チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2015年1月26日
1年近く拘束されていた僧侶に10年の刑
25日付けTibet Postによれば、チベット自治区ソク県で1年近く拘束されていた僧侶に10年の刑が言い渡された。ベルギー在住のチベット人リンチェンが現地から得た情報としてTibet Post に伝えたところによれば、「チベット自治区ナクチュ地区ソク県の中級人民法院は今月中に、ソク県ティド郷ティルダ僧院僧侶ツェワン(27)に対し、中国支配に抗議するよう他人を扇動したとして10年の刑を言い渡した」という。
「彼は昨年3月17日に、『政治的理由』或は『外国と連絡をとった』としてティルダ僧院から連行された4人の僧侶の内の1人だ」と現地の情報提供者は伝えた。彼の居所、健康状態は不明のままである。
ナクチュ地区のソク県は隣のディル県と共に、ここ数年間、当局による弾圧の特別対象地区となっている。2013年には強制的中国国旗掲揚に抗議する一連のデモが発生し、これに対し当局が無差別発砲したために多くの死傷者が出ている。ナクチュとディルではこれまでに5人が焼身抗議を行っている。
今回、10年の刑を受けたティルダ僧院の僧侶ツェワンは、2014年3月17日に同僧院のツァンヤン・ギャンツォ、アツェ、ギェルツェンとともに拘束されている。このうち僧ツァンヤン・ギャンツォはすでに昨年10月中に「外国と連絡を取り、他を扇動した」として12年の刑を受けている。残る僧アツェと僧ギェルツェンの消息は依然不明のままである。
このソク県ティド郷では2014年3月10日のチベット蜂起記念日に「橋のたもとにある巨石に『チベット独立』という文字が描かれる」という事件があった。その後この現場の近くにあるティルダ僧院の僧侶たちが容疑者として連続的に連行された。地域のチベット人たちは彼らを開放するよう要求したが、その人たちも拘束され、拷問を受けた後開放されている。その他、地域ではスマホのチェック等により多くのチベット人が拘束され拷問を受けたと報告されている。
今回10年の刑を受けた僧ツェワンが実際どのような罪により懲役刑を受けたのかは不明であるが、10年はいかにも長過ぎると思われる。チベットでは他の人に政治的発言をしたり情報を伝えたりしただけで「他人を扇動した」ことになり、スマホや電話で外国にいる人に連絡しただけで「外国に国家機密を漏洩した」とされるのである。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)