チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2014年6月25日

ウーセル・ブログ:当局は「通行証」発給を制限し、チベット人の聖山巡礼を禁じた

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チベットにある聖山カイラスはチベット人に取って最高の巡礼場所である。12年に一度廻ってくる午年にここを巡礼すれば特別のご利益を得ることができると信じられている。そういうわけで、今年カイラスを巡礼しようと思っている内外チベット人が沢山いるらしい。しかし、ウーセルさんのブログによれば、当局は現在カイラス山を巡礼することを禁止しているようである。その理由は7月初めにカイラス山の向こう側、インドのラダックでダライ・ラマ法王がカーラチャクラ法要を行うことと関係があるという。

原文:唯色:当局限办“边防证”,禁止藏人朝圣神山 
翻訳:@yuntaitaiさん

◎当局は「通行証」発給を制限し、チベット人の聖山巡礼を禁じた

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写真上:チベット仏教とヒンズー教、ボン教、ジャイナ教がともに崇める聖山カン・リンポチェ(カイラス)。

この世界に極めて特別な山がある。それはチベット仏教とヒンズー教、ボン教、ジャイナ教がともに崇める聖地で、世界の中心と考えられている。チベット語ではカン・リンポチェ、サンスクリット語ではカイラスと呼ばれ、ブッダは「精神の極地」とたたえた。遥か遠く、チベットの伝統的な地理で言う「ンガリ3国」に位置する。カンティセ山脈の主峰で、標高は6656メートル。チベットのあらゆる聖山の頂点だ。

005-1聖山の巡礼方法はコルラ(右繞)だ。密教では、カン・リンポチェと巡礼路はそのまま宇宙のマンダラを形作っており、巡礼者のコルラはマンダラを供える儀式に相当すると考えられている。ヒンズー教では、右繞はシバ神のマンダラへの修持と同じだと考えられている。さらに、カン・リンポチェとシャカムニの干支は同じ午なので、午年は聖山カン・リンポチェの年であり、午年の度に必ずコルラしなければならないと仏教徒は考えている。

今年はチベット暦の午年だ。数えきれないほどの信徒がこの機会に、神聖なカン・リンポチェを伝統にのっとって巡礼することを切望する。伝統では、最高の巡礼シーズンはチベット暦の4月、つまり「サカダワ」だ。チベット暦4月15日には、カン・リンポチェのふもとで、タルチョを付け替える盛大な儀式が執り行われる。この場所は巡礼路全体の起点と終点でもある。

しかし、カン・リンポチェを含むチベットの多くの場所へ行くには辺境通行証を取る必要がある。チベット人は元々、通行証を取るのがとても難しかったが、この数年はますます難しくなっている。チベット人の午年のカン・リンポチェ巡礼を当局が禁止するといううわさが昨年流れた時、本当に止められるとは誰も信じようとしなかった。だが、今年の初めからラサの各組織は大小の集まりで、公務員はカン・リンポチェのコルラに行ってはいけないし、家族を行かせてもいけない、さもなければ処罰されると注意した。最近、ほかにも厳しい規定があることが分かった。例えば、チベット当局は9月以前に休暇を取らないよう全ての職員に求め、従わなければ解雇するとした。また、各県はチベット人の僧俗にサカダワ(5月29日~6月27日)期間中と7月に地元を離れないよう求めたという。

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チベット辺防管理局に関連する通知(新浪微博から転載)

チベットの旅行業に従事する人やチベット旅行に行くネット仲間が4月末、チベット辺防管理局のものとされる通知を新浪微博でリツイートしていた。「2014年4月24日0時以降、チベット自治区はンガリ(阿里)行きの通行証の手続きを受け付けません。各位は戸籍所在地の公安局の戸籍接待室で申請してください」。ネット仲間は「基本的にラサではンガリ地区行きの通行証を取れないということだ」と書いた。これはつまり、ラサのチベット人はンガリ行きの通行証を取れないし、カン・リンポチェ巡礼もできないということだ。

