チベットNOW@ルンタ
ダラムサラ通信 by 中原一博
2013年11月17日
日本テレビの法王インタビュー
日本テレビNEWS ZEROキャスターである村尾信尚氏のインタビューを受けられる法王(写真はdalailama.comより)
ダライ・ラマ法王は15日に成田に到着され、10日間に渡る日本訪問を始められている。来日スケジュールはここに。
成田に到着するなり、その日の内に法王は日本テレビのインタビューを受けられている。その内容の一部が15日付けdalailama.comで早速報告されていた。放送は22日の予定と聞くが、すでに法王庁のサイトで内容は公開されていたということで、これを日本語にしても差し支えないと判断し、以下インタビューの部分をそのまま日本語にしてみた。
午後の早い時間に法王は日本テレビのNEWS ZEROキャスターである村尾信尚氏のインタビューを受けられた。インタビューは日本訪問の目的から始められた。これに対し法王は「人々と会い、幸せは心の中に存在するという考えを共有するためだ」と答えられた。
法王はまた、「仏教徒は日頃常にすべての有情のためにという祈りを捧げている。だからその機会に接した時にはそれを実行すべきだ」と言われ、「変化は行為によりもたらされるものだ。祈りだけでは実現されない」と続けられた。
「最近フィリピンを襲った自然災害などは今後増えると思われる。このような時に、私たちはみんな一つの人間家族の一部なのだということを思い出すべきだ。同胞である彼らをどのように助けられるかを考えるべきだ」とコメントされた。
村尾氏は、今日本で重大な問題とされていることは『いじめ』であるといい、何がこの原因であると思われるか、と質問した。
これに対し法王は「自分のことのみ考え、他の人を顧みず、他の人の幸せを考慮しないからだ」と答えられた。
子供の中には『いじめ』られたことにより自殺を考えるものもいるが、これをどのように止められると思われるかとの質問。
法王:「これは日本だけで起っているものではなく、世界中の現象だ。現在の教育システムは物質的価値と目的に沿ったものであり、内的価値はほとんど考慮されていない。だから、私の何人かの友人、科学者、教育家たちは宗教抜きに教育システムの中にもっと道徳感を育てる方法はないかと模索しているのだ」。
『いじめ』にあっている子供たちへのメッセージを何かお願いします、と村尾氏。
「さあ、なんとも、、、親や教師にもいくらかの責任があると思う。両親は子供たちに愛情を示すべきだ。そのための時間を作るべきだ。教師たちは単に知識を伝えることで満足するのではなく、もっと深い価値について教え、生徒たちの長い将来についても考慮すべきだ。もしも、家庭や学校が生徒たちにもっと愛情や温かい心を示すなら、子供たちの成長にも影響を与えることができると思われる」と法王。
『いじめ』にたいして自殺するという話しにひっかけ、村尾氏は法王に2009年以来チベットで100人以上の焼身者がでているが、これに対してどう考えられるかと質問した。
「これらの事件は非常に悲しいことだ。しかし、彼らは酔っぱらっていたり、家族問題からそうしたのではない。彼らは恐怖的雰囲気の中に暮らしていると感じているのだ。命を捨てる覚悟がある彼らは、もしもその気になれば他人を害することだってできたであろう。しかし意識的にそれを避けたのだ」と法王はコメントされた。
さらに「焼身が初めて行われた時、BBCの記者がこのことについて質問した。私は彼女に『これはとても、とても悲しいことだ。しかし、その効果については懐疑的だ』と答えた。焼身を奨励しない。しかし、私の立場は複雑だ。私はチベットの外にいる。彼らに(これに変わる方法として)提示するものがないもないのだ。中国当局はこのような行為の原因を調査し、これに答えるべきだと考える」と法王は答えられた。
中国の新指導者である習近平についてどう思われるかとの質問に対し、法王は「中国の過去60年間の様々な時代を顧みれば、毛沢東はイデオロギーに主眼を置き、鄧小平は経済発展、江沢民は党の範囲を広げ、そして胡錦濤のスローガンは社会の調和であった。このように同じシステムであったも、新しい現実に適応する能力は備えていると思われる。習近平は腐敗を無くすことに熱心のようだし、彼は行動の人と思われる」と答えられた。
如何なることが起ろうとなぜそのような偏らぬアプローチ(中道路線への暗示と思われる)が可能なのか、との質問に対し、法王は「現実的なだけだ。暴力を使うことは失敗を認めたことに等しい」と答えられた。
最後に、アメリカのホークシンガーであるピーター・ヤローが日本の「平和建設者」としての新世代を激励するために法王の言葉を使って「決してあきらめないで」というアンチいじめソングを作曲したということが告げられた。ヤローと法王は、もしも子供たちが幼い時にから、平和的であるべきことを教えらているならば、彼らは世界で他を思いやる、愛情深い平和構築者に育つであろうということことにおいて意見が一致している。
「もしも、勇気を失い、悲しみ、不平不満ばかり口にするなら、問題を解決することはできないであろう。祈るだけでも問題は解決できない。相手に向かい、暴力なしに交渉する必要がある。その時、自信を持ち、そして決して諦めないこと。もしも、非暴力的アプローチをとりながらも、内にためらいの心を持っていたならば、それは成功しないであろう。自信を持ち、努力を続けるべきだ。言い換えれば、決して諦めないということだ」。
「あなた方日本人は、第二次大戦の後、灰の中からこの国家を再建した。あなた方は決して諦めないということの重要性を示したのだ。ドイツも強い経済を再建し、成功した民主主義を育てた。だから、いかに得ることが困難であろうとも、決して諦めてはいけないということだ」と語られた。
筆者プロフィール
中原 一博
NAKAHARA Kazuhiro
1952年、広島県呉市生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。建築家。大学在学中、インド北部ラダック地方のチベット様式建築を研究したことがきっかけになり、インド・ダラムサラのチベット亡命政府より建築設計を依頼される。1985年よりダラムサラ在住。これまでに手掛けた建築は、亡命政府国際関係省、TCV難民学校ホール(1,500人収容)、チベット伝統工芸センターノルブリンカといった代表作のほか、小中学校、寄宿舎、寺、ストゥーパなど多数。(写真:野田雅也撮影)