チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年10月28日
ソク県の僧侶、秘密裁判により12年の刑
12年の刑を受けた僧ツァヤン・ギャンツォ。
今年の3月10日、チベット蜂起記念日にソク県のある巨石の上に赤いペンキで『チベット独立』と描かれていたという事件を覚えておられる方もいるかも知れない。チベットで一年の内最も政治的に敏感な日と見なされる日に、鉄橋の傍にある目立つ巨石に赤いペンキで『チベット独立』と描くというのは大胆な行為である。当局は付近の村と僧院を包囲し、僧侶を中心に20人ほどのチベット人を拘束した。彼らの解放を求めた人々も拘束され、拷問を受けた。
拘束されたチベット人のほとんどは、十分痛めつけられた後解放された。しかし、3月17日にティド郷ティルダ僧院から連行された4人の僧侶は行方不明のままであった。最近このうちの1人、僧院の読経師であるツァヤン・ギャンツォ(ཚངས་དབྱངས་རྒྱ་མཚོ།)に今月初め頃12年の刑が言い渡されていたことが判明した。12年は長い。他の3人、ツェワン、アツェ、ギェルツェンの行方は依然判明しない。
最近家族の下に突然裁判所から一通の手紙が届いた。彼の罪状は「外国と連絡を取り、他の僧侶たちを反政府活動へと扇動した」というものだったという。手紙により彼が現在ラサにあるチュシュル刑務所に収監されていることが判明したが、「判決後3ヶ月間、面会は一切許可されない。3ヶ月後、もしも面会を希望するものは身分証明書を持って、ティド郷、ソク県と順次警察の許可を取得すること」と書かれていたという。
ソク県ではこの事件の後、警官による携帯チェックが厳しく行われ、携帯に政治的に敏感な写真(ダライラマ法王等)や歌、メッセージが入っていたとして拘束されるチベット人が後を絶たないという。盗聴やネット検閲なども盛んに行われていると信じられており、地区のチベット人は携帯を非常に危険なものと見なしているという。
彼が巨石にいたずら描きした犯人とされたわけではないらしい。赤いペンキで『チベット独立』と描いた犯人はまだ分かっていないらしい。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)