チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年10月3日
鉱山開発に抗議するチベット人に無差別発砲 13人被弾
2014年3月10日、ナムリン県で威嚇行進を行う武装警官隊。
このところ香港では学生・市民の大規模民主化要求デモが行われ、世界中のメディアが注目していた。当局も一旦、デモ参加者を蹴散らすためにペパースプレーや催涙弾を使ったが、これが世界中に伝えられるやイメージダウンを怖れ、当局はすぐに武力行使を中止した。見られるところで悪い事はしないということだ。
昨夜、香港長官が「(デモ側が要求した)辞任はしないが、代理人を通じてデモ側の代表者たちと対話する用意がある」と表明した。明らかに時間稼ぎ目的の提案だが、行儀のよい学生たちはこの話に一旦乗るしかなく、デモは一時解散に向かっている。モメンタムを逃したことが残念だ。
香港でデモ隊に対し催涙弾が使われる事は非常に珍しいという。一方、チベットではちょっとしたデモに対しても実弾が使われることが少しも珍しくない。共産党に逆らうものはその場で銃殺されても何も言えないということだ。
10月1日付けRFAによれば、8月9日、チベット自治区シガツェ地区ナムリン県で鉱山開発に抗議したチベット人住民たちに向かい部隊が無差別発砲を行い、13人が被弾負傷したという。その内の1人は妊婦であった。
このシガツェ、ナムリン県ではこれまでにも鉱山開発を巡り、住民と当局の衝突が何度も起きている。この地区の鉱山開発は10年ほど前に始まり、次第に拡大されて行った。拡大にともない、住民の土地が取り上げられたり、公害で家畜等に被害が出るというので、住民たちは当局に何度も掛け合っていた。しかし、住民は「地区の書記は鉱山開発会社から賄賂を受け取り、つるんでいる」といい、当局は無視するばかりであった。
2010年5月21日、ナムリン県ウユック・ソチェン郷で鉱山開発に抗議した後、拘束されるチベット人たち。
2010年5月には抗議するチベット人たちに部隊が暴力をふるい、数十人が逮捕されている。その他これまでに県内いくつかの村で衝突が起こり逮捕者がでている。
今回はナムリン県ツァン・トプギェル村の住民が地区内の鉱山開発に反対し抗議デモを行ったという。「デモ隊は郷庁舎を囲った。そこに武装警官隊が現れ、集まっていた人たちに向かって発砲した」と匿名希望の現地チベット人が伝える。
「13人が撃たれた。その内の1人は妊婦だが、彼女は足を撃たれた」「ほとんどの負傷者はシガツェの病院に運ばれたが、何人かはナムリンで治療を受けている」という。負傷者たちの状態や現地の状況等詳しいことは未だ伝わっていない。
同じくナムリン県で2010年6月5日、鉱山開発抗議者を弾圧するために部隊が出動したときのもの。
地域ではこの事件の後すべての情報網が遮断されたという。そのせいで、この事件が海外に伝わるのに2ヶ月近くかかっている。チベットはこの点でも香港とは違う。
鉱山開発を巡る地元チベット人と鉱山会社+当局の対立事件は、鉱山開発の増加に従いますます多くなっている。先週9月23日には、同じ自治区メルド・グンカル県では、大規模な鉱山開発に伴う川の汚染を訴えるために1000人規模のデモが行われた。しかし、当局は対話を拒否し続けている。ゴロ州ペマ県のチベット人たちも近く地区の鉱山開発に抗議する大規模なデモを行うと9月29日に宣言している。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)