チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2008年5月8日
秘密集会タントラ潅頂
今日5月8日より10日までダラムサラのツクラカン(法王の本堂)にてサンワドゥパ(サンスクリットではグヒヤサマージャ、日本語では秘密集会)の潅頂が行われています。
今日は第一日目、午後1時より始まり4時頃までには終わりました。
参加者はざっと1000人ほどか。
今回の施主は台湾人グループ、何だかタイミングが絶妙とも言えるのですが、この潅頂会はプレスオミット、会の後の短い会見もなし、とうとうまだ今回の中国との対話についてのコメントは未だ発表されてはいません。
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政治の話は少し横において(慈悲と政治を一々別けなくてもいい人はそのまま)
グヒヤサマージャタントラについて少しだけ説明します。
このタントラは密教を四つに分類するやり方に従えば、無上ヨガタントラに含まれる。成立年代は8c以降。無上ヨガを父母二つに分けるならこのタントラは父タントラ。つまりツァ ルン チグレ(脈管、風、心滴)を始めとする生理学的要素が母タントラに比べて少ない。おどろおどろさも比較的軽微。このタントラは成立年代も他の無上ヨガタントラに比べても早く、以後の多くのタントラの元になったタントラ。詳しくは専門書をご覧ください。
一冊だけ手元にある本を紹介します。絶版と思われますが、、、
酒井 真典著
増補修訂「チベット密教教理の研究(1)」秘密集会龍樹系
国書刊行会
初版は何と昭和31年。
最近のをご覧になってもいいのですが、なかなかいい解説書はない訳です。
サーダナ(成就法)の翻訳はこの本以外に見たことがありません。
特に法王の派であるゲルック派においてはこのタントラは一番大事なタントラとされています。ツォンカパ尊者がこのタントラの龍樹系の開祖たちがナーガルジュナ、アーリアデーヴァ等と名乗ったことの縁?から、中観派をその哲学の基礎とする尊者が重要視したとの話もあります。したがってもちろん代々のダライラマもこのタントラの成就法を行の中心とされてきました。
本番の潅頂は明日。今日は準備の日でした。
法会はまずいつものように仏讃のお経で始まり、次に般若心経というところで、法王は台湾人たちに中国語の般若心経を読むように勧められた。
そして中国人たちの合唱?が終わるとすぐに、般若の話に入られた。
般若=空の見解と菩提心
が確立されている者、体験のあるもののみがこのタントラを学び修することができる。本来は、、、オームスンババシュッダサルバダルマスンヴァヴァシュッドハム(我も外界のすべての現象も空である)と最初に唱えるとき心に何らかの感覚が起こらないようだと効果はない。
行の根本目的はすべての有情の苦しみを無くすことのできる仏の位に昇ることだが、これは強い本物の菩提心が育たなければ有り得ない。
故にタントラを行じようとする者はまず空と慈悲を得よ。
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から始まりとうとうと空を中心に解説されました。
タントラは限りないので今日はこれまでとします。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)