チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2014年5月5日

ウーセル・ブログ「チベット人の刀剣処分が伝える意味」

Pocket

ウーセルさんは去年11月26日付けのブログで、カムやアムドを中心に広がっている自主的「刀剣処分」の意味について問われている。この行為を「非暴力不服従」の社会的抵抗運動の一つと位置づけ、「焼身者の命と引き換えにしたある種の覚悟や行動の現れていないのだろうか?」と問い、将来、中国政府がチベット民族全体を「テロリスト」という集団イメージで塗りつぶそうとするであろうことを予測した、対抗策の一つでもあるという。

最後にこのような「非暴力不服従」の運動に対する「周到で慎重な思考と戦術的な計画、指導が求められる」と述べ、内外でこのような運動を計画・指導する人や組織の必要性も訴えている。

原文:唯色:藏人销毁佩刀等传递的信息
翻訳:@yuntaitaiさん

唯色:藏人销毁佩刀等传递的信息

image

チベット人が長年身に着けていた刀剣を提出し、処分した。

◎チベット人の刀剣処分が伝える意味

学会誌Cultural Anthropology(文化人類学)が2012年に組んだチベット人焼身事件特集で、チベット研究者のCharlene Makley氏は「遺体の政治生命」という文章を発表し、次のように書いた。「私が2008年に看破したように、チベット人の抗議に対する軍事的鎮圧は、中国共産党の体制が異常な状態に入ったことを示している。それは特定の敵を包囲するのではなく、町や地区全体を包囲する」「高原全体に広がる集団的な報われない悲しみと、包囲下のチベット人の燃え立つような静けさの前で、焼身者の遺体が何よりも物語っているのは、国家の治安部隊による抹消(強制的な失踪)と官製メディアによる抹消(絶え間ない検閲)に逆らった、(チベット民族の)早まった死という残酷な現実だ」

チベット研究者のこの結論には本当に憂鬱にさせられる。では、別の変化は現れていないのだろうか?言い換えれば、チベット全土で焼身者の命と引き換えにしたある種の覚悟や行動は現れていないのだろうか?

実際、焼身者の足跡や遺言は現地に広く伝わっており、反響は極めて大きい。例えば、ソバ・リンポチェが焼身したダルラ県(青海省果洛州達日県)では、数百人のチベット人が自発的に数千本の刀剣や猟銃、弾丸などをまとめて廃棄した。そして、今後は二度と武器を身に着けず、仲間内で争わず、他人の物を盗まず、生き物を殺さず、チベット人内部の団結を強めると誓った。立て続けに6人が焼身して犠牲になったザムタン県(四川省阿壩州壤塘県)では、数千人のチベット人が自発的に数千本の刀剣や猟銃などをチュジェ・タツァンとツァンワ・タツァンに差し出して廃棄し、これからは二度と争わず、殺生をしないと宣誓した。

ますます多くの民衆が進んで刀剣や銃などを処分している。これは単に「私たちは二度と武器を持ちたくない」「私たちは二度と殺生をしたくない」といった願望を伝えているだけではなく、深く長期的な意義をより含んでいるだろう。つまり、未来が危険にあふれている可能性を考慮して生まれた本土の対処法の一つだ。

なぜそう言えるのか?わずか600万しかいない私たちの民族の苦境や危うい運命について、多くの高僧や民間のエリートがチベットで考え続けていると私は堅く信じている。同化され、消されるのを免れるため、炎に身を包むという最も激しい行動を含め、様々な方法で無数のチベット人が抵抗している。しかし、中国政府が取る手段は一歩一歩エスカレートしてくる鎮圧で、極端な場合には焼身者全員を有罪とし、焼身行為を「テロリズム」「テロ行為」と定義する。将来、民族全体が「テロリスト」という集団イメージで塗りつぶされ、中国政府に絶えず陥れられていくだろう。その目的はもちろん、チベット人が全世界で持ち続けてきた非暴力のイメージを徹底的に変えることにある。

長年の残酷な事実を通じ、チベットの高僧と民間のエリートはこの大きな危険を既に察知しているはずだ。カムとアムドで盛んになった刀剣処分の行動は今後、自分の利益を犠牲にするやり方で、一般の人々に向けてチベット人の「非暴力」のイメージを守ってみせ、将来「暴力的」と塗りつぶされる陰謀を無意味なものにするのではないか?ともに民族全体の存続のため、喜んでこうした犠牲を払うよう、より多くのチベット人に言い聞かせ合うことを促すのではないか?

