チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2014年2月19日
レゴンで有害食品焼却キャンペーン ゾゲで武器焼却イベント 2つの微妙な動き
最近フェースブック等に大きな炎を囲むチベット人たちの写真が何度か上がり、また焼身ではないかとハッとしてよく見ると、そうではないらしいということが分かるということが続いた。その一つは青海省黄南州レゴン県一帯で最近行われている「有害食品」を食べないようにしようキャンペーンであり、もう一つは四川省ンガバ州ゾゲ県で行われたいつもの「武器焼却」イベントであることが分かった。
どちらの地区もここ数年焼身抗議も多く発生し、中国政府に対する抵抗運動の盛んな土地柄ということもあり、目を引く動きと思われた。
レゴンで有害食品焼却キャンペーン
レゴンの方は、最初ある大学生グループが「微信(ウィーチャット)」を通じ、政府が食品の健康被害について無関心であり、このままではチベットの未来を背負う子供たちに有害な影響がでる恐れがあるとして、有害と認められる食品の破棄を訴えた。これから県内の各地でこのキャンペーンを行うとも書かれていたという。
左の写真は、2月12日、レゴン県ギェルポ・ルチュ村で行われた有害食品焼却イベント。
このときは各自がそれぞれ商店に行き、有害と思われる加工食品を買って集まり、それらを焼却したという。
フェースブックのコメント欄には「もっと他にやりようはないのか?」「どういう基準で有害食品と判断するのか?」とか、ある日本人からは「かえってダイオキシンが出て有害そう」という意見も出たりして、やり方については否定的なコメントも見かけられた。しかし、中国に有害食品が多いことは世界的に有名ということで、この新キャンペーンに賛成するという意見が大多数であった。象徴的な意味はいろいろあると思われる。
このレゴン地区は2008年にも大規模な抗議デモを行い、ここ数年間で12人が焼身抗議を行っている。当局の厳しい統制にも関わらず焼身者の葬儀は大々的に行われることが多かった。
2010年には教育機関における漢語優先政策に反対して各地で中高生を中心に「民族平等・言語自由」をスローガンとした大規模なデモが続いた。2012年には同じく学生たちが「民族平等・チベットの自由・ダライ・ラマ法王帰還」を訴える大規模なデモを行った。もちろん当局はこのレゴン地区を要警戒特別地区として厳しい抑圧政策を行っている。
たとえそれが食品・健康に関わるイベントであろうとも、チベット人が集まって中国の食品を焼却するというキャンペーンが広まれば、これを当局は、環境破壊に対する抗議等と同様、恣意的に政治的動きと判断する可能性もあると思われる。
ゾゲでチベット人団結を示すために武器焼却
左の写真は、最近、四川省ンガバ州ゾゲ県アキ郷第三村で行われたという武器焼却イベント。
この「武器焼却イベント」というものは2008年以降、カムやアムドの各地で行われている。大方はダライ・ラマ法王の「非暴力主義」への連帯を示すために各地の僧院が呼びかけ行われることが多い。本来ならチベット人たちが集まって率先的に武器を焼却するという、この世界に稀なる現象は中国政府にとっても好ましいことではないかと思われるわけではあるが、政府はこれを「毛皮焼却キャンペーン」同様、「ダライの言いつけに従う政治的行為」と見なすこともあるのである。
ゾゲでも多くのチベット人が焼身抗議を行い、政府もこれに対し厳しい連座制を敷いているという最中である。今回のゾゲ、アキ郷のこのイベントには「チベット人の団結を示すため」という説明が付けられている。屈強そうなチベット人が集まり武器を焼却しているという写真には、なにかチベット人の新たな誓いを感じさせるものがある。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)