あるチベット人のネット仲間は「でも、4省のチベット・エリアのチベット人は地元でも全く辺境通行証を取れないよ」と書いた。ある漢人観光客はこう書いた。「今、外国人観光客とチベット族同胞のンガリ地区行きが制限されている!僕らは本当にラッキーだ」「あちこちのコネに頼ったけど、チベット族の友人の通行証は結局取れなかった。どんなチベット族にも通行証を出さないよう要求している文書があるからだそうだ。要するに、カン・リンポチェ周辺地域の住民以外は誰も合法的に巡礼に行けないんだ」。極端な場合、「チベット族のガイドはンガリに行ってはいけない!」という。

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ネット仲間が陝西省で取ったンガリ地区の交通証(新浪微博から転載)

旅行業に従事するネット仲間は微博で、通行証をどう取るかを観光客に伝えていた。「身分証を戸籍所在地に送り返してください。もし戸籍がチベットにあるなら、どうしようもありません」「今年の管理は少し厳しく、あらかじめ中国の内地で取っておくのがいいでしょう」。ある内地の観光客は「ここでは手続きできる所がない。私は広州で取ってきたので良かった」と喜んだ。また、「8月末まで厳しい管理が続くのでは」「今年ずっとかもしれない」と漏らす観光客もいた。

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写真上:ダライ・ラマ法王は7月3~14日、ンガリと接するインド北部ラダックで、第33回カーラチャクラ灌頂大法会を執り行われる。

ンガリ地区行きの通行証を制限する規定は、明らかに今年の午年、伝統に従ってカン・リンポチェを巡礼するチベット人に向けられている。チベット人のネット仲間は「どうせこれは聖山巡礼を制限すると同時に、ラダックで7月3日に開かれるダライ・ラマのカーラチャクラ法会に参加するのを阻止するためだ」と書いた。そう、ダライ・ラマ法王は7月1日、ンガリと接するインド北部ラダックに到着され、3~14日に第33回カーラチャクラ灌頂大法会を執り行われる。前回のカーラチャクラは2年前、仏教聖地ブッダガヤで開かれ、本土の各地から参加したチベット人信徒は1万人以上いた。しかし、故郷に戻った時に落とし前をつけさせられ、強制収容所のような当局特設の「学習班」で精神的に痛めつけられ、パスポートも没収された。

匿名の人物が4月末にカン・リンポチェのふもとで撮った写真には、既に多くの軍車両と警察車両が集合し、各種の軍警が集まっているのが写っていた。まさに観光客が「巡礼路はどこも兵士のお兄さんとチェック・ポストばかりだ」と話していたように。最近伝わってきた情報では、聖山カン・リンポチェは既に治安維持の重点区域になったという。

元々故郷に戻るのが難しい国外のチベット人にとっては、これで更に聖山巡礼の可能性がなくなった。統一戦線部で働くあるチベット人は国外のチベット人に注意を促した。「今年家族を訪ねて帰省する同胞はビザ申請時、家族を訪ねる理由だけを書き、コルラに行く理由を書かないでください。国外の中国大使館には通行証を出す権限はないので、ビザを拒否される理由にしかならないからです。チベットでは、もう現地のチベット人への通行証発給が止まりました。同胞は必ず同胞を通じて申請しなければいけません。取れるかどうかは未知数です」

6420スイスで長く暮らしている亡命チベット人を私は知っている。60歳を過ぎて体調は良くないが、一生に3回カン・リンポチェを巡礼したいと以前から願を懸けていた。彼はたとえ巡礼路で命が尽きたとしても最大の解脱になると考え、6月13日、つまりチベット暦4月15日のコルラを強く望んだ。彼の家族も手伝う準備を済ませた。しかし、彼は願いを達成できるのだろうか?

2002年に聖山カン・リンポチェをコルラし、約20時間で50キロ以上の巡礼路を歩き終えたことを思い出す。カン・リンポチェの不思議な山容が突然現れた時、まるで具現した仏教の象徴、マンダラを目の当たりにしたかのように思えた。私は微博に書き留めた。「とても悲しい。12年前、カン・リンポチェを巡礼して1周した時、私は『次の午年が来たら絶対2周目を歩きたい』と祈り願った。どうやら私の願いは実現できそうにない。本当にとても悲しい」

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2014年6月 (RFA特約評論)

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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