一般の人々はロサ拒否や耕作ボイコット、ラカルなど、2008年以降にチベット全土に広がった様々な「非暴力不服従」を思い起こし、刀剣の処分という方法で「非暴力不服従」の堅持を再び示して見せた。より重要なのは、この行動を僧院や僧侶とともに成し遂げるということだ。実は「非暴力不服従」の多くのモデルは僧院と僧侶の影響力とは切り離せない。非暴力は決して簡単な口先だけの暴力の否定ではない。非暴力不服従にはやり方がある。チベットでの事例は既に数多くあり、周到で慎重な思考と戦術的な計画、指導が求められる。民衆はこうした不服従の伝える意味をすぐに感じ取るだろう。

2013年10月30日、ラサにて  (RFA特約評論)

以下の写真は微博やフェイスブックなどから転載。アムド、カムの各地のチベット人が次々に刀剣などの武器を処分している。

_

_4

156456_363229863724556_1084899501_n

734673_540306399315433_1142287733_n

262734_10151371829544919_103674353_n

9a541d63jw1dzde8n3epzj

428977_458752164191519_1059096912_n-1

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

ちべろぐ

Archives

  • 2018年3月 (3)
  • 2017年12月 (2)
  • 2017年11月 (1)
  • 2017年7月 (2)
  • 2017年5月 (4)
  • 2017年4月 (1)
  • 2017年3月 (1)
  • 2016年12月 (2)
  • 2016年7月 (1)
  • 2016年6月 (1)
  • 2016年5月 (9)
  • 2016年3月 (1)
  • 2015年11月 (1)
  • 2015年10月 (2)
  • 2015年9月 (4)
  • 2015年8月 (2)
  • 2015年7月 (14)
  • 2015年6月 (2)
  • 2015年5月 (4)
  • 2015年4月 (5)
  • 2015年3月 (5)
  • 2015年2月 (2)
  • 2015年1月 (2)
  • 2014年12月 (12)
  • 2014年11月 (5)
  • 2014年10月 (10)
  • 2014年9月 (10)
  • 2014年8月 (3)
  • 2014年7月 (9)
  • 2014年6月 (11)
  • 2014年5月 (7)
  • 2014年4月 (21)
  • 2014年3月 (21)
  • 2014年2月 (18)
  • 2014年1月 (18)
  • 2013年12月 (20)
  • 2013年11月 (18)
  • 2013年10月 (26)
  • 2013年9月 (20)
  • 2013年8月 (17)
  • 2013年7月 (29)
  • 2013年6月 (29)
  • 2013年5月 (29)
  • 2013年4月 (29)
  • 2013年3月 (33)
  • 2013年2月 (30)
  • 2013年1月 (28)
  • 2012年12月 (37)
  • 2012年11月 (48)
  • 2012年10月 (32)
  • 2012年9月 (30)
  • 2012年8月 (38)
  • 2012年7月 (26)
  • 2012年6月 (27)
  • 2012年5月 (18)
  • 2012年4月 (28)
  • 2012年3月 (40)
  • 2012年2月 (35)
  • 2012年1月 (34)
  • 2011年12月 (24)
  • 2011年11月 (34)
  • 2011年10月 (32)
  • 2011年9月 (30)
  • 2011年8月 (31)
  • 2011年7月 (22)
  • 2011年6月 (28)
  • 2011年5月 (30)
  • 2011年4月 (27)
  • 2011年3月 (31)
  • 2011年2月 (29)
  • 2011年1月 (27)
  • 2010年12月 (26)
  • 2010年11月 (22)
  • 2010年10月 (37)
  • 2010年9月 (21)
  • 2010年8月 (23)
  • 2010年7月 (27)
  • 2010年6月 (24)
  • 2010年5月 (44)
  • 2010年4月 (34)
  • 2010年3月 (25)
  • 2010年2月 (5)
  • 2010年1月 (20)
  • 2009年12月 (25)
  • 2009年11月 (23)
  • 2009年10月 (35)
  • 2009年9月 (32)
  • 2009年8月 (26)
  • 2009年7月 (26)
  • 2009年6月 (19)
  • 2009年5月 (54)
  • 2009年4月 (52)
  • 2009年3月 (42)
  • 2009年2月 (14)
  • 2009年1月 (26)
  • 2008年12月 (33)
  • 2008年11月 (31)
  • 2008年10月 (25)
  • 2008年9月 (24)
  • 2008年8月 (24)
  • 2008年7月 (36)
  • 2008年6月 (59)
  • 2008年5月 (77)
  • 2008年4月 (59)
  • 2008年3月 (12)