チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2014年10月24日

ウーセル・ブログ「文明と反文明の1日」

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ウーセルさんは10月7日付けのブログで、9月18日、スコットランドの独立を是非する住民投票とウイグル人学者イリハム・トフティのウルムチでの公判日とが偶然一致していたとして、この日を「文明と反文明の1日」と名付け、「この世界はなんと奇妙なのだろう、文明と反文明が同じ日に現れるとは!」と感嘆する。

一方は文明社会の印である「投票は天賦の人権」という理念を理想的に実現したものであり、それはあらゆる「中国的特色」から自由な、ネット民たちが言う「討伐を呼びかける英国メディアの檄文もなく、権力組織の脅迫もなく、硝煙もなく、戦車もなく、犠牲者もなく、警察もなく、外国勢力もなく、難癖もつけられず、逮捕者もなく、女性に暴力が振るわれることもない」ものであった。一方は「人権」を「天賦」のものとは考えないという「特色」を備えた「反文明」の現れであったというのだ。

原文:唯色:文明与反文明的一天
翻訳:@yuntaitaiさん

◎文明と反文明の1日

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意味深長なことに、スコットランドの独立をめぐる住民投票の日は、8カ月以上拘束されていたウイグル人学者イリハム・トフティのウルムチでの公判日と偶然一致していた。

イリハムの公判審理があったのは9月17、18日の2日間だ。彼の罪名は「国家分裂罪」と「国家分裂集団組織成立罪」だ。しかし、イリハムは法廷で意見陳述した時、はっきりとこう宣言した。「私は無罪です。国家を分裂させる犯罪集団を組織したことはありませんし、国家を分裂させる犯罪活動に従事したこともありません」。それでも彼は重い判決を受けた。5日後の23日に無期懲役の判決を受け、全財産を没収された!この知らせが伝わると世界は驚愕した!

スコットランドとイングランドが合併して連合王国になり、既に307年の歴史がある。これ以前の歴史では、1314年にスコットランド軍がイングランド軍を打ち負かし、独立戦争で最終的な勝利を収めた。700周年に当たる2014年を選び、独立の是非を問う住民投票を実施するのは、重要な歴史的意義と象徴的な意味を持つと考えられた。スコットランド独立の英雄ウィリアム・ウォレスを描いた有名なハリウッド映画「ブレイブハート」を引き合いに、「スコットランドの『ブレイブハート』は700年続いてきた!」と今回の住民投票は称賛されている。

住民投票のちょうど2日前、ジャーナリストの長平がドイツの国際放送「ドイチェ・ベレ」のため、私に書面でインタビューした。私は次のように答えた。

「まもなく実施されるスコットランドの住民投票の意義は計り知れない。最終的な結果がどうであれ、英国とスコットランドの間だけではなく、この世界にとっても大きな変化になるように思う。これは決して一部の人たちの言うような『後退』を意味するのではないし、経済分野などを考えるのが最も重要だという意味とも限らない。極めて重要なのは、英国におけるスコットランドの自治レベルは早くから本当の『高度な自治』だったという点だ。『自治』の名の付く中国のあらゆる土地と比べ、まさに雲泥の差があるにもかかわらず、21世紀の今日、一層自分たちの希望に沿った運命を住民投票で選べる。これは自由こそ天賦の人権であり、住民投票は普遍的な価値なのだという事実を改めて証明している。統制された盲信と現状維持こそ本当の後進、反動だ。チベット人として現代に生き、この重大な意義を持つ事件を(遥か遠くからではあるが)目撃すると、スコットランドとは別の問題にまで考えが及び、心が揺れ動く。なぜなら、これまで天賦の人権に対する認識やアイデンティティーの定義は、今日のように痛切で差し迫ってはいなかったからだ」

18日の住民投票の結果は既に公表されている。反対が55%、賛成が45%で、まさに評論家が次のように話していた通りだ。「英国政府が住民投票前、スコットランドを引き留めるため、完全な自治に近い地位を与えると宣言した状況の下でも、これほど多くの人が完全独立を支持したのは確かに注目されるし、住民投票を求めたのは成功だったと分かる。今回の住民投票を通じて、スコットランドの公民はもう自決能力を見せつけた」。チベット研究者でイリハムの親友でもあるエリオット・スパーリンク米インディアナ大教授は私にこう話した。「スコットランドの状況は事実上、私の理想だ。民主の原則に基づいて自決権を行使した。1人や少人数集団ではなく、全土の人々が未来を決定した」

同時に、スコットランド住民投票の持つ模範としての意義は、中国のネット民に広まった次の言葉から理解できる。「討伐を呼びかける英国メディアの檄文もなく、権力組織の脅迫もなく、硝煙もなく、戦車もなく、犠牲者もなく、警察もなく、外国勢力もなく、難癖もつけられず、逮捕者もなく、女性に暴力が振るわれることもなかった。この全てがなかった。統一か独立かを問う国家の重大事がこのように幕を閉じた。一人一人の票が世界を震撼させた。今回の住民投票ではどちらも勝者だ」

私も一言付け加えておこう。今回の住民投票にはこれほど多くの「中国の特色」がなかっただけでなく、「国家分裂罪」に問われるイリハムと7人の若い学生もいるはずがなかった。この世界はなんと奇妙なのだろう、文明と反文明が同じ日に現れるとは!

2014年9月   (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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