における宗教事項に関する規制施策」を
補完するべく実施されている「愛国再教育」運動からして、明らかである。また
、チベット仏教における転生活仏に関する施策からも、明らかなことである。

中国当局は過去におけると同様、「チベット自治区」での宗教に対する特別施策
や「愛国再教育」運動を推進してきた。こうした施策における突出したテーマは
、中国共産党政府を分離主義から守り、「国家の安全」「社会の安定」「民族的
な統一」に対する脅威を取り除くことである。チベット仏教・チベット文化と(
チベット)国家としてのアイデンティティは緊密な絆で結ばれているため、中国
はチベット仏教を国家保安への脅威と結び付けている。中国は、チベットによる
いかなる宗教表現も抗議や反愛国活動の隠れ蓑ではないかと、深い恐れを抱いて
いる。中国当局は絶対の服従を要求し、その権威に対する挑戦や脅威となりうる
いかなる活動も許さない構えだ。中国共産党は国民に「国家への愛」を―他の何
よりも共産党の権威への敬意を―要求する。チベット自治区共産党書記のザン・
キンリは、中国共産党こそチベット人にとっての「本物の仏陀」である、と主張
している

2008年5月29日、ザン・キンリは党指導部の会合で、チベット自治区内において6
つの分野における「作業」を規定した。その三番目が「愛国再教育」運動の強化
であり、僧院組織の長に対してこの運動を厳格に実施するよう提案した。

TCHRDは、チベットにおける「愛国再教育」運動の即時停止および、僧院組織での
通常の宗教活動の実施の許可を求める。TCHRDはさらに中国政府に対し、同国憲法
や国際的な人権基準に則した基本的人権および基本的な自由を求める。中国は(
逮捕拘束した人々に対する)即時で無条件の法的代理人や家族との面会を許可し
、必要な医療措置を即刻施すべきである。

(以上)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

RFAに直接このことを伝えた電話を聞いていました。
補足的情報としては、この僧院には59年以前には300人ほどの僧侶がいたとか、
現在は40数人の僧が在籍していたとのこと。
現在僧院が封鎖されているため、残された僧侶たちの食糧が尽きる恐れがあること。
水道が止められているので、山に水を汲みに行かなければならない等の困難な状況にあるという。

なお、昨日はここの地名を<ティングリ>としましたが正しくは<ディンリ>がチベット発音に近いので訂正しました。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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