チベットNOW@ルンタ

ダラムサラ通信 by 中原一博

2014年1月18日

ウーセル・ブログ「省境を越えて拘束されたケンポ・カルマ・ツェワン」

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ウーセルさんは1月8日付けのブログで、最近ナンチェンで解放運動が高まっているケンポ・カルツェ拘束の件について詳しい報告をされている。

その中でケンポ・カルツェを擁護するために家族が雇った中国人弁護士の話しが書かれている。このように家族が弁護士を雇うことについて、中国の役人が「弁護士は決して見逃さないし、大胆にも弁護士を呼んだ逮捕者の家族も決して見逃さない。誰かが弁護士を呼んだら、すぐその誰かを捕まえてやる」と警告したという。

中国当局は「法律に則って事件を処理する」と常に口にするが、一方で法律に従う考えは全く無ないということを明らかにしているのだ。

原文:唯色/遭跨省抓捕的囊谦堪布尕玛才旺
翻訳:@yuntaitaiさん

チャパ僧院

ナンチェンのカギュ派僧院、チャパ僧院

Gartse

ケンポ・カルマ・ツェワン

◎省境を越えて拘束されたケンポ・カルマ・ツェワン

カム地方ナンチェン(現在の青海省玉樹チベット族自治州ナンチェン県)にあるカルマ・カギュ派の重要な僧院、チャパ僧院のケンポ・カルマ・ツェワン(ケンポ・カルツェとも呼ばれる)が2013年12月6日深夜、僧院の事務処理のため滞在していた四川省成都市で、チベット自治区チャムド地区の公安に省境を越えて突然拘束された。チャムドに連れて行かれて勾留され、既に丸1カ月になる。

Photo by Carolina Rodrigues1
カルマ・カギュ派の祖寺で、チベット仏教のトゥルク転生制度の発祥地、チャムドのカルマ僧院。

ナンチェンからの情報によると、ケンポ・カルツェの拘束は、チベット自治区チャムド地区チャムド県のカルマ僧院で近年起きた事件と関わりがある。ナンチェン県とチャムド県はそう離れていない。カルマ・カギュ派の祖寺で、チベット仏教のトゥルク転生制度の発祥地であるカルマ僧院は、チャパ僧院と同じ宗派に属する。山一つ隔てているだけでもあり、元々非常に近い関係にある。カルマ僧院は2011年から駐寺工作組に進駐され、平穏を失った。18歳以下の僧侶全員が僧院を追い出され、無理やり還俗させられた。怒りと抵抗から、その年の10月26日未明、若い僧侶が粗末な手作りの爆弾をカルマ郷政府の敷地内に投げつけ、駐寺工作隊に反対するビラを貼った。

カルマ僧院の災難はこの時から続いている。徳望のあるケンポ2人と僧侶1人が「爆破、放火の容疑者10人をかくまった」として懲役2年半の判決を受けた。100人以上の僧侶が強制的に僧院を離れさせられた。逮捕、拷問されて供述を強いられた僧侶は数知れない。ある僧侶の父もかつてカルマ僧院の僧侶で、焼身している。一部の僧侶は僧院から逃れ、あちこちに身を隠した。最近聞いた話では、元々300人以上の僧侶がいたカルマ僧院は、今では6人の年長の僧侶だけが残ることを許された。一方、駐寺工作組は8人もいるという。

006ケンポ・カルツェのために嘆願する600人以上のチベット人を遮るナンチェン県長ら。

災難を逃れたその僧侶たちが今日のケンポ・カルツェ拘束を引き起こしたのかもしれない。600人以上の僧侶がケンポ・カルツェのために嘆願する動画が最近伝わってきた。ナンチェン県の県長が副県長ら幹部を引き連れ、嘆願のチベット人を途中で遮った時、はっきりとこう話したのが分かる。「2011年10月にチャムド(カルマ僧院)で事件が起きた後、あそこのかなりの僧侶がここに、私たちの僧院に来た。ケンポ・カルツェは彼らをかくまった。この事実は認めなければいけない。ケンポ・カルツェが捕まった後、僧侶や群衆が大騒ぎしているが、私たちには彼を釈放する権利がない。省内に来なければ、この問題を処理できない」

