チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2008年4月26日
24日付ダライラマ法王<法友へのアピール>日本語版
以下昨日英語版への案内のみで失礼いたしました。
今日A女史が翻訳してくださいました。
<すべての中国人の精神的同胞へのアピール>
発表:2008年4月24日、木曜
今日私は、中華人民共和国の内外のすべての中国人の精神的同胞の皆さん、特に釈尊の信奉者である方々に、個人的に呼びかけたいと思います。私は一介の仏教僧として、そして我々が心から尊崇する釈尊の教えを学ぶ者として、この訴えを行います。中国人の一般市民の皆さんへは、すでに呼びかけを行いました。今回私は、信仰を持つ同胞の皆さんに向けて、急を要する人道上の問題についてアピールしたいと思います。
中国人とチベット人は、大乗仏教という同じ宗教的伝統を共有しています。我々は 共に、中国では観音、チベットでは観自在菩薩と呼ばれる、慈悲を具現する仏陀を崇拝し、苦しむすべての生き物への慈悲を、最も崇高な精神的理想として大切にします。そのうえ、インドからチベットに仏教が伝わる以前から、中国では仏教が広まっていたので、私はいつも中国人の仏教徒の皆さんを精神面での先輩として仰いできました。
もうすでに皆さんもご存知のように、今年3月10日以降、ラサを始めとするチベット各地でデモンストレーションの数々が行われました。これらのデモは、中国政府の方針に対するチベット人の深い憤りによるものです。これらのデモにより、中国人とチベット人の両者の間で命を失った犠牲者が出たことを深く遺憾に思い、私は中国政府とチベット人に対し、直ちに暴力行為を抑制するように訴えました。私は特にチベット人に対し、暴力的手段に頼らないように訴えました。
残念なことに、多くの国際的リーダーやNGO、著名な世界市民、特に多くの中国人学者による冷静な対応への訴えにもかかわらず、中国当局はその後残忍な手段によりチベット人達に対応してきました。この過程で、人命が失われ、多くの怪我人が出、数多くのチベット人が拘留されました。弾圧は現在でも続いており、古くからの仏教の知識と伝統を守り続けてきた僧院の数々が特にターゲットにされています。僧院の多くは閉鎖されました。拘留されているチベット人の多くが、殴られたり残酷な扱いを受けています。こうした弾圧的な手段は、中国政府がチベット人対応のために公認している組織的な方針の一部のようです。
国際的オブザーバーやジャーナリスト、観光客でさえもチベットに入れない状態なので、私はチベット人の今後の行方をたいへん懸念しています。弾圧により負傷したチベット人の多く、特に遠方に住むチベット人達は、逮捕を恐れて医療処置も受けていない状態だと聞きます。ある信憑性の高い情報筋によると、食糧や住居もない山岳地帯へチベット人達は避難しているということです。逃げることのできないチベット人達は、次に逮捕されるのは自分達ではないかという不安を常に抱えながら生活しています。
私は今でもこうした苦境が続いていることにたいへん心を痛めています。これらの悲惨な状況の成り行きが、最終的にどのような結果をもたらすのかとても心配です。弾圧的な処置は長期に渡るチベット問題の解決にはならないと思います。最も前向きな問題解決の方法は、私が長年提唱してきたチベット人と中国人の指導部による対話を通してです。私は今までに繰り返し、中華人民共和国の指導部に、チベットの独立は求めていないことを伝えてきました。求めているのは、長期に渡り我々の仏教文化とチベット語、そしてチベット民族固有のアイデンティティーの存続が確保される、意味のあるチベット人達による自治です。奥深いチベット仏教の文化は、より大きな中華人民共和国の文化遺産の一部であり、中国人同胞の皆さんにも恩恵をもたらす可能性があります。
現在の危機的な状況において、未だに続く残忍な弾圧行為を直ちに阻止し、拘留されているすべてのチベット人を釈放し、怪我人の緊急医療処置を提供するように、中国政府に要請していただくよう、皆さんすべてに心からお願いします。
ダライ・ラマ
ニューヨーク州ハミルトンにて
2008年4月24日
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)