チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年7月24日
青蔵鉄道 ラサ~シガツェ間開通 8月初めより
RFAが人民日報を引用し伝えるところによれば、青蔵チベット鉄道会社は今月22日に敷設を終えたラサ~シガツェ間の鉄道上で試験走行を行い、来月8月初めから商業運転を開始すると発表した。
中国は西部大開発の目玉プロジェクトとして2006年7月、青海省のゴルムトからラサまでの全長1956kmの鉄道を完成させた。チベットにとってこの鉄道の影響は莫大であり、北京からラサまでの大動脈ができたということで、人と物と武器の移動が自然と増大した。漢民族移民と鉱物資源搬出が加速され、武器や軍隊の大量移送が簡単となった。ラサ周辺は漢族の観光客で溢れる状態となった。チベット支配強化に貢献著しい鉄道である。
この青蔵鉄道初の延長線であるシガツェまでの全長253kmの路線は2010年9月に着工され、ことし10月の完成予定であった。海抜3600m~4000mの高地で、たった4年間でそれも予定より早く完成させたことで、中国はこの鉄道完成に深い意義認め、強い意志を示したことになろう。
ラサ~シガツェ間の列車は平均時速120km/hで運転され、途中駅の数は13カ所、所要2時間という。当局は「環境に配慮した設計と工事を行った。南西チベットに住む人々に多大な利益をもたらす」と宣伝する。これに対し、地元のチベット人たちは「漢族の移民と鉱物資源の略奪が加速されるだけだ」と嘆く。
ラサに次ぐチベット自治区第二の都市、シガツェ市の人口は約70万。ラサに比べまだまだチベット人率が高く、その90%以上がチベット人である。鉄道の開通により、今後人口比率も急速に変化することであろう。
シガツェには中国が選んだパンチェン・ラマが座主であるタシルンポ僧院もある。つい先日も11世パンチェン・ラマとされるギェルツェン・ノルブがこのタシルンポを訪れ、法要を行っている。宗教支配のもう1つの拠点にもなるであろう。
インド国境にもっとも近づくこの鉄道路線がインドを刺激しないはずはない。中国の辺境鉄道の最大の目的はつねに戦略的なものであるからだ。それでなくても、インドは中印国境関係だけでもその兵力は半分以下である。「この鉄道延長により、兵員と武器を速やかに移動させる戦略的能力を得たことになる」とインドのメディアなどは憂慮を示している。
この路線はさらにネパールのカトマンドゥや、果てはインド国境沿いのルンビニまで延長されるという計画がある。今のところインドの圧力でネパール政府はこれを認めていないが、この先はわからない。
参照:7月23日付けRFAチベット語版
その他
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)