この県長は更に続けた。「もめ事を起こすなと私は何度もあなたたちに求めてきた。いい事はないぞ。まず、あなたたちにいい事はない。次に、ケンポ・カルツェにもいい事はない。その次に、将来のこの問題の解決にもいい事はない。もしあなたたちが大騒ぎすれば、警察が担当する問題になる。州公安局が出動し、あなたたちを牢屋に入れることになる。もしそうなれば、希望はなくなり、誰にもどうしようもなくなる」

「私たちは最近、チャムドに行ってきた。この問題のために行った。この問題は中華人民共和国の法律にのっとって処理する。私と朱書記は一緒に行った。なぜなら、ケンポ・カルツェの問題で、私たちナンチェン県県委書記と県長がこれからも仕事を続けられるかどうかの危機にあるからだ。あそこで私たちは何も言わなかったわけではないし、何もしなかったわけでもない。しかし、これは国家の法律で解決しなければならない問題だ」

唐弁護士チベット人の弁護を3回務めた唐天昊弁護士。

それならいいだろう、法律に従って処理してほしい。カルマ郷爆発事件で逮捕されたケンポ・ロドゥ・ラプセルの弁護人を務めたこともある唐天昊弁護士は2013年12月23日、厳しい寒さと海抜の高さを乗り越え、ケンポ・カルマ・ツェワンの家族から委任状を受け取った。唐弁護士はすぐさま本人との面会を求めたが、チャムドの警察当局に拒否された。警察当局は当初、ケンポ・カルマ・ツェワンを拘束したことを認めず、後になって「1.本事件は国家安全危害罪に関わっている。2.本事件はチャムド県公安局が担当する」と明らかにした。しかし、まだ勾留場所や具体的な罪名は伝えていない。

チャムドでの2日間、唐弁護士は本人に面会できなかったため、書簡でチャムド県公安局に4点要求した。「1.容疑者カルマ・ツェワンをチャムド留置所へ移送すること。2.法にのっとり、関係する法律文書を容疑者の家族に送ること。3.当弁護人は貴局のほかの刑事事件を扱い、重大な拷問や供述の強要を見つけた。本事件を担当する警官には法に従って尋問するよう希望する。もし容疑者の合法的な権益を侵害すれば、当弁護人は法にのっとり、あらゆる合法的な手段で関係者を告発、通報する。4.もし国家安全危害罪に関わっているのなら、当弁護人がカルマ・ツェワンと面会することを認めるよう貴局に希望する。また、カルマ・ツェワンの(具体的な)罪名を当弁護人に告知してほしい」

0401b2獄中から僧院に宛てられたケンポ・カルマ・ツェワンの手紙。

12月28日、ナンチェンの公安はケンポ・カルマ・ツェワンの直筆の手紙を僧院に渡し、僧院は翌日これを公開した。手紙にはこう書いてあった。「私は今回の不幸なめぐり合わせにより、チャムドの獄中に入れられている。私のせいで誰一人面倒な目に遭わないよう強く望む。最近、地元の公安警察と僧院の僧侶、民衆の間に衝突が起きたと聞いた。同様の事件を決して起こしてはいけない。先々まで見通し、考えを広げ、役人や関係部門と良好な関係を保ち、目の前の状況をできるだけ早く解決し、講経院と修行院などの活動を回復してほしい」。署名の部分には「玉樹(ジェクンド)のカルツェ 2013年12月27日 チャムド留置所にて記す」とあった。

以上の事実は、ケンポ・カルマ・ツェワンがチャムド公安に省境を超えて逮捕されただけではなく、チャムドで勾留されていることを裏付けている。しかし、AP通信記者が12月26、27の両日、チャムド県とナンチェン県の当局と警察に電話取材した時、とても皮肉で恥知らずなことに、彼らはこの件について「よく分からない、知らない、そのような事実はない」と答えた。

ひどいことに、ケンポ・カルツェのために嘆願した600人以上の僧俗のうち16人の僧侶が既に逮捕されている。その中には管理や会計など、僧院の要職に就いていた僧侶もいる。玉樹州長とナンチェン県長などの幹部はチャパ僧院に駐在して「法制教育」を展開し、全ての僧侶に「弁護士は決して見逃さないし、大胆にも弁護士を呼んだ逮捕者の家族も決して見逃さない。誰かが弁護士を呼んだら、すぐその誰かを捕まえてやる」と警告した。

2013年12月-2014年1月 (RFA特約評論)

1551683_10152246170705337_155429552_nケンポ・カルツェの解放を願い井早さんが描かれた。

筆者プロフィール

中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro

1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)

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