チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年7月15日
ディルで尊敬を集める僧侶拘束/外国のニュースを聞けば冬虫夏草採取権利剥奪
去年秋頃から、弾圧が強まっている自治区ディル県でこんどは、地元の人々からチベット愛国者として深い尊敬を集める1人の僧侶が拘束され、それを契機に弾圧がさらに強められた。
現地からの報告によれば、「今年5月のラカルの日(*1)に、ディル県レンチュ郷(འབྲི་རུ་རྫོང་བརླན་ཆུ།)にあるゴム・ゴンサル僧院(འགོམ་དགོན་གསར་དགོན་པ།)の僧テンジン・ルンドゥプ(བསྟན་འཛིན་ལྷུན་གྲུབ།)はシャクチュ町に講演のために招待された。演題は地区の人々の要請に従い『民族と言語の現状』であった。その講演中に彼は警官により連行されたのだ」という。
シャクチュ郷出身の僧テンジン・ルンドゥプは他の僧院も廻りながら仏教学を深く修め、僧院では教師格の僧侶であった。また、彼は僧院内だけでなく、付近の村人たちにも呼ばれるがままに、仏教だけではなく、普通の道徳を説き、菜食を勧めていたという。彼の人徳が見込まれ、村人同士の争いの仲介役にもなっていた。されに、彼はチベットに対する忠誠心の強い僧侶としても知られ、地元の人々から篤い信頼を得ていたという。
ナクラ鉱山開発に抗議した人々を祝福するためにカタを与える僧テンジン・ルンドゥプ。
去年5月、ディル県にあるナクラ・ザンバラと呼ばれる聖山の麓で鉱山開発が始まろうとしたとき、地元のチベット人が数千人現場に集まり抗議を行ったということがあった。この後、この抗議集会に参加したチベット人の多くが逮捕され刑を受けている。この時、僧テンジン・ルンドゥプは参加者たちを祝福するためにカタを与えるという役を行っていた。そして、この時から当局は彼をマークし続けて来たという。
彼が連行された後、ゴム・ゴンサル僧院は部隊に囲まれ、彼の部屋が捜査されたという。その時、あるチベット人が警官に拘束の理由を尋ねたところ、警官は「彼は今日の出来事だけでなく、何年も前からいろいろと問題があることが分かっていた。特にナクラ鉱山開発反対運動の中心的人物だ」と答えたそうである。
彼の消息は現在も途絶えたままという。また、彼の拘束を契機にディル県の警察はディルの弾圧強化を宣言する公示を張り出した。それによれば、ディルのチベット人はその移動、言論、宗教の自由が制限され、特に僧侶に対しては「噂を広めないように」と警告されているという。命令に従わない僧侶は僧籍を奪われ、僧院から追放され、福祉支援を受ける権利が剥奪されるとされる。
一般チベット人に対しては、「チベット独立を求める歌を歌ったり、中国政府の政策に異議を申し立てたり、国家機密を外国に流したり、亡命チベット人社会が発するニュースを聞いたりしたときには、その人の冬虫夏草を採取する権利とすべての福祉支援を受ける権利が剥奪される」と公示されたという。
*1 ラカルの日:ラカル<白い(聖なる)水曜日>とはダライ・ラマ法王の誕生曜日が水曜日だったということで、この水曜日を特別な曜日と見なし、この日、間接的抵抗を示すために宗教、文化に関する様々な特別の行動を行う個人や団体がある。この情報を伝えた人は「5月のラカルの日」としか覚えていないらしく、日にちは未だ特定できていない。
参照:7月14日付けTibet Expressチベット語版
7月14日付けTCHRDリリース
7月14日付けRFAチベット語版
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)