チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年2月22日
「放生」は違法? ヤク300頭を放生したとして僧侶3人逮捕
「放生」とは仏教用語であり、一般には捕らえた魚や鳥を自然に放してやることをいう。まさに殺されようとしている屠殺場に送らた家畜を救うことも含まれる。もちろんこのことはチベット仏教でも徳を積む行為として奨励されている。
かつてチベットにはラサなどの大きな街以外には屠殺場というものは存在していなかった。チベット人は商業的屠殺を嫌い、ラサの屠殺場はイスラム教徒たちに任されてきた。遊牧民たちももちろん肉を得るために屠殺を行うことがあるが、それは常に必要最低限に止められている。しかし、最近、チベットの至る所に屠殺場が出現している。中国人が経営する屠殺場である。ヤクの肉は加工食品として中国内地で売り出されている。
放生は中国人仏教徒たちも行うが、チベットでは最近この「放生」を行った僧侶3人が逮捕されたという。チベットでは「放生」は違法な行為というわけだ。
当局は300頭のヤクを放生したとして、今月6日、青海省ゴロ州ペマ県キカル郷にあるガンシャル僧院の3人の僧侶:ユトゥク(51)、リンボ(50)、セルシェ(43)を逮捕した。当局は放生は違法であるという。彼らは現在ペマ県の拘置所で尋問をうけている。
彼らは屠殺場から300頭のヤクを買い取り、その後放ったと言われる。
3人の内、僧リンボは僧院の責任者、僧セルシェは僧院の会計係である。この3人は僧院を代表する僧侶たちであり、地元の人々にも慕われているという。地元の人々は、人望篤い彼らに嫌がらせするために、罪もないのに今回当局は彼らを拘束したと見ている。拘束が長引けば、地元の人々が何らかの行動にでる可能性が高いと思われている。
ガンシャル僧院はニンマ派の僧院であり、現在100人ほどの僧侶が在籍する。
RFAによれば、地方当局は中国人経営の屠殺場を支援するために、時には遊牧民たちに強制的にヤク等の家畜を「寄付」することを求めることもあるという。いなくなったヤクが屠殺場で見つかったという話しもある。
チベット人たちはこの屠殺場を仏教に反する、中国人侵入の象徴と見なし、様々なやり方で抗議を行って来た。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)