チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2015年6月14日
ラプラン・タシキル僧院僧侶4人拘束
写真右はアムドの名刹ラプラン・タシキル僧院である。この僧院はゲルク派六大僧院の内の一つであり、アムド地方の仏教学の中心である。
ちなみに7月18日から日本で公開される、チベット人の焼身抗議をテーマにしたドキュメンタリー映画『ルンタ』の中でも、この僧院内で2008年に起こった事件や老人の焼身のことが報告されている。
先週のRFAの記事の中にこの僧院に関する記事を見かけたので、以下他のチベット系メディアの記事も参照しながら、最近この僧院で起こった事件について報告する。
ラプラン・タシキル僧院は今の中国の行政区画に従えば甘粛省甘南チベット族自治州夏河県ラプラン鎮にある。もともとこの街はラプラン僧院の門前町であった。この僧院は学問だけでなく政治的にも活発な僧院として有名であり、今は中国の観光地としても有名である。
最近、この僧院の僧侶4人が当局により連行され、行方不明になったという。今回その内の1人を警察が拘束したときのやり方が私には興味深かった。電気修理人に変装して侵入したというのだ。
まず、6月5日の現地時間午後7時頃、僧院傍のマーケットを歩いていた3人の僧侶、チュンゲ・ジンパ、ケルサン、ジャミヤンが突然警官により連行された。3人とも焼身が多発している同州ボラ県の出身という。家族が警察に行方を知らせてほしいと求めたが、警察は行方を知らせることを拒否したという。チベットでは政治犯の場合、拘束された後、数ヶ月から1年以上も行方不明のままになることが普通である。
彼らとは別に、同日、もう1人の僧侶が僧坊で拘束された。その状況をRFAに伝えた現地のチベット人によれば、「警官たちは電気の修理人に変装し、僧坊の壁を乗り越え、中庭に飛び降りた。拘束目的であったケルサン・モンラムを見つけると、最初は『自分たちは電気修理に来た者だ』と言いながらも、ケルサンの携帯の電源を切らせ、彼の部屋を捜索し、彼に手錠を掛けて連行して行った」という。
拘束する前に逃げられることを怖れ、「電気屋に変装しよう」と警官の誰かが思いついたのであろうが、それなら塀を乗り越えて侵入したことの意味が分らないような気がする。
拘束の理由はまったく誰にも分っていないという。この4人も、いつの頃からか警官に目をつけられる僧侶になっていたのであろう。気に入らない僧侶を見つけると、何かの口実をつくり出し、拘束し、虐め尽くすというのが中国当局のやり方である。今現在も彼らは暴力を受け続けているものと思われる